中国製造業が仕掛ける越境ECビジネスの脅威
ネットで買い物をすると言えば、アマゾン、楽天、ヤフーショッピングが国内シェアの8割近くを占めており、消費者は、その中で品揃えと価格の比較をしている。物価が高騰する中で、できるだけ安く購入したいというニーズは拡大して、いるが比較検討ができるECサイトは限られている。
その中で、新たな勢力として急成長しているのが、中国から安価な商品を世界各国に直販する格安越境ECサイトの存在である。中国のECプラットフォーム企業であるPDDホールディングスが2022年7月に立ち上げた「TEMU(ティームー)」は、中国から、米国、カナダ、オーストラリア、フランス、イタリア、ドイツなどの顧客に格安商品を直接配送するECマーケットプレイスを展開しており、2023年7月月からは日本向けにもサービスを開始している。
TEMUの特徴は、中国内の製造業者を出品者として、日用品、電子製品、アパレル、美容品、カー用品、玩具、工具など、250カテゴリー以上の商材を海外の消費者に直販するため、アマゾンと比較しても30~50%以上安い価格で販売している点である。商品の到着は7~10日と遅くなるが、それを容認すれば最安の買い物ができるため、セドリ副業者の仕入れルートとしても注目されている。
たとえば、中国製の電動歯ブラシと交換ブラシのセットは、アマゾンでは最安値が4000円前後だが、TEMUでは1000円程度で販売されている。その他にも、スマートウォッチが2000円、全自動ポータブル洗濯機が3500円、フルーツジューサーが850円、防水ワイヤレス・イヤフォンが500円という安さだ。
中国からの商品発送については、TEMUが中国内で提携している物流倉庫に注文商品を集約して、海外への配送代行をするため、各出品者(サプライヤー)が国際配送の責任を負わなくて済むシステムが構築されている。顧客が負担する送料は、現在は集客キャンペーン中のため、すべての無料、キャンペーンが終了しても一定金額以上の注文をすれば無料になる。
TEMUの物流システムでは、サプライヤーに対して「プレセールモード」と「在庫モード」の2種類を用意している。プレセールモードは、TEMUサイトで注文された商品をサプライヤーが2日以内にTEMUの物流倉庫(中国内)に発送して、そこから国際配送が行われる。在庫モードは、サプライヤーが事前にTEMU倉庫に在庫を保管しておき、注文と同時に国際配送の作業が行われる。
TEMUは、迅速な配送を行うために、サプライヤーに対して「在庫モード」を推奨しており、倉庫内の在庫がある状態ではTEMUサイトの上位に商品が掲載され、在庫が無くなれば、順位が下がるアルゴリズムが組まれている。そのため、サプライヤーの大半は、在庫モードを選択している。
TEMUは、集客マーケティングにも長けており、米国ではサービス開始からの数ヶ月で、Apple App StoreとGoogle Playストアの両方でアプリダウンロード数のトップにランキングされて、2022年の第4四半期には米国で最もダウンロードされたアプリとなっている。
人気の起爆剤となっているのは、フォロアーが1000人以上いるインフルエンサーに対して、TEMUアプリの紹介をすると1ダウンロード毎に5ドルの報酬、さらにアプリユーザーが買い物をすると20%の報酬がバックされる強力なアフィリエイトプログラムが展開されていることだ。そのため、SNS上では TEMUの商品を紹介する動画が爆発的に増えている。
TEMUアプリの利用については、中国に対する個人情報流出のリスクが懸念されているものの、サービス開始から1年未満で急速に世界ユーザーを獲得している状況は、TikTokの急成長カーブと酷似している。中国企業は越境コマースの世界展開を本格的に目指しており、それが現実化すると各国の小売業に与える影響も非常に大きなものになる。
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