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新しい氷河期を生まないために

たった半年で、何という差だろう。長く続いた売り手市場で就職活動を行った今年の新入社員にとって、洋々と迎えられたはずの4月入社は、コロナ危機ですっかり冷や水を浴びた。

専門学校は別として、大学などの高等教育機関で職業訓練が薄い日本では、入社すぐの数年は、長いキャリアの基礎を築く特に重要な時期だ。この時期に自律的に考える習慣や、組織をまたがる調整の仕方を学ばないと、いくら高い潜在能力を持った人材でも、花開けない。

いま30歳代後半から40歳代半ばまでの世代は、就職氷河期に働き始めたため、不本意な就職第一歩を踏み出した割合が多い。そのため、今になって私たち世代の「社会復帰」が社会問題となっているほどだ。

同様に、パンデミックの中で社会人生を始めるいまの若者世代も、リスクが高い。これからは、打って変わった就職不況が予想される。しかし、たとえ就職先こそ希望通りでも、20代で必要な基礎力を学べなければ、これから20年後には、中堅になっても実力の低い「困った世代」となる恐れがある。

幸い、これまでの日本では、新入社員は先輩の背中を見て育つことができた。時にプライベートな付き合いも含みながら、「あうんの呼吸」で働き方を学び、見よう見まねでビジネスマナーを身に着けていく。家族のように後輩の面倒を見る意識が、メンバーシップ社会の長所だろう。

ところが、就職した途端に在宅勤務では、このような下積みは難しい。しかも、長引くコロナ災禍で、これまでの「3密」ともいえる働き方が完全に戻ることはなさそうだ。

さらに、離れていても成果を可視化する圧力ゆえ、誰もが「時間の切り売り」に傾きやすい。特に人間関係も経験もない新入社員は、あたかも「社内ギグワーカー」のように、末端の仕事を片端から押し付けられることになりかねない。この状態が長続きすれば、彼ら・彼女らの行く先は暗い。いつでも代替可能なパーツとなってしまう。新しい氷河期世代の登場だ。

では、先行き不透明なコロナ不況の中、どうすればこの事態を避けられるだろうか?新入社員側と受け入れる組織側双方の意識改革が必要だ。

まず、新入社員は、背伸びをしてでも仕事の「全体感」をつかむ努力をすると良いと思う。離れていても他の人たちが何をしているのか、自分の請け負ったピースがどのように全体にはまるのかを考えてほしい。

分からなければ、特に社内のビデオ会議では、臆さず、素直に質問をぶつければよい。さらに自分の仕事を大局的にとらえ、いま社会で起こっている潮流と結びつけられれば上等だ。

一方で、若手を迎え入れる側にも、意識改革が欠かせない。自分たちが育った環境とは違う状況に置かれた新入社員たちは、「勝手に育つ」ものではない。短期の仕事を細切れで与えざるを得ないときも、あえて全体感に立ち戻って説明する努力が必要だろう。

ホワイトカラーの在宅勤務は、ワークライフバランスにとっては朗報だが、落とし穴もある。時間のゆとりを正直に「趣味と家族」にばかり使うことが、果たして正解だろうか?確かに、仕事の醍醐味となるクリエイティブな発想は、時間に余裕があってこそ。しかし、それは常に仕事を想う気持ちを持つことが前提にある。

先輩コンサルタントとして若いチームメンバーと接していると、この「仕事にちょっと前のめり意識」を持てるかどうかで、仕事の出来に差が生まれることが分かる。最初こそ小さいこの差は、長いキャリアのうちに雪だるま式に大きくなる。

長期化が予想される不況の中、若手を自立した戦力に育てられるかどうかは、日本の長期的な競争力を左右する。新入社員にとっては、将来のキャリアを左右する初期値がここ数年だ。迎える組織にとって、質の良い中堅層を育てられるかどうかが、ここ数年にかかっている。

確かに、リモートながら新入社員をきちんと育てるには、短期的には余計な時間も必要となる。しかし、働く環境が不可逆に変わったことを踏まえて、長期的な視野でエクストラの投資ができるかどうかが、いま問われている。

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