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変わり続ける旅客航空ビジネス

昨年から、海外渡航の頻度を高めている。あらゆる分野で変化のめまぐるしい昨今、改めて世界の動きをよく見た上で、主に日本企業である自社の顧客に対してどのような提案やアドバイスを差し上げるのが的確であるかを見極めておかなければ、というのがその理由だ。

過去に足繁く海外に出ていたのは10-15年前頃だが、その頃と比べ、旅客航空ビジネスが大きく変わったことを痛感する。何より違うと感じるのは、座席の埋まり具合。今では、多くのフライトが満席に近い状態で飛んでいるという実感がある。かつては、後方の列であれば空席が目立ち、一人で3-4席を独占し、「貧者のファーストクラス」などと称して横になって寝ていけるのも必ずしも珍しいことではなかったけれど、最近は隣の席が空いていればラッキー、という感じだ。


アップグレードも、エコノミーの予約を座席数より多めにとって空席を減らすことを目指す「オーバーブッキング」がかつては常態で、想定よりも多くの乗客が来てしまうと、あふれた一部の客がビジネスクラスの席を無料であてがわれるという「インボラアップグレード」がそれなりにあった。しかし今ではそういう話を以前のようには聞かない。航空会社の座席販売の予測精度が上がってオーバーブッキングが発生しにくいこと、旅客のニーズと飛行機のサイズ(座席数)のマッチングが適正化され無駄に大きな機材が使われることが減ったことに加え、空いている上位クラス(プレミアムエコノミーとかビジネスとか)を、エコノミーの航空券を持つ客に対して、事前に有料でアップグレードするオファーを出すという販売手法も一般的になった。航空会社によっては、乗客に入札させて、高い値段をつけた順に上位クラスへのアップグレードを販売する、という手法をとるところもある。

こうして、かつては多くの航空会社で必要とされた、出発の数日前までに自分が搭乗することを確認する「リコンファーム」という手続きをすることもほぼなくなり、この言葉も旅行者の間では馴染みのない言葉になりつつある。

これもオンライン予約が当たり前になった結果の一つだ。以前であればチケットを手配した旅行会社に対して一定のコミッションが支払われていたが今はそれもなくなり、旅行会社は航空チケットを売るだけではビジネスにならなくなってしまった。同時にネットの発達と普及で一般の乗客が自分で航空券をネット上で買うことが当たり前になり、LCCの台頭もこうした動きに拍車をかけた。

この他にも、運行機材の性能向上によって路線網作りの考え方が変わり、ジャンボ機のような大型機で巨大ハブの間を飛ぶ路線よりも、小さめの飛行機でダイレクトに結ばれるハブ以下のサイズの空港の路線が増えたり、同じアライアンスに属する航空会社が共同事業を始めたり、と、この20年にも満たない間に旅客航空ビジネスが激変したことを、ざっと振り返っただけでも感じる。

国内のルールで動いていても、海外のプレーヤーがどんどん変わっていき、そうした会社が自国にも乗り入れてくるので、自分の国だけで通用するルールでビジネスをすることが難しいのも航空ビジネスの特徴だろう。

翻って、国内のルールだけで動いていてもさほど影響を受けない業界はどうだろうか。この20年でこれほどの変化を受けてきただろうか。もちろん、航空業界でも、今後も変化は続いていくし、盛者必衰という言葉がある通りで今はうまくいっている企業でも将来については予断を許さない。ただ、国内だけを見ていればいい、という業界でないだけ、これからの変化への対応力は、他の業界よりも強いかもしれない。

一つ興味深く思うのは、ANAが最近になって、エアバスの超大型機A380を新規導入してハワイ線に就航させた動きだ。成田に行ったら、たまたま見かけたのが冒頭の写真。

A380はジャンボ機全盛時代の延長に航空産業の未来を見定めてエアバスが開発した飛行機。同時期に、反対にジャンボ機よりも小さい航空機が多頻度多地点間運行をする未来を見定めてB787を開発したボーイングと、対照的な未来像を描いていた。

A380もB787も初期のトラブルに悩まされたことは同じだったが、B787は引き続き受注と生産が続くのと対照的に、A380は受注が伸び悩み、2021年をもって生産を終了することが発表されている。

こうした超大型機A380を、最後発といってよいタイミングで導入するANAが、この機材を生かしきれるのか、非常に興味深い。一方、多頻度の小型機運行には、空港の発着容量の制約や、自動運転ならぬ自動操縦で無人運行が可能にならない限りパイロットの人手不足の問題がつきまとう。この両者の問題が将来的にどこでバランスしていくのか、ということも興味深いテーマである。

航空輸送の問題は、ビジネスを始めとした人的交流のあり方に大きな影響をもつだけに、引き続き興味と関心の尽きない話題だし、どのようにして限られた予算を有効に使って安全快適で疲れの少ない旅をするか、その手法もアップデートしていかなければならないと改めて思う。

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