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高齢化が進行し人手が不足する問題への、AI普及のインパクトをどう考えるか~新しい中間層はAIに~

私もAIに詳しいわけではないものの、使い始めてしばらく経つ。その変化は目まぐるしく、追いつくのに精一杯というよりは、そもそも追いつけているのかすら怪しい。しかし、おそらく生成AIを全く触ったことがない人にとっては、無料版の生成AIでも返してくるアウトプットに驚くのではないだろうか。

一方で、生成AIは単にユーザーが増えているから、需要と供給の関係で価格が上がっているだけではなく、コストが高いために値段も上がっているという。OpenAIの月額約3万円(200ドル)の高額な有料プランが話題になっているが、それでもユーザ-が機能をフルに活用すると収益が出ない状態だとも言われる。

今後、生成AIの技術が進化することでコストダウンが進み、コストが下がっていくのか、それともさらに高額になっていくのかはまだ分からない。ただ、おそらく一定のコストはかかり続けると考えるべきだろう。そうなってくると、「人を雇うのか、AIに支払いをするのか」という選択肢に近づいていく

例えば、月額3万円を考えると、時給1,500円の人を20時間雇うことができる。仮に、3万円で使えるAIのアウトプットが人間と同等であれば、月額で考えるとアルバイトを雇うよりもはるかに安く済む。しかも、必要であれば24時間働かせることができ、風邪をひいたり体調を崩したりすることもない(不具合が起きることはあるかもしれないし、回答がいつも正確だとは限らないが)。

そう考えると、事務職の求人が激減しているという話にも納得がいく。現在の生成AIの能力は、人間でいえば新卒入社から数年目程度の事務職のレベルに達しているのではないだろうか。そうなると、いわゆる「ミドル」の仕事をAIがこなす日も、それほど遠くはないかもしれない。仮にAIの利用料が月額10万円になったとしても、人を雇うよりも安くなる可能性は高い。この状況が進めば、人間とAIが仕事を奪い合う時代が本格的に到来することになるだろう。

この時、人間がAIに勝つためには、AIではこなしきれないほど幅広い業務を担えるか、もしくはAIのアルゴリズムや学習の基礎となる過去のデータからでは導き出せない、極めて革新的な発想やアイデアを生み出せるかどうかが鍵になる。そうでなければ、「AIに支払う額以下の賃金で働く」という選択肢しか残らなくなる可能性もある。

このように考えると、過去の意味での「中間層」は、将来的にAIが占めることになるのかもしれない。これまでの日本の社会は、中間層と呼ばれる人々によって支えられてきたと言われるが、その層がごっそりと抜け落ちる可能性がある。税収の面だけを考えても、現状ではAIに所得税のような課税がないため、労働者が減れば税収も大幅に減少する。単に高齢者が増えて支出が増える一方で税収が落ち込むという話だけに注目していると、この大きな変化を見落とし、誤った政策判断を下すことになりかねないのではないだろうか

現在、人手不足が叫ばれているが、中間層の仕事がAIに置き換わることで、将来的には「人余り」の状況が生まれるかもしれない。こうした人々がスキルアップし、AIには出せない価値を提供できるようになればよいのだが、果たしてそれが現在の中間層の大多数から移行できるほどの規模で可能なのかは疑問が残る。

そうなると、自国の弱い産業に対して補助金を出したり関税をかけて保護するように、人の労働に対して補助金を付加するとか、あるいはAIを活用して人を雇わない企業に対する課税を行うといった政策が必要になるのかもしれない。

しかし、この記事の財政不安の項目を見ても、AIの影響には全く触れられていない

フィジカルな動きを伴う仕事、いわゆるブルーカラーや肉体労働系の仕事は、ホワイトカラーの事務職よりも置き換えられるまでの時間的猶予があるかもしれない。しかし、AIとロボットの組み合わせによって、人間と同じようなフィジカルな仕事をこなせる技術開発も進んでおり、この領域も時間の問題と言える。ここでも、「AI+ロボット以上の働きができるかどうか」によって、人間に残される仕事の範囲が決まっていく

そう考えると、ホワイトカラーであれブルーカラーであれ、定型業務をこなすことを前提に最適化された従来の教育を根本から見直さなければ、人間が労働力として存在する意義すら失われてしまうのかもしれない

もちろん、AIの普及が人間にとってマイナス面ばかりをもたらすわけではない。ただ、AIの進化、高齢化、人手不足といった問題をリンクさせて長期的視点で議論する機会はまだ少ないように思う。それぞれが個別最適な対応を進めることで、全体としては最適でなくなるという事態を避けるべきだ。我が国は、財源も人手も限られたリソースの中でこの問題にどう向き合うか、早急に考える必要があるのではないか。

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