メディアが「〇〇離れ」という言葉を使う時は大体「離れていない」事が多い件

少子化のニュース同様、メディアはどうしても東京から人口が流出したと煽りたくて仕方がないようだ。それでも日経の上の記事はまだ自分達で統計を見ている分いいほうだが、以下の共同通信の記事は本当に酷い。

新型コロナウイルス感染拡大で場所を問わず働けるテレワークが普及したことなどを背景に、東京居住を避ける人が増えた影響とみられる。

…などと適当なことを書いていますが、テレワークなどが単独で人口移動に影響を与えるほどのインパクトなどない。

人口移動とは、特に持ち家購入検討世代にとっては生涯の居住決定の問題であり、生涯最高額の購入問題でもあり、そんなコロナの問題とか、リモートワークの問題とかの些末なことではなく、経済問題によって決定されるもの。

そもそも県域をまたぐ人口移動の大部分は就職(進学も含むが)によって生じる20代前半の移動によって占められている。いいかえれば、20代以外あまり移動しない。若者は仕事のある場所を求めて移動するのであり、逆にいえば、人口減少するところというのは「ロクな仕事のない場所」という証明なのである。

大体、東京単独で統計を見る意味がない。通勤圏内で考えるなら一都三県でとらえるべきだ。都道府県単位ではなく、そうした視点でみれば、東京圏以外転入超過しているところははほぼない。大阪圏も名古屋圏もマイナスなのだ。いってしまえば、人口は東京圏以外には集中していないという結論になるのである。

つまり、本来ファクトに基づいてニュースにするなら、「東京圏一極集中が激化」ということになるべきなのに、真逆の印象を与える見出しになっている。

そもそもメディアがよく使う「〇〇離れ」という言葉は、それを使いたいだけの事例ばっかりで、よくよくファクトを見ればちっとも「離れてなどいない」ことがわかる。若者の「酒離れ」とか「恋愛離れ」とかだいたい間違いである。

新聞やメディアが常に嘘を言うとまではいわない。しかし、「嘘ではないが正しくない言い方をする」ということは注意しておいた方がいいだろう。それは、「結婚したいが9割」報道の正しく無さという話で何度もお伝えしている。

生涯未婚率の計算すら間違える。間違えるのは仕方ないがいつまでも訂正しない。

正しい生涯未婚率計算式はこちらで解説している。

また、新聞の統計や新聞で識者と紹介される大学教授の話が必ずしも正しいというものばかりではないということにも注意が必要だ。「3組に1組は離婚というのは大嘘」だと大間違いのことをいう某大学准教授もいる。

「3組に1組離婚」が決して間違いでないことは、こちらの記事で詳細にわかりやすく説明している。

メディアが煽る東京の人口流出の話に戻るが、都の話だけでは飽き足らず、23区から流出しているということを取り出して伝えようとする。

東京23区は比較可能な2014年以降で初めて域外から転入した人数を転出者が上回る「転出超過」となった。

そら2014年からの短期的にしか見ないならそうだが、そもそも東京の人口が激減した時代は昭和に存在した。ドーナツ化現象といわれた時代だ。東京の人口は激減し、それらがすべて周辺三県に流れた時代がある。別に未曾有の出来事じゃない。

また、23区から人口が流出しているとはいっても、それは区による。日本全体で人口減少が起きている現状でも、いまだに人口増加の区もある。たとえば、千代田区、中央区、江東区、品川区などは人口自体2020-2021年で増加中だ。

中央区に至っては、人口増加に加え、東京23区で平均年齢がもっとも若い区になった。以下のランキングは男女別にしてあるが、男女合計では一番若いのが中央区である。築地や月島など昔ながらの住人が多いイメージがあるが、意外である。

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それは0-4歳の子ども人口が増えたからである。何も子どもがハイハイして移動してくるわけはないので、これは30代の親を持つ子育て世帯が増えたからだ。まさにタワマン効果といえるだろう。


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一方で、都心部のタワマンを買う経済的余裕のない家族や、同じ予算でも広い家に住みたいと思う家族は、埼玉、千葉、神奈川の郊外に流れていく。千葉の流山市や埼玉の川口市の人口が増えているのはそういうことである。それだけの話であり、コロナとかリモートワークとか別に関係ない。家なんて生涯最大の買い物なのに、そんなチンケな理由で右往左往されるわけがないのだ。

それでもメディアはとにかく東京から人口を減らしたいらしい。こういう記事もある。

この記事に至っては、総人口増減と人口移動の転入転出増減とをごちゃごちゃにして報道しているから読み手が混乱する。

東京都の2022年1月時点の総人口が1年前と比べて減ったのは事実だが、それは人口移動によるものではなく、自然減によるものである。要するに出生を上回る死亡者によって減ったに過ぎない。死亡減と流出減を混同させるような報道の仕方は感心しない。

記事では、相変わらず、今後企業の働き方が変わるだろう的なありがちな論を展開している。まあ、そういう企業もあるだろうが、そういうテレワークなどで事が済む仕事をしている人だけが働く人ではない。

ヤフーが、今年4月1日から社員が住む場所の制限を撤廃し、国内であれば自由に選択できるようにすると発表し、飛行機での通勤も認めるというのもニュースになった。月15万円までであれば飛行機や特急電車などの通勤費も負担してくれるらしい、とのことだが、社員からすれば、「だったらその15万円を現金で給料としてよこせよ」という話だったりするんじゃないの?

どれたけメディアが煽ろうとも、地方移住は進まないと思うし、地方はどんどん過疎化する。むしろ東京圏以外も大阪、名古屋、福岡などの大都市圏集中化が進むはず。それはいずれ5年後の統計事実が物語ってくれるだろう。


安易な地方移住は本当におすすめしない。また都会に舞い戻りたくなるのがオチだ。田舎はたまに旅して、部外者として現地の人と交流するくらいが丁度よい。田舎がなぜ過疎ったのか、それは人々がそこにいたくなかったからであることを忘れてはいけない。 


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荒川和久/独身研究家・コラムニスト
長年の会社勤めを辞めて、文筆家として独立しました。これからは、皆さまの支援が直接生活費になります。なにとぞサポートいただけると大変助かります。よろしくお願いします。