企業文化は「複数の事例」から作られる!“失敗させる”人材育成もカルチャーに。
皆さん、こんにちは。
今回は「企業文化」について書かせていただきます。
――現在につながる成功体験はありますか。
「経営者としての基となったのがソニーの社長、会長を務めた大賀典雄さんとの出会いです。私は1994年に社長になると、人を育てて従業員全員で会社を経営していくスタイルをとろうと考えました。しかし、なかなかうまくはいきません。会社の業績などは伸びていましたが、私の心は晴れることがありませんでした」
「取り入ってきた人たちに会社を売りつけられたり、会社をつくらされたりして10社近くの会社を設立しました。それが全部業績が振るわなくて。確か99年のコンベンションで、たまたま大賀さんと席が近くだったので思い切って話しかけたのです」
「事情を打ち明けると『君は人の目利きが悪い。金の亡者とか、地位の亡者とか隠し事のある人たちを目利きできていない。だからだまされている』と言われたのです」
「『じゃあどうしたらいいんですか』と大賀さんに聞くと、『一番は愛社心だ』と言われました。でも、どう見分ければいいのか分かりません。さらに尋ねると『若い人間に失敗させてもいいからやりたいことをやらせてみろ』と教えてくれました」
――逆に糧となった失敗はありますか。
「会社をつくって失敗したことです。90年代と00年代の2回、それぞれ10社ほど設立しましたが失敗しました。現在は3回目の挑戦としてM&A(合併・買収)などを手がけています。三度目の正直で少しは人の目利きができてきて任せられる人を見分けられるようになってきました」
「もう一つは人を見極めないままに会社を任せすぎたことです。例えば当社が買収した携帯電話販売のITXやケンウッド・ジオビット(現アップビート)には、最初は当社から人を送り込んでいませんでした」
「任せていたのですが、ITXの経営陣に『あなたが買ったんだからあなたが経営をやれ』と言われて、帯状疱疹(ほうしん)ができるくらいストレスを感じました。これは失敗したなと思いましたね」
「でも17年に同社の社長になってみるとグループ会社なのに文化や考え方がまるで違う会社なのだと分かりました。そこでPMI(買収後の統合作業)を通じてノジマの考え方や行動指針などを徹底するなどして企業文化の改善をはかりました。会社の業績が悪くなるのは企業文化によるところが大きいのではないかと思っています」
――企業文化の改善とは具体的にどういうことですか。
「特に難しいことではありません。働くということはどういうことか考えるということです。例えば店長が1回遅刻したとします。従業員が50人いれば、50人が見ています。その店長を参考に従業員が働くようになれば、50人全員が1回遅刻したのと同じくらい悪い影響が出てしまいます」
「ですから人の上に立つ人は遅刻などしてはいけない、遅刻したら素直に謝って他の人に広がらないようにしなくてはいけません。こうした考え方を伝えています」
――人材育成にはどのように取り組んでいますか。
「人は教えても育たない、というのが基本的な私の感覚ですね。会社をたくさんつくって失敗したとき、自分は経営者を育てているつもりでした。どうしたら会社を成長させられるかなどを一生懸命教えて、多くの経営者を育てれば、いい人材が一人くらい出てくるのではないかと考えたのです。結局は『人の目利き』ができていなかったのでダメでした」
――会社を成長させるために大切なことは何だと考えますか。
「人材を育てることが一番大事です。そのためには失敗させることが重要になります。ですから『やりたいことはまずやってみろ』と言っています。失敗したら、その後どうするか目を凝らせていればいいと思っています。成功しても失敗しても、本人に何か気づきがあれば次の行動が変わってきます。そして、その人の個性や人間性が見えてきます」
こちらの記事の中には、「人の目利き」「企業文化」「人材育成」について、それぞれ大事なことが書かれています。サイバーエージェントの事例に当てはめながら、いくつかポイントを整理してみようと思います。
① 「人の目利き」について
当社では、社員の抜擢の条件に「実績」と「人格」を挙げています。どちらかを選ばなければいけないのであれば、間違いなく「人格」重視です。この点については社長の藤田もブログで言及しております。
一般的には、実績がある人を抜擢するほうが周囲の理解が得られやすいのですが、どんなに実績があっても、人格がおかしな人を上に上げてしまうと、ピラミッド構造の組織が上からすべてダメになっていってしまうのです。
逆に、人格者を引き上げると、自分の成果を上げることだけに躍起にならず、人をしっかり育て組織をより良い方向に誘導し、結果として組織全体に良い影響を与えます。
また、少し話が逸れますが、AさんとBさんと同じような実績、同じようにどちらも人格者であった場合、その組織の幹部メンバーにはない要素を持っている方を引き上げると、組織バランス上多様な視点を持てるため、組織が円滑にまわっていく可能性が高まると思います。
記事の中には、良い人材を見極める一番のポイントは「愛社心」があるかどうか、と書かれていました。
「人格者かどうか」は、チームや組織など周囲の人に良い影響を与える人であるかどうかだと勝手に解釈していますが、「愛社心」や「会社へのロイヤリティ」がどれだけあるかも、確かに重要な要素だと考えます。
会社へのロイヤリティは、入社してすぐに生まれるわけではなく、
・会社(や上司)がどれだけ成長機会を提供してあげられたか
・会社(や上司)がどれだけ失敗を許容してあげられたか(失敗すると分かっていてもやらせてあげられたか)
・会社(や上司)がどれだけ失敗後、それを次につなげる機会を提供してあげられたか
という、失敗も含めた経験を通して、徐々に社員一人ひとりに芽生えてくるものだと思っています。
ただ単純に、「会社が好き」「会社で働く仲間が好き」という感情だけが「愛社心」に直結するわけではないのです。
実際に、当社の社員は会社へのロイヤリティが極端に高い人が多いのですが、周囲の声を聞くと、「自分が手を挙げて挑戦したことを、うまくいかない時でもずっと応援し続けてくれた」「事業がうまくいかなくなっても今度はこういう挑戦を一緒にしようよと声をかけてもらえた」「成長機会を与え続けてくれた会社に必ず恩返ししたい」のような声がよく聞かれます。
② 「企業文化」について
会社の中のビジョンや価値観の浸透が弱いことに悩んでいる方が多いのではないかと思います。
私自身も何度も「サイバーエージェントのカルチャーはどうやって作っているのですか?」と聞かれたことがあります。
また、「会社が大きくなってもなぜそんなに独特なカルチャーを維持できるのですか?」とも聞かれます。
企業文化を醸成、そして維持していく上で、私たちがいくつか実践しているポイントがありますので、ご紹介できればと思います。
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■会社の価値観を明文化「ミッションステートメント」
→会社の『21世紀を代表する会社を創る』というビジョンに向けて、個々の社員が主体的に動くために「ミッションステートメント」という行動指針を掲げています。これが、いわば会社の“価値観”を表現したものとなります。
たとえば、『有能な社員が長期にわたって働き続けられる環境を実現』というのは、当社が掲げている「実力主義型の終身雇用」を具体的に表現したもので、歴史ある日本企業特有の「年功序列型終身雇用」とは明確に棲み分けをしたものです。
『挑戦した敗者にはセカンドチャンスを』というのは、かなり独特かもしれませんが、挑戦することの大切さを全面的に打ち出している当社だからこそ、「失敗を許容する」ことをあえて明文化し、失敗経験を次の挑戦に活かしてもらうという考え方、価値観を浸透させる必要がありました。
実はこのミッションステートメントができる前は、自分のミスで会社に大きな損失を与えてしまったり、会社を立ち上げて失敗したら、そのまま退職するという流れが自然と出来上がっていました。
この流れを止めるには、失敗しても次の抜擢機会を作り、さらに挑戦させるという“事例”を作るしかなかったのです。
(当社の何番目の事例かは分かりませんが、私もかなり多額な損失を出しながら、まだ退職せずに新しい挑戦をさせていただいております。笑)
事例とセットで会社の価値観を明文化することは、企業文化、企業風土作りのヒントになると思います。
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■歴史を残し続ける仕組み「ヒストリエ」
→当社には、「ヒストリエ」という名前の会社の歴史をまとめたものがあります。
今は冊子ではなくWEBに移行し、社内報の中の一つのコンテンツになっていますが、子会社や部署の歴史を分かりやすくまとめてあったり、人にフォーカスをした「パーソナルヒストリエ」というものには、その人の過去の意思決定の背景や、どんな局面を乗り越えてきたかなども詳細に書かれてあります。
2010年頃開始され、今でも続いている人気コンテンツになりますが、この中には成功した事例ばかりでなく、失敗事例もたくさん掲載されています。
創業から20年以上経ち、入社間もない新卒社員や中途社員も多くいる中、会社の歴史や大事にしている考え方を継承していくことは非常に大切で、形はどうであれ、企業文化を記録に残すことは会社全体の一体感を醸成していくためにも確実に行った方が良い取り組みの一つではないかと思います。
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③ 失敗させる「人材育成」について
ここまで述べてきたように、失敗を許容するカルチャーがあれば、社員も安心してどんどんチャレンジができます。
チャレンジ量が増えれば、その分当然失敗する量も増えますが、ただやみくもに失敗させれば良いわけではありません。
人間は誰しも成功体験を通して自信がつき、自己肯定感を育むことにつながります。
失敗するよりも、成功する方が当然嬉しいわけで、まず大前提、一つ以上の成功体験を持った上で、段階を踏んでより大きな挑戦を会社が提供してあげることが大事です。そして、その挑戦が、自分がやりたいこと、前向きに取り組めることであれば、組織都合で一方的に与えたミッションなどよりも、失敗から得られる学びの量が多くなると思います。
「失敗させる人材育成」と書きましたが、「失敗の機会を奪わない人材育成」という表現の方が適切かもしれません。これができれば、人が成長し、会社も成長し、業績も上がるというループができる確率が高まります。
最後に、改めてですが、すべての企業文化は「事例」によって作られると思っています。
まずは事例がないと、それが「会社のカルチャーだよ」と言われても誰も信じてくれません。
事業環境は変化し続けていくものなので、企業の土壌を、時代に合ったもの、今の経営課題を解決するものへと絶えず変化させていくことが重要です。
そして、理想の企業文化を固めたら、それが定着するまであきらめず、浸透させる取り組みを継続して行う工夫も必要です。「浸透」させるには、その制度や施策のネーミングも重要という点は当社でもよく議論をするのですが、長くなってしまうのでこの話はまた機会があればしたいと思います。
企業文化の醸成は、会社のブランディングにも直結していくものですが、会社のビジョンやミッションをベースに、慣習となるまで事例を作り続け、企業文化にマッチする採用や育成を行い続け、カルチャーを体現する仕組みを生み出しブラッシュアップし続けることで、その繰り返し、その積み重ねによって初めて、「企業文化」と呼べるものまで昇華させていくことができるのではないかと思います。
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