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新生活様式で増える社会的孤立者に向けた支援ビジネス

 人との間隔を2メートル以上に保つソーシャルディスタンスを意識した社会は、隣人と気軽に挨拶をしたり、世間話をする習慣も阻害して、孤立や孤独に陥る人が増えることも懸念されている。これは「Social isolation(社会的孤立)」と呼ばれて、以前から指摘されてきた問題だが、コロナ後はさらに、人とのコミュニケーションができずに孤立する人への配慮や対策が必要になる。

メンタルヘルスケアは米国市民のニーズの高まりに応えるために進化しつつある。米国では毎年、成人の5人に1人が心の病に陥る。最も多い不安神経症を患う成人は4000万人に上る。折しも新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)によって、人と人との間に一定の距離を保つ「ソーシャル・ディスタンシング」が求められているため、孤立や不安の感情が高まりかねない危機的な状況にある。(日経新聞2020/4/20)

社会的孤立者の典型例は、いわゆる「ひきこもり」に該当する人達で、日本の内閣府が2015年に15歳~39歳を対象とした調査では、対象年齢人口の1.79%に該当する69.6万人を、ひきこもりと推計している。2019年には、40歳~64歳の中高年者を対象に行った調査も行っているが、こちらも対象年齢の1.45%(61.3万人)が、ひきこもりの条件に該当している。ひきこもりは年齢に関係なく、若者から高齢者までが潜在的に抱える現代病として深刻化しているのだ。

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ひきこもりに陥る要因は、就職がうまくいかなかった、職場に馴染めなかった、退職や解雇など、仕事に関する問題がきっかけとなるケースが6割以上を占めている。コロナ後には、在宅勤務で「自宅へひきこもる人」も増えていることから、孤立した生活の中でも、孤独を癒やしたり、メンタルを健全に維持するための支援サービスは、公立・民間の両方で立ち上げていく必要がある。

社会的孤立やひきこもりが、健康面のリスクを高めることは医学的にも実証されている。

一つの研究例として、東京都健康長寿医療センター研究所では、日常生活に支障のない健康な高齢者の中で、閉じこもりの傾向(外出頻度が1日1回未満)と、社会的孤立の傾向(同居家族以外とのコミュニケーションが対面と非対面を合わせて週1回未満)を組み合わせて4群のグループ分けをして、長期的な生存率を調べている。

○グループ1:非孤立+非閉じこもり傾向
○グループ2:非孤立+閉じこもり傾向
○グループ3:孤立+非閉じこもり傾向
○グループ4:孤立+閉じこもり傾向

その結果、孤立+閉じこもり傾向のグループ(4)は、非孤立+非閉じこもりのグループ(1)よりも、6年後の死亡率が2.2倍高くなる。孤立か閉じこもり、どちらか一方のグループ(2と3)と比較しても、死亡率が顕著に高くなることが判明している。「孤独」や「閉じこもり」が健康を害する直接的な危険要因ではないが、両方の生活習慣が長期にわたり重積していくことで深刻な健康問題を引き起こすと、同研究では結論付けている。

高齢期の社会的孤立と閉じこもり傾向の研究(PDF)

社会的孤立を支援するサービスとしては、メンタルヘルスの専門家がビデオチャットなどで遠隔カウンセリングを行う事業が各所で立ち上げっている。同研究の結果に基づくと、電話、メール、ビデオチャットなどで非対面のコミュニケーションを取ることに、一定の効果はあるものの、「ひきこもり」の生活スタイルを改善させるには、人と対面できるイベントも開催して、外出機会を増やす活動も併用することが、効果的なサービスになる。

孤立の解消は、医療的なメンタルヘルスサービスだけでなく、趣味のサークルや地域コミュニティを運営するなど、多方面からのアプローチをすることができ、孤独を常に感じている者は、こうしたサービスに参加することで、友人や仲間を作る糸口にすることができる。

若い社会的孤立者は、自分が「支援される立場」ではなく、「誰かを支援する立場」に回ることで、他人から認められたいという「承認欲求」を満たすことができるため、ボランティアや社会貢献活動のチームを作ることも効果的である。

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