なぜ不正会計は見抜けないの?〜実例から見る巧妙さ〜
今日のテーマは粉飾決算です。ちなみに、粉飾決済と不正会計の違いはなんだと思いますか?それは、司法がどう判断するかが要であり、悪質性などの有無を実証可能かどうかが影響するようです。なので、メディアで不適切会計と記載されている案件は、その判別が難しいケースのようです。
そうした不適切会計や粉飾決算を見抜くために、ビジネスパーソンや投資家が抑えたいポイント、「日経CNBC 昼エク 崔真淑のサイ視点」で伺いました。そこでの最低限のエッセンスを、本コラムでまとめていきます!ゲストはGOB Incubation partners CFO 村上茂久さんです。村上さんは、10年以上続く著名な金融経済読書会FEDを主催するだけでなく、実務経験からも企業会計に携わった方です。
*数字のレトリックを見抜くのは難しい
粉飾決算や 不適切会計が、どのように行われているかの本題の前に、村上さんからこんなクイズが出されました。皆様は、この数字のレトリックを見破れますか?
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「とあるホテルで会議を開いた3人の男のいた。料金30ドルを支払ってブースを借りた彼等が立ち去 ってから、料金が実は25ドルで、取りすぎだったことが判明した。
ホテルのマネージャーはベルボーイに5ドル渡して3人の男に返してくるようにいった。5ドルをどう やって3等分したしたものかと悩んだベルボーイは、3人に1ドルずつ渡して残りの2ドルをくすねてし まうことにした。
その晩遅くベルボーイが思い返してみると、男達はそれぞれ9ドルずつ(10ドルからそれぞれが返し てもらった1ドルを引いたもの)を支払ったことになる。
したがって男達が払ったのは27ドル($9×3=$27)、それに自分がくすねた2ドルがあるから、合計 では29ドルになり、ベルボーイはあとの1ドルはどこへ消えてしまったんだろうと不思議に思った。
何が起きたのだろうか??」=========================
これは「天才数学者株にハマる」という本に書かれていた話とのことです。答えは下記です。
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30円-3円=27円までは何もまちがっていません。 そして、9円×3人=27円もその通りです。
次がポイントです。5円余ったので、支払った総額は30円-5円=25円です 5円−3円=2円が残ったお金なので、27円-2円=25円となります。
Evernote にコピーを保存 すなわち、27円+2円=29円という計算に意味はないのです。やるべき計算は27円-2円=25円だったのです。========================
ここから得られる示唆は、提示されたIR資料や数字をそのまま鵜呑みにして良いのか再考すべきということです。一部の上場企業のIR資料には、「広告費用前営業利益」という項目や、EC(Eコマース)やプラットフォーム系の企業では「テイクレート」という概念が頻出することがあります。こうした概念そのもの全てが課題があるとはいいませんが、良いところだけを過剰に見せようとして資料内で使われている印象を受けます。ビジネスパーソン、投資家としては、聞きなれない指標が出てきたら、数字にはレトリックが付き物であり、じっくり考える必要がありそうです。
*会計不正はどう行われがちか?
さて本題の見抜き方については、「会計不正はこう見抜け」という本からエッセンスを紹介して頂きました。私は、売上高や利益は経営者の恣意性が働きやすいので、操作がしにくいキャッシュフロー計算書を要確認すべきと伝えてきました。しかし、現在では、このキャッシュフロー計算書すらも恣意性を働かせる手法が出てきているとか‥。
キャッシュフロー計算書の操作の具体例として、財務CFを営業CFに組み込む手法があるとか。その手法は、村上さんはこのように解説してくれました。
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例えば、製造業が在庫を持っていたとして、その在庫を担保として借り入れを行うとし ます。いわゆるABS、すなわちアセットバックトセキュリティーズです。この際、在庫の所有権を実 際に銀行に移して、一定期間後金額を上乗せして買い戻すという契約を行っている場合、実態として は在庫を元に手にしたCashは財務CFにも関わらず、在庫を売却したということで、営業CFに計上する ケースがあったようです。投資家の多くは営業CFを本業から生み出されているCashとしてみるため、 この手法を使われると、企業が生み出しているCashを見誤る可能性があります。
他にも、事業を売却した場合に、一部を投資CFに残りを営業CFに計上することで、営業CFを大きく見 せるという事例や同じDVDのレンタル事業を行っている会社でもDVDの購入をかたや投資CFにいれ、 もう一方は営業CFに入れたりする等されている事例存在します。
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もはやここまで来ると、既存の公開決算情報だけでは粉飾決算や不正会計を見抜くのは難しいようにも感じます。しかし、そこはぐっとアクセルを踏んで、気になった数字については勇気を持って説明会やIR説明会で質問をする心構えや、数字だけではないガバナンスやその他の情報を丹念に調べる癖が必要なのかもしれません。私も改めて、それを意識していこうと思います!
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
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エコノミスト 崔真淑/さいますみ