長引くコロナ「幻滅期」に、メンタルヘルス危機対策が必要
コロナ危機が人の心理に及ぼす影響は、自然災害のそれに例えられる―初期は、衝撃を受けながらも団結が高まり、一種の集団ハイが起きる。突然リモート勤務になった会社員も、朝から晩までビデオ会議を詰め込み、高い緊張感の中、普段の数倍速で仕事をした覚えがあるだろう。
しかし、この高揚はどうしても長続きしない。どこかで疲れが出てくる。また、時間が経つにつれて、状況に大きな個人差が現れる。災害でも、隣町で難を逃れるなど、ほんの少しの差が運命を分ける。いち早く立ち直ったひとは、早く平常に戻ろうとする。一方で、そうできないひとは悩み、鬱に陥る可能性が高い。このような時期を「幻滅期」と呼ぶそうだ。
コロナの傷口はさまざまだ。感染という直接的な影響のほかに、経済的な問題を抱えるひともいるし、外出自粛によりDV含む家庭問題が悪化する場合もある。子供が一定期間自宅待機したために、学校へ行く習慣をなくし、そのまま登校拒否になるケースが増えている。私の周りにも、リモート疲れを訴えるホワイトカラーは多い。
この「幻滅期」の始まりを示唆するかのように、足元の自殺件数が増えていることが心配だ。幸いなことに、日本の自殺者数は、去年まで10年間にわたり、減り続けていた。しかし、今年に入り、6月までは去年を下回ったものの、7月よりじわり増え始め、8月には前年比16%増、9月の速報値も9%増である。例年は、自殺件数は3-5月が高く、年の後半は低い傾向にあるが、今年に限って、7月からの件数が高止まりしているのだ。
政府は第三次補正予算を組み、経済の底割れを防ごうとしている。しかし、GoTo対策など需要喚起対策は、経済的または心理的に「置いて行かれる」ひとたちの悩みに拍車をかける副作用があることを忘れてはならない。世間はもう通常に戻っているのだから、旅行や外食を「楽しまなくてはいけない」という空気と、個人的な悩みや安全を心配する気持ちのはざまで、神経がすり減ってしまう。
コロナの年となった2020年は残り僅かだ。しかし、いまからの幻滅期は来年、さらにその先へ尾を引くだろう。国や自治体、民間の努力によって、コロナ危機がメンタルヘルス危機になることを食い止めなければいけない。
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