内閣で議論された「コンテンツ産業活性化戦略」の解説と感想まとめ。
アニメ・漫画などのエンタメビジネスをアップデートするスタートアップ、株式会社MintoのCEOの水野です。
2024年4月17日、総理大臣官邸で第26回新しい資本主義実現会議が開催され、官民連携によるコンテンツ産業活性化戦略について議論が行われました。今回はこの会議の内容を解説しつつ、思ったことをまとめていきたいと思います。
今回の会議は、昨年10月に同会議内で一部触れた内容をアップデートして「コンテンツ産業活性化戦略」に絞った議論内容になっています。ちょうど1年前(2023年4月)の経団連の政策提言「Entertainment Contents ∞ 2023」辺りから、政治経済界の中でコンテンツ産業の位置付けが良い意味で変化してきていることを感じます。
今回の会議には映画監督の是枝監督と山崎監督が出席し、制作現場の現状についての報告や、具体的な将来へのアクションの提言も行なっています。
産業としてエンタメを再認識
2023年4月の経団連の提言や内閣でのコンテンツ産業戦略議論は、世界的なコンテンツ市場の伸びにより、日本のコンテンツ産業が再注目されていることに加えて、そもそも日本で成長産業が少なくなっている事に起因すると思います。
日本は、漫画・アニメ・ゲーム・映画・音楽などの領域で、世界に誇れるコンテンツを生み出し、多くのクリエイターがいる国です。一方で他国と比べると、政府や経済界が、コンテンツ領域を産業として捉えて、環境整備・成長支援をするといった取り組みが十分ではなかったと思います。
今回の会議の全貌については、内閣官房ホームページを見ていただくとして、水野が気になった部分を資料からいくつか抜粋したいと思います。
まず、コンテンツ市場や産業についての基本的な情報についてです。
引用元:https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/kaigi/dai26/shiryou1.pdf
上記の基礎資料に加えて、文部科学大臣提出資料として、クリエイター・アーティスト支援の資料や、
公正取引委員会からは、「クリエイター支援のための取引適正化に向けた実態調査」の資料が提出されています。
いずれにしても、今回、内閣の会議でコンテンツ産業が取り上げられ、しっかりとした基礎資料が用意され、クリエイターやアーティスト支援に向けても、議論が進んだのは非常に意義があったと感じました。
是枝監督が語る映画産業の課題とアクション
次に現場の課題と提言です。コンテンツ産業は制作・流通・資金調達・教育など、様々な課題があります。今回は映画業界を代表して、映画監督の是枝監督(万引き家族、怪物等)と山崎監督(ゴジラ-1.0、ALWAYS 3丁目の夕日等)が会議に参加し、報告と提言を行いました。
是枝監督は映画監督、脚本家、映画プロデューサーとしての役割だけでなく、action4cinemaという映像表現にかかる業界の実態の調査及び研究&提言する団体を設立し、活動をされています。
是枝監督からの4つの課題提示&提言は非常に明確でした。そしてこの提言内容は映画だけではなく、コンテンツ産業全般に共通すると感じました。ぜひ全文を読んでいただきたいのですが、概要だけまとめます。
①労働環境の課題
1日8時間&週休2日のフランスの映画制作現場や、この10年間で一気に変革が進んだ韓国の映画業界と比較して、日本の映画業界と制作現場は、長く働ける環境にないことを指摘しています。労働時間を管理することで制作費は上がりますが、それは必然であること、労働時間を超えた場合の追加支払やそのコストの捻出方法などについても言及されています。
②流通の課題
映画をどのように広げるかについて、国内と海外で問題提起がされており、
・国内ではミニシアターの課題(ミニシアターが多いのが海外と比較して日本の特徴で、ここが潰れる事で文化拠点がなくなること。)
・海外では展示会での日本作品の存在感の無さ(予算の少なさ)と国産のセールスエージェントが不在であることを上げています。
③教育の課題
作り手の教育システムの課題として、仕事として映画を選びたい人がプロになるまでの階段やルートの不明確さ、少なさを挙げています。米国やフランスなどの海外の大学で映画を学びたい人への支援制度、学んだ人の日本での受け皿などの必要性などです。
④制作
制作の課題にも踏み込んでいます。
・企画成立までの期間の開発費が出ない事
・ギャラが安い事
・成功報酬がない事
また、是枝監督の資料では触れてはいませんが、同様に山崎監督も「コンテンツがヒットしても、クリエーターに報酬が十分行き渡らない現状もある」として、今の収益構造の見直しの必要性などを指摘したと報道されています。
是枝監督の提言の結びでは、そのような課題を官民で共に解決するための具体的な施策として、内閣府の知的財産戦略推進事務局の下に、映画⽂化・産業の施策を⼀本化して統括する部署の設⽴を提案しています。
改めて是枝監督の提言全文はこちらをお読みください!非常に濃い内容でしたし、全エンタメ業界の方々にとって参考になります。
まとめと感想
今回の準備された基礎資料の質の高さ、クリエイター支援や労働環境の適正化の調査まで踏み込んだ内閣の姿勢、是枝監督の経験や映画業界の課題から考え抜かれてまとめられた様々な提言などは、いずれも素晴らしく、そういう意味でも今回の会議は重要なターニングポイントだったと思います。
水野は、Mintoの代表という立場では、主に漫画・アニメ・キャラクターなどの業界でクリエイターやコンテンツと向き合いながら、デジタル化・マーケティング連携・海外展開で、様々な業界課題を解決する為に日々努めていますが、やはり個人や1法人だけでは解決できない事も多いと感じます。
今回の会議内容を受けて、多くのクリエイターが稼ぎ、コンテンツ産業に入ってきたいという人がもっともっと増え、日本から引き続き素晴らしい作品が生まれるようにする為にも、政策連動で動くことは大事だと思いました。
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