企業は「共感」とか狙わない方がいい。
共感がマーケティングのキーワードだった時代がある。
上の記事は2019年。
数年前まで、マーケティング界隈では至る所で「共感が大事」「共感の時代だ」と言われていた。今で言うと「パーパスが大事」みたいなポジションに「共感」という言葉が居た。
しかし、当時から違和感を持っていた人もいると思う。
少なくとも、僕はその1人だ。
今日はその背景を紐解いてみる。
■企業が「情報優位」だった時代
共感マーケティングの流行は、企業と生活者における「情報の主従」と深い関係がある。
スマホやSNSがこんなに普及する前、世の中にある情報は開かれたものではなかった。
情報は貴重で、握っているのは企業やメディアだけ。
だからみんな情報を得ようと思ったら、企業やメディアに頼るしかない。
今、世の中では何が起きているのか。
何が流行っているのか。
それを知ろうと、私たちはこぞって企業やメディアの持つ情報を消費していた。
それ故に、企業やメディアは自分たちの与える情報やモノを消費してくれる相手を「消費者」と呼んだ。
企業やメディアが、情報の主従関係において優位だから、そこに共感なんて求める必要はなかった。
■企業と生活者が「対等」になった時代
この10年。ネットとスマホが普及して、それまで企業やメディアによって独占されていた情報が民主化した。
いつでも大量の情報にアクセスできるスマホの普及率は激増。今やスマホを持たない人は「通信弱者」とまで言われるようになった。
企業やメディアが情報の送り手、消費者や視聴者が情報の受け手、という構造が崩れた。
マーケティング上でも消費者という表現は「生活者」に変わり、両者がはじめて対等になった。
■共感マーケティングの誕生
これまで情報主従で優位に立っていた企業やメディアだが、流石に自分たちの立場が危ういことに気づきはじめた。
それが数年前のこと。
「これまでの殿様商売じゃいけない」という焦りから生まれたのが共感マーケティングだ。
「情報を与えてあげる」という姿勢を改めようと、「これからは共感の時代だ」と、企業やメディアはこぞって共感が得られそうな情報を提供するようになった。
■情報の優位は生活者へ
そうこうしている間に、情報の主従は逆転した。
少し前までは消費者がメディアに「今何が流行ってるんですか?」と聞いていたが、今はメディアが生活者に「今何が流行っているんですか?」と聞いている。
テレビに出たことが流行るのではなく、流行ったことがテレビに出るようになった。
■もう共感では振り向かない
企業やメディアと、生活者はもはや対等でない。
当然「共感」も効きにくくなる。
もう共感で生活者を振り向かせるのは、正直しんどい。
こんな時代に、企業やメディアは何を届けるべきだろうか。生活者を振り向かせる情報とはなんだろうか。
答えの1つが「意志という情報」だ。
(この意志の「志」の部分が、最近の流行り言葉「パーパス」とも言い換えられる)
たぶん今、マーケティングは転換期で、むしろマーケティング(生活者起点で考える)という発想の終焉期でもある。
この時代を悲観する企業やメディアもいるが、僕は企業にこんなコンサルティングをすることがある。
「もう主従は逆転しちゃったんですから、言いたいこと言っていいんですよ」
今、生活者を振り向かせるのに必要なものは情報ではない。
意志であり、意見だ。
この時代に企業やメディアが生き抜くポイントは、共感時代を引きずらないこと。
共感を得ようと思って、意見を言う。
のではなく、
共感を得られなくてもいい、と思って意見を言う。
その覚悟が、生活者を振り向かせる。
共感を捨てられる覚悟がある企業か。
今の時代の生活者たちは、それを見極めようとしている。
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