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メタバースを待ち受ける「デジタル物理制約」とは何か

先日、私の研究室でフォーラムを開催させて頂いた。

学生主体の発表の場であるが、今年のテーマは「都市」と「Web3」。都市の集積や活性度を測る指標や、それらを地図上にプロットする可視化を紹介したり、Web3についてはその概念や具体例、そして大手IT企業への影響やそれらとの融合について、多岐に渡って闊達な議論が繰り広げられた。

私からも話題提供させて頂いたが、「都市」、「メタバース」、「Web3」はそれぞれにオーバーラップする部分があり、これらを学問的な視点から横断的に観ることができたのは貴重な機会だった。

今回は、その中でも都市、プラットフォーム、メタバースの関係について考えたことをご紹介したい。

都市の集積効果と物理制約

ある都市や地域・空間に人が集まれば、そこでは取引活動が活発になる。都市の集積についてはこれまでも何度か言及してきたが、企業が同じ地域に立地することは、人材の獲得、商業ネットワークの利用、知識のスピルオーバーなど多くのメリットがある。

その一方で、都市という物理空間は無限に拡張することはできない。その理由の一つは地価の高騰や通勤コストである。都心部にあまりに密集してしまうと、土地の供給には制約があるため土地や家賃が非常に高くなってしまう。また、都市が大きくなりすぎると、職場への通勤が片道1.5時間以上など、働き手にとって苦痛が大きいものとなってしまう。

こうした物理的制約と、集積のメリットのバランスの中で、都市は一定のサイズに収まってきた。

都市の物理制約を克服したプラットフォーム

一方で、こうした物理的制約を克服して成長してきたのがオンラインプラットフォームである。Amazonに出店していれば、世界中どこにいても小売ビジネスを展開することができる。街に映画館がなくても、Prime Videoがあれば最新のエンターテイメントを楽しむことができる。クラウドソーシングで業務を受注することもできるし、最近はZoomやTeamsなどを使えば世界中どこに住んでいても、(論理的には)東京など都市の組織の一員として働くこともできる。

こうしたオンラインプラットフォームは、都市と違って通勤コストや地価の高騰などの物理的な制約がないため、どれだけでも人が集まることができる。その結果がプラットフォーム企業への集中として表れているのが現状だ。

メタバースにおける情報密度の低さ

そこへ出てきたのが、メタバースである。メタバースは3D空間に都市のような空間を再現させる。これまでテキストベースで、非常に情報密度の高い取引空間を実現してきたのがオンラインプラットフォームの特徴である。非常に多くの参加者が、多くの取引相手とマッチングすることができる。

しかしメタバースでは、3Dで表現されているために、取引の観点からは情報密度が非常に低い。The Sandbox上ではNFTアートの美術館が開設されているが、壁に一度に表示できるのはせいぜい4~5作品である。それ以外の作品は自分のアバターが動き回って探さなければならない。

確かにエンターテイメントとしての面白みはあるのだが、本当にNFTアートを買いたい人はOpen Seaなど従来型の2Dプラットフォームの方が一気に作品を比較検討することができるだろう。

メタバースと言えば、度々私が紹介しているサイクリングアプリのZwfitもその先駆的なものだ。インドアトレーナーに接続された自転車のデータを転送し、バーチャル空間をアバターがサイクリングする。しかし参加者があまりに多くなりすぎれば、アバターが重なって見にくくなることもあるだろう。

こうした場合には、ある参加者には一定のデータしか見えないようにモードを分ける、と言うこともできるかもしれない。デジタルデータなので、無限に空間を複製することもできる。しかしそこで問題になるのが、「人工的希少性」という概念だ。

人工的希少性と集積効果のジレンマ

メタバース上の土地が高値で取引されているのも、その土地の周辺に人が集まるようなゲームやエンターテイメントが開設されるという期待による。人が集まれば、商取引があり、広告効果が期待される。そうすれば買った土地の値段があがったり、貸し出して地代を受け取ることができるというのであろう。

こうしたメタバース(特にWeb3要素を取り入れ、土地の販売や経済活動を重視しているもの)が前提としているのは、人工的希少性(Artificial Scarcity)という概念である。これはWeb3全体にも当てはまるが、土地やアート作品、トークンには数(供給)に限りがあり、だからこそ将来の価値が下支えされるという考え方である。

メタバースにおいても、実際の都市と同じように、土地の供給には限りがあり、だからこそ、その土地が価値を持ったり、一定の空間の中に人が密集し、取引が促進されるという想定である。

しかし、先述のように3D空間は従来のオンラインプラットフォームに比べて情報密度が低く、マッチングの規模を無限に拡張することができない。それがメタバースが直面する「デジタル物理制約」である。

一方で、空間を複製することでデジタル物理制約を解放することもできるが、空間を複製しすぎると人工的希少性を損なうことになりかねない。また、人の密集度が低ければ、マッチングの可能性も低くなってしまう。

これまで隆盛を極めたオンラインプラットフォームは、実際の都市が持つ物理制約を解放することで、強力なネットワーク効果を生み出し、無限の集積を可能にしてきた。

フェイスブックが「メタ」に社名を変更するほどにメタバースが商業的に成功するかどうかは、それがこれまでのプラットフォームに匹敵するような集積効果を発揮することができるかどうかにかかっている

その一方で、メタバースはオンラインプラットフォームに再び物理制約をもたらすことに他ならない。それが商業的にどのような影響をもたらすのか、それをどのように解決していけるのか。今後メタバースに取り組む際に直面する課題ではないだろうか。


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