経済対策の効果と所得減税と消費減税の効果の違い
岸田首相「来夏に物価高超す所得増」 17兆円の経済対策 - 日本経済新聞 (nikkei.com)
岸田首相は、17兆円の経済対策の中で所得税などを定額で4万円減税し、非課税世帯には7万円程度を給付することで、総額5兆円規模の還元を目玉政策としています。そして、17兆円規模の経済対策がしっかりと執行されれば、24年度の実質GDPを+0.6%程度押し上げられると試算されます。
この政策と正当化するとすれば、特に世界経済が40年ぶりのインフレに直面する中で、政府が税収を民間部門から徴収しすぎているという見方が背景にあるのでしょう。というのも、政府部門は、コストプッシュとはいえ物価が上がっていることを背景に消費税収や所得税収が増えやすくなることで、結果として国民経済が苦しい割には税収が増えやすくなっています。また、円安が進展することでも、短期的に家計の負担感が強まる一方で、グローバル企業の法人税収増加や物価上昇に伴う消費・所得税収の増加を通じて税収の過剰徴収につながりやすいこともあります。
しかし、一般的に給付金や所得減税分の一部は貯蓄に回ることから、我が国では所得減税よりも消費減税の乗数の方が高いことが知られています。事実、内閣府の短期日本経済マクロ計量モデル(2022年版)の乗数をもとに、所得減税と消費減税の5兆円減税効果を比較すれば、消費減税の方が1年目に2倍以上も大きくなることがわかります。
一方、足元の消費者物価指数のインフレ率を要因分解すると、+3%程度の伸びのうち+2%ポイント程度が食料品の値上げで説明できます。足元の食料品の物価指数が前年比で+9%程度上昇していることからすれば、コストプッシュインフレの主因である食料品の消費税率を英国などのようにゼロに下げれば効果的でしょう。
他方、仮に迅速な還元を優先するのであれば、給付金のほうに分があります。また、コストプッシュインフレの直接負担軽減やGDP押し上げ押上効果を優先するのであれば、政治的ハードルは高いでしょうが、食料品の消費税率引き下げの経済合理性のほうが高いといえるでしょう。そして、そもそも増税イメージの払しょくを最優先するのであれば、一時的な減税よりも、インフレによる恒常的な税収上振れを活用した防衛増税の撤回や、すでに岸田首相が自民党総裁選での討論会で発言している「消費税10年上げず」を再度徹底するほうが効果的だと思います。