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成長企業のバケーションポリシーにならう、有給休暇制度の改革

 日本企業の年間休日は平均で110日~120日、さらに有給休暇が20日以上与えられている。有休をすべて使えば週休3日に近いワークスタイルを実現することも不可能ではないが、実行している人は皆無といえるだろう。厚生労働省の「就労条件総合調査」でも、有給休暇の消化率は5割以下となっている。

国が推進する「働き方改革」の中では、休日を増やすこともテーマとして掲げられているが、年間休日が多いというだけで、ワークライフバランスに優れた職場というわけではない。たとえば、金融業界は営業日がカレンダー通りのため、年間休日は「120日」と、他の業界と比べても多い。しかし、日常は業務に忙殺されており、プライベートな旅行でなど長期休暇を取れる余裕は少ない。

一方、米国では「Unlimited Vacation」と呼ばれる、日数無制限の休日制度を導入する企業が増えてきている。動画配信会社のネットフリックス(Netflix)では、休日は無制限の取得することができ、就労時間も「朝9時から午後5時」のような定時が決まっているわけではなく、リモートで働くことが可能だ。最低限の義務は、与えられた仕事を決められた期日までに仕上げることである。

同社は1997年にDVDレンタル会社として創業した後、2007年からは動画配信メディアとして移行、現在は世界190ヶ国で1億人以上の会員にサービスを提供している。そうした成長スピードの中では、世界各国で採用する社員を就業規則で縛るのではなく、本人の自主性に任せたワークスタイルを構築していく必要があった。

■アジア地域で働くNetflix社員のインタビュー映像

実際のところ、柔軟な休暇ポリシーにしたほうが、社員は熱心に働く傾向があり、任せられたプロジェクトを完結した後に、数週間の海外旅行に出かけるような休暇の取り方をしている。「休日無制限」は、求人案件の中でも注目度が高い待遇であり、有能な人材が集まりやすいメリットもある。

そもそも、現在の労働時間(週40時間)や休日制度は、戦後の工場労働者が過剰労働に陥らないために整備されてきたものだ。しかし、場所や時間の制約なく、リモートワークができる時代になると、これらの規則が逆に“縛り”となって、柔軟な働き方をする上での弊害になってしまう。そこに気付いている海外企業は多く、休日ルールを取り払うことで、社員の満足度と、業績拡大のスピードを高めている。

【無制限バケーションポリシーの作り方】

 米国でも、一般的な企業の休日数は上限が決まっていて、週休に加えられる有給休暇は平均で13日、年末年始などの休暇は8日前後となっている。しかし、それでは休みが少なく、社員のパフォーマンス向上や、優れた人材を採用しにくいという理由から、日数制限のない有給休暇制度を導入する会社が出てきているのだ。

ただし、従業員に権利を乱用されないために、実際の運用には細かな条件設定(バケーション・ポリシー)をしている。まず、就業規則の中で「有給休日無制限」の権利を獲得できる従業員の条件を決める。たとえば、勤続年数が3年以上で、一定以上の成績を出していると評価された人材、などだ。

また、休暇目的のポリシーを定めることも重要で、数ヶ月を超すような長期の休暇は、育児や介護、ボランティア、病気の治療、人生をリフレッシュするための旅行、キャリアアップのための通学などのために使われることが望ましい。理由のない長期休暇には使えない規則や、何日までの休日は有給で、それ以降は無給になるのか、などの規約も明記する。

休日制度変革の背景にあるのは、現代の仕事では、オンとオフが区別しにくくなってきたことがある。仕事中にSNSでプライベートな投稿をして、それが新たなビジネスのチャンスに繋がることもあるし、自宅から仕事をする時間帯は、個人の裁量に任せたほうが生産性は向上する。

現実には、いきなり無制限の休暇制度を満喫できるのは者は少ないため、段階的なリモートワーク制度を導入して、その中で実績が評価できる人材に対して、休日の取得条件を緩やかにしていくケースが多い。 そのため、リモートワークの普及率が高まることで、次第に有給休暇制度の常識も変化していくことになりそうだ。

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