ロシア軍事侵攻で深刻化する「スクリューフレーション」
食品、値上げペース加速 1〜4月2.6倍の1万4000品目 - 日本経済新聞 (nikkei.com)
ロシアのウクライナ侵攻以降の日本経済は、中産階級の貧困化(Screwing)とインフレが重なったスクリューフレーション(Screwflation)がより深刻化しています。
というのも、ロシアの軍事侵攻以降の消費者物価は、贅沢品の価格が低下する一方、生活必需品の価格は急上昇しているからです。
そして、生活必需品は低所得であるほど消費支出に占める比重が高く、高所得であるほど比重が低くなります。このため、生活必需品の価格が上昇すると、低所得層を中心に購入価格上昇を通じて負担が高まることで実質購買力が低下し、富裕層との実質所得格差は一段と拡大します。
そこで、実際に所得階層別の消費構造に着目したCPIを確認してみました。下のグラフは、高所得者層の消費者物価として年収階層上位 20%世帯のCPIと、低所得者層の消費者物価として年収階層下位 20%世帯のCPIを時系列で比較したものです。現局面のCPIを両極端な二つの階層で比較すると、低所得者層のCPIは2022年に高所得者CPIより急激に上昇していることが分かります。
こうしたスクリューフレーションは地域格差も広げます。というのも、地方では自動車で移動することが多く、家計に占めるガソリン代の比率も都市部に比べて高くなります。また、冬場の気温が低い地域では、暖房のために多くの燃料を使う必要があり、電力料金やガス料金も燃料市況に連動するため、原油やガスが上がれば光熱費も増える傾向にあります。そして、電気は生活必需品であることから、低所得層のほうが高所得層に比べて消費性向が高くなっています。このため、相対的に低所得者層に対する負担が高まるという問題があるでしょう。
ロシアのウクライナ侵攻継続による世界経済の低迷が危惧される状況下、世界の食料・エネルギー需給は今後とも需要が供給を上回る状態が継続する可能性が高いといえるでしょう。
こうした中、日銀は中長期的な物価安定について「消費者物価が安定して前年より+2%程度プラスになる」と定義しています。しかし、輸入物価の上昇により消費者物価の前年比が一時的に+2%を大きく上回ってもそれは安定した上昇とは言えず、『良い物価上昇』の好循環は描けないでしょう。本当の意味でのデフレ脱却には、消費者物価の上昇だけでなく国内需要不足の解消が必要となります。そのためには、賃金の上昇により国内需要が強まる『良い物価上昇』がもたらされることが不可欠といえるでしょう。