ビジネス渡航にPCR検査 行動計画も義務付け
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の検査について「とにかく検査が受けられない」というクレームがおさまらない状況が続いていましたが、記事のとおりビジネス渡航にPCR検査が具体化するようです。
そもそもPCR検査は感染症内科領域では感染症の最終診断をする「精密検査」の位置づけであり、高額で手間や時間もかかるため、多くの感染症で保険適用になっていません。しかし、COVID-19はこの世に誕生したばかりの新型ウイルス(SARS-CoV-2)による感染症であり、診断するためのツールが研究室レベルのPCR検査しか選択肢がなかったために、当初はすべての患者さんで実施されてきました。最近は感染者数もだいぶ抑えられており、その一方で抗原検査など検査方法の選択肢も広がり、検査体制も強化されつつありますので、以前に比べれば検査を受けられずにたらい回しになるような事態は少なくなってきているように見受けられます。
その一方で、健康な方をはじめ、感染が不安だから、他の人にうつすのが怖いから、持病があるから、などの理由でPCR検査を希望される方は後を絶ちません。このような状況の中で、健康状態には全く問題のない海外渡航者へのPCR検査を推進するような方針は妥当な判断なのでしょうか。確かに諸外国では水際対策の強化のために入国時にPCR検査を義務付けているところもあり、日本でも空港検疫所でもこのような体制を整えています。
しかし入国の数日前に検査を行ったとしても、あくまで検査の実施日には陰性であっても、入国日に陽性になる可能性もある訳です。それなのに、検査陰性証明書を求めて多くの海外赴任者(実際には現在一時帰国中で帰任予定者)がトラベルクリニックである私の診療所にやってきます。しかも「COVID-19ではないことを証明して欲しい」と希望されるのですが、医学的な根拠からすれば「検査をした日にSARS-CoV-2が検出されなかった」ことは事実として明記できますが、「COVID-19でないことの証明はできない」訳です。しかしながら相手国の対応に従わなければ入国はできないので、依頼があれば仕方がなく根拠の乏しいことを連日行っているのが少々虚しくなります。これはインフルエンザの治癒証明書を要求する会社や学校と同じで、何とかならないものかと思います。
そもそも日本はまだCOVID-19が完全に収束した訳ではなく、いかなる理由の海外渡航自粛も解除されていないと理解しています。症状のある方のために検査体制の充実化を図ってきた矢先にこのような方針が突然打ち出されるのには少々疑問を感じます。