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地方発ユニコーン企業が明日の日本を創り出す(番外)【eスポーツ編】

「中学生にもなって、テレビゲームなんてくだらないものをやっている奴はいない。お前はそんなんじゃろくな大人にならないぞ。」

子供の頃にそんなことを言われた経験をもつ人は多いのではないだろうか。上記の言葉は、筆者がお受験の末に入学した中学校の担任に言われた言葉だ。そのとき、「これからPCの時代だと言うのに、1番身近なコンピュータを否定するなんて何言っているのだろう?」という反応をしていたのだから、我ながら可愛げのない13歳だった。

そのようなテレビゲームも、今や一大産業だ。しかも、日常の娯楽としてではなく、プロスポーツとして新たな産業が生まれてきている。アジア五輪の試験競技にも採択され、日本国内でもeスポーツの注目度は上がっている。

筆者がここで声を大にして言いたいのは、eスポーツは3つの観点から地方都市でこそ注力すべき産業だということだ。本稿では、なぜ地方都市でこそeスポーツを新興すべきなのかについて論じていく。

1.  eスポーツは地方プロスポーツの財政基盤を強化できる

TV等でeスポーツ関連のコメントを聞いていると、「ゲーム大会の大きくなったもの」という説明がなされることが多い。賞金総額が億単位まで膨れ上がった大きなゲーム大会というイメージは、おそらく日本のゲームが世界市場の花形であった90年代のイメージの影響が強いのだろう。梅原 大吾選手が、カプコンの2D格闘ゲーム「ストリートファイター」で世界大会を勝ち抜く姿は、当時ゲームセンターに入り浸っていた中高生を熱狂させた。

しかし、現在のeスポーツゲームの界隈は当時とは大きく様変わりしている。その理由は、eスポーツがチームスポーツ化していることだ。日本国内で注目されている、ストリートファイターやマリオカートなどのゲームタイトルは個人戦が多いが、世界的に見ればマイナーである。現在、1億人以上のプレイヤーを抱えるリーグ・オブ・レジェンドなど、eスポーツの主流はチームを組んで対戦相手を戦うゲームだ。

チームで戦うということは、勝ち抜くためには高度なマネジメント体制が必要となる。そのため、世界のプロチームはサッカーや野球のチームのように、コーチや監督、リクルーターやマーケティング・プロモーターなどを持つ。つまり、eスポーツは高度な組織力とマネジメント技術が求められる、新たなエンターテイメント産業であると言える。

そのような組織的なプロスポーツチームを運営することができる経済的余裕が地方都市にはないと思うかもしれない。しかし、日本は世界有数の地方プロスポーツ普及国である。宮崎県と和歌山県を除くすべての都道府県に1つ以上のプロスポーツチームが存在している。eスポーツを既存の地方プロスポーツチームと組み合わせることで、地方のプロスポーツ産業を強固なものにすることが期待できる。

地方プロスポーツの大きな限界は、試合数と試合時期が限られて、尚且つテレビで全国中継されないということだ。そのため、広告効果が限定的でスポンサー企業を集めることが難しく、興行収入を増やすことが難しい。また、グッズ販売なども地元都市の市場規模に寄ってしまう。

しかし、eスポーツはこれらの限界に制限されない。第1に、季候や天候による影響を受けないため、プロスポーツの開催されない冬場にも競技を行うことができるので、既存プロスポーツのオフシーズンの穴埋めをすることができる。しかも、プレイヤーへの身体的負担が少ないので、試合数も増やしやすい。第2に、観客数に関しても、インターネットによる中継が容易であるため、試合中継を楽しむ母集団を増やしやすい。第3に、ファンが増えると、グッズ販売の購買層も拡大することができる。最後に、eスポーツは恒常的な収益ビジネスを立ち上げやすい。海外のeスポーツチームの多くが、バーやカフェ等のファンが集うコミュニティ・スペースを経営している。地方都市の繁華街の活性化にも役に立ち、地元に密着したビジネスとの相性も良い。

これらの既存のプロスポーツにはない特徴から、eスポーツは既存のプロスポーツ団体のサブチーム(例えば、「大分トリニータ_eSports」のような)としてスタートさせることで、地方プロスポーツの財政基盤を強めることができるだろう。


2.  eスポーツ関連の急成長ベンチャーはゲーム会社とは限らない

eスポーツは世界的に急拡大しているビジネスであるため、関連したユニコーン企業もある。CBインサイトの公開するユニコーン企業290社のうち、テレビゲームと関連する企業は6社あり、そのうちゲーム開発会社は2社(『ポケモンGO』のNianticと『FFXV:新たなる王国』のMZ)だけだ。それでは、残りの4社はどのような事業を行っているのだろうか?

2-1. ゲーマー向けボイス&テキストチャットアプリ「Discord」

eスポーツで主流とされるゲームのほとんどがチーム戦を前提としてデザインされている。そのため、試合中のチームメイト同士でのコミュニケーションが重要であることは、サッカーや野球などの肉体を使うチームスポーツと同じだ。Discordは、そのようなチーム戦でのコミュニケーションを円滑に行うことを目的として、ゲーマー向けに特化したボイス&テキストチャットアプリを提供している。

2-2. 子供が自由にゲームを作り、5000万人以上の子供が遊ぶゲーム開発プラットフォーム「Roblox」

Robloxは、レゴのような素材を使ってユーザーが自由に3Dゲームを作り、オンライン上で公開し、他のユーザーが気に入ったゲームを遊ぶというゲーム開発プラットフォームだ。主な対象は、小学生や10代の子供たちであり、1500万以上のゲームが子供たちの手によって作り出されている。ゲーム内ではアイテムを販売することも可能で、2017年には総額で約32億円がゲームを開発した子供たちに支払われている。ゲームでありながら、起業家を育成する教育ツールにもなっている。

2-3. ゲームだけではなく、アニメ制作や医療・建築にも革命を起こした開発環境「Unity」

Unityは、ゲーム開発のプラットフォームだ。スマホ、タブレットなど、テレビゲームを楽しむデバイスが増える中で、ゲームのように高度な映像描写や物理演算を必要とするプログラムをデバイスやOS毎に作ることはコストがかかることでした。そこで、開発に必要な機能を予め用意したゲームエンジンを内包し、様々なプラットフォームに対応した開発環境として使われるのがUnityです。その汎用性の高さと使いやすさはゲーム開発だけではなく、アニメ制作や建築、医療のXR分野(MR、VR、ARの総称)などでも活用されています。

2-4. 仮想世界の開発を強力に支援する「SpatialOS」

Improbableは、サードパーティがバーチャルでシミュレートされた世界を構築するためのプラットフォーム「SpatialOS」を開発している。「数千人」に及ぶ同時プレイヤーを対象としたVRゲームなど、ゲームエンジンと組み合わせて大規模で複雑なゲーム世界を構築することを可能にする。SpatialOSを活用することで、eスポーツは全世界のプロプレイヤーが同時に競技を行うことも可能となる。それこそ、五輪競技としてスターウォーズのような大規模宇宙戦闘が採択される可能性もある。

2-5. eスポーツは発展途上の産業

eスポーツに関連するユニコーン企業を見てみると、開発環境のプラットフォームやプレイヤーのためのツールを提供する補助的なビジネスが多いことがわかる。このことは、eスポーツやゲーム業界はまだまだ発展途上の部分が多く、技術の発展に対して開発者やプレイヤーが不便だと感じている分野が多数あることが原因として考えられる。

このようなプラットフォームやツールを提供するために、都会か地方かといった土地による制限はあまりない。UnityやSpatialOSのように技術革新の伴うビジネスは世界レベルの大学や研究機関と協力体制を築く必要があるかもしれない。しかし、課題に対して適切なソリューションを考え出すことで、市場に大きな影響力を持つプロダクトやサービスを生み出すことは可能だろう。Skypeをゲーマー向けに特化したDiscordや、Youtubeをゲーマー向けに特化したTwitchなど、既存のWebサービスをゲーマー向けに特化することで成功を収めている企業は数多い。



3. eスポーツはインバウンド観光の「稼ぐ力」を強化する

地方都市に住んでいて強く感じることは、外貨を稼ぐ意識の弱さだ。ここで言う外貨とは「海外からの収益」のことを言うのではなく、「地方自治体外からの収益」である。地方活性化を考えるのであれば、地元の外から収益を獲得するビジネスを生み出さなくては経済規模や地域内のキャッシュフローは拡大しない。

そういった意味で、地方都市で最も外貨を獲得する手段として期待されているのはインバウンド観光だろう。しかし、地方都市のインバウンド観光は観光客数は増えているものの、肝心の滞在日数と一人当たり消費金額は低迷したままだ。つまり、地方都市に来てもお金を使わず、すぐに都市圏に帰ってしまう。現在のインバウンド観光には、地方都市の「稼ぐ力」が足りていない。

eスポーツはインバウンド観光と相性の良い産業だ。

その理由の1つは、eスポーツの主な市場が海外であるため、インバウンド観光客を誘致するときのコンテンツとなりうる。サッカーやラグビーのように世界大会を開催することで観客を呼び込むこともできるだろう。

例えば、ブリザード・エンターテイメントが開発したカードゲーム「ハースストーン」の世界大会は台北の専用スタジアムで開催されるが、全世界から観客が押し寄せ、全世界で中継されている。

また、eスポーツはインターネットとゲーミングPCがあればプレイ可能であることが多い。ホテルに戻った後のアクティビティや夜のエンターテイメントとして、eスポーツを楽しむこともできるだろう。

外国人観光客の不満の1つとして、日本観光は日中で終わるものが多く、夜のアクティビティが少ないことがあげられる。アジア諸国では、夜中でも賑やかなナイトマーケットを楽しんだり、カジノに行き、旅の空で羽を伸ばしたりするなど、夜のアクティビティが盛んだ。しかし、日本の観光地の多くは外国人向けの夜のアクティビティが整備されていない。

観光資源としてのeスポーツは海外で注目を浴びており、"eSports Tourism"は新たな観光の形として期待されている。

eスポーツはPCとインターネットさえあれば楽しむことができ、しかもほとんどのタイトルで日本をモチーフにしたコンテンツを有している。比較的安い初期投資で、外国人観光客向けのアクティビティを提供することができる。なにせ、日本のインフラ整備は素晴らしく、ほぼ日本全国どこでも高速インターネットを楽しむことが可能だ。日本に来たインバウンド観光客が、日本人のeスポーツ・プレイヤーと友情を結ぶこともあるだろう。


eスポーツは、①地方プロスポーツの収益構造の強化、②地方発ベンチャー企業のビジネスモデル、③インバウンド観光のアクティビティ、として地方都市を活性化させる大きなポテンシャルを秘めている。地方都市こそ注力すべき新産業であり、地方が生き残るための勝利の鍵の1つだ。時代の流れに乗って、地方の新産業としてeスポーツが花開くことを期待している。

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大分大学経済学部の講師をしています。採用や育成などのタレントマネジメント、地方創生・地方発起業などの話題を取り上げていきます。※日経電子版キーオピニオンリーダー ※多様な意見を尊重したく、コメント返信は原則控えています。質問はTwitter(@IkariOita)へお願いします。