シリコンバレーで話題のプライバシー重視の有料電子メールサービス、「Hey」が目指していること
初めてGmailのアカウントを取得した時のことを覚えてますか? 私が16年前に初めてGmailのアカウント取得した時には、メールの容量がほぼ無限にあって、届いたメールをフォルダに振り分けなくていいこと、そしてメールの履歴がその後ずっとクラウド上に保存されることに驚いたことを懐かしく思い出します。
それから長い年月が経ち、今ではチャットサービスのSlack、Teams、あるいはFacebookのメッセンジャーやLINEでのやり取りが中心になって、メールを使うことがめっきり減った、と感じている人も多いかもしれません。
とはいえ、重要な仕事上のやり取り、仕事の問い合わせ、eコマースで何かを購入した際の領収書の受信、そして世代を越えた大切な友達、家族からの便り、最近注目を集めつつあるメールニュースレターなど、メールの重要性は未だに色褪せないのではないかと思います。
一方で、メールを使っていると、スパムメール、或いは知らない人からの売り込みのメール、名刺交換した直後にメルマガを送付されるなど、望まないメールの受信経験を持っている人も多くいらっしゃると思います。
さらに、今日もっと大きな問題として懸念されているのが、大手テクノロジー企業によるトラッキング技術、洗練された広告テクノロジーによって自分のメールの開封時刻、既読、使用デバイスなどの行動履歴やプライバシー情報が細かく収集され、ターゲティング広告等に利用されていることです。
前置きが長くなりましたが、メールにまつわる様々な課題を解決するための有料メールサービス(年間99ドル)の「Hey(www.hey.com)」が6月15日にリリースされ、シリコンバレーなどのテックコミュニティを中心に大きな話題になっているようです。
Heyを開発したのは世界で330万人の顧客を持つプロジェクト管理ツール(&社名)「Basecamp(ベースキャンプ)」の共同創業者のジェイソン ・フリード氏、デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン氏です。国内でも邦訳版が出版されている『強いチームはオフィスを捨てる(原題:Remote)』の著者として生産性向上、ライフハッキング業界の有名人として認識している人も多いかもしれません。
Heyは現在招待者でなければ登録できず、創業者も誰もが利用するサービスを目指してはいないと語ってましたが、招待リストはリリース直後の現在、5万人以上とThe Vergeの記事で報じられていて、既に大きな注目を集めていることが伺えます(招待コードを得るにはこちらのページに記載されているメールアドレスにリクエストを送付することで順番待ちのリストに登録されます)。
[Update]6/26には招待制は終了し、誰でもすぐにアカウントを開設できるようになりました(最初の2週間で12万人もの招待コードのリクエストがあったそうです)。
創業者の二人が早い段階からリモートワークをブログや著述で提唱していたこと、デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン氏がWebアプリケーションフレームワーク「Ruby on Rails」の作者であり、テック業界で既に多くの人から尊敬されている存在であることも関係するかもしれません。
Heyの主な機能はホームページや解説動画で紹介されています。
1. 電話の着信番号が表示されるように、どのメールを受信するか、コントロールができる点
2. 同じトピックに関する複数のメールのスレッドがある場合にそれらを一つの束にまとめることで管理がしやすくなる点
3.大容量のファイルを送る際に簡単に送付できる点
4.「集中して返信」というタブに振り分けておくと、後でまとめて返信することに特化した一覧の画面が表示され、いちいちメールを行ったり来たりしなくてもまとめて返信ができる点
5. メールのやり取りに自分専用のメモを記入することができる点
6. 返信が必要なメール、ニューズレターのよな読むだけのメール、領収書等の保管用のメールなどを振り分けることで重要なメールの見落としを防ぐことができる点
7. 添付ファイルのみを一覧表示し、検索して簡単に見つけることができる点
8. メールのトラッキング機能が含まれているメールを受信した場合、どのツールがどのような情報を収集しているかを表示し注意喚起ができる点
↑こちらのHeyの紹介ビデオでは実際にどのような機能が実装されているかを見ることが出来ます。
新型コロナウィルスの影響で「リモートワーク」に取り組み、「新しい働き方」のあり方を見つけるべく多くの人が試行錯誤しています。現在56名の全社員がリモートワークで働き、先日本社もなくすという決断をしたベースキャンプ社による、これまでの先端的で効率的な働き方をのエッセンスが詰まったサービスという点で、「Hey」を使ってみたいと思う人もいるのではないでしょうか?
業務の生産性向上という点に加え、プライバシー保護のための果敢な取り組みとしても、「Hey」の取り組みは今後大きな注目を集めるのではないかと個人的には感じています。
普段どのメールサービスを使っているかはあまり話題になることもないとは思いますが、わたしはGmailの登場から16年月日を経て、ぜひ試してみたい思っています。現在使用している会社メールアドレスやGmailへの転送設定を行うことで並行利用ができると思われます(メールアドレスを変更せずとも)が、いずれ実際に使用してみたらまたレポートしてみたいと思います。
先日配信されたHeyのジェイソン・フリード氏が登場するポッドキャストでは、むやみにZoom会議を行うことで非効率が蔓延していることを指摘しています。チャット・サービスなどでの「即レス」にプレッシャーを感じる働き方よりも、自分の集中できる時間帯に、落ち着いて文章や資料を読み込み、しっかりとした返信、文章を書くことができるメールの重要性を説いてます。
Update: HEYについてのQ&Aアーカイブ動画
Photo by Stephen Phillips - Hostreviews.co.uk