「量」か「価格」か両方か【貿易収支調整の基本】
日米貿易協議の過程において日本政府はF35戦闘機を最大100機(約1兆円)で購入する方針を検討しているそうです。トランプ政権の溜飲を下げるための政策であることは言うまでもありません。貿易収支の調整(黒字ないし赤字の縮小)を進めるためには2つの方法しかありません。「量」か「価格」です。もちろん、両方でも良いでしょう。金額が「価格×量」で計算される以上、当然の話です。
「量」とは黒字国側が輸出数量を減らすか、輸入数量を増やすか、という話です。1980年代前半、日本の自動車企業が迫られた対応がそれでした。最も露骨で分かりやすい一手と言えるでしょう。先日報じられた戦闘機購入は輸入数量を増やすという文脈で理解可能であり、その単価も大きいことから貿易交渉のカードとしては小さくないものと考えられます。
一方、「価格」とは何でしょうか。これは関税であり、為替です。数量が変わらなくても販売単価に影響を与えるような動きならばやはり収支は動きます。関税を10%かけられたり、為替が10%黒字国通貨高に振れたりすれば、収支の均衡方向への調整を促すことが期待できるでしょう。ちなみに、今年に入って人民元安が大幅に進んでいますが、これは再三にわたって課されている制裁関税を相殺するための意図があるともいわれています(10%の追加関税が課されても、10%人民元安・ドル高に動けば一応はチャラです)。
日本においてはとにかく相手が為替に訴えかけるような展開だけは避けたいところです。いくら数量ベース(例えば特定の商品の市場開放など)の交渉で勝利しても、為替で仕返しされた場合、その返り血は極めて大きいものになりかねません。この点、第二次クリントン政権との貿易摩擦の最中、1ドル70円台までいってしまった事態については、その後の産業空洞化そしてデフレの遠因を招来したという意味で「試合に勝って勝負に負けた」と評価されるところでもあります。
今回、早々に防衛装備品の輸入という話が出てきている辺りに、当時と同じ轍は踏まないという教訓を感じるのは私だけではないかもしれません。価格、とりわけ為替に論点が及ぶ展開だけは日本の経済・社会環境に照らして避けたい所ですが、庇えば庇うほど先方に弱点として露呈するという皮肉が無いとも言えません。この辺りの基本ロジックを押さえつつ、今回の日米貿易交渉をウォッチしていきたいところです。
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