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米国のインフレ率は本当に下がり続けるのか?~「10%→5%」と「5%→3%」は違う~

米インフレ急減速を当然視する風潮に警鐘
現状、為替市場では「2023年は円高の年」という巷説が支配的です。しかし、これは最近数か月で見られている顕著なインフレ率の低下が今後も相応の持続性をもって進むことを前提としたシナリオでもあります。もちろん、インフレ率は低下を続ける可能性が高いと筆者も思います。先般の日銀決定でその論調はますます勢いを得ているように感じます:

しかし、想定外の円安リスクとして米国のインフレが思ったほど減速せず、したがってFRBの利上げが持続性を伴ってしまうケースも多少は警戒したいところです。この点、12月19日のブルームバーグで報じられた世界最大の資産運用会社ブラックロックのストラテジストによるコメントが興味深いものでした:

同ストラテジストはインフレ急減速を期待するムードに異を唱え、特に今後の消費者物価指数(CPI)に関して「7%から5%に下がる方が、5%から3%になるよりも恐らく容易」とのコメントしています。筆者も同様の問題意識です。サプライチェーン寸断による供給制約や資源価格上昇の影響が剥落する過程で10%に迫っていたインフレ率が急減速するというのは元々想定されていた話ではあります。

しかし、FRBやECBなど各国中銀が不安視するのは一般物価が押し上げられる中、人々のインフレ期待が高止まりし、企業の価格設定においても値上げが常態化し、これに合わせて名目賃金も引き上げられるという展開です。こうなってくるとインフレ自体が持続性を帯びます。図表に示すように、既にISM製造業景気指数(入荷遅延)が示す供給制約は概ね正常化が完了しており「モノ」に関する目詰まりは解消されているようにも見えます。この影響は確かに、今後のインフレ指標の下押しに波及してくるはずです:

米インフレ、問題は3%からの道筋
一方、ISM非製造業景気指数が示す供給制約の状況にも顕著な改善が認められてきましたが、ここにきてブレーキがかかっているようにも見えます。非製造業はサービス業、すなわち「ヒト」に依存しています。ここに関する供給制約はまだ製造業に比べれば改善の余地が残されており、賃金の騰勢に繋がっている状況が透けます。上述のストラテジストも「根強い労働者不足や賃金上昇、在庫減少」をインフレ高止まりの理由に挙げていますが、およそ人が足らない状況で賃金が下がるということはあり得ません。もし、郊外へ移住する人が増えたり、接触型のサービス業への従事を避けたりする人が増えるなど、パンデミックを経て労働市場の構造が根本的に変化しているならば、人手不足の解消が期待したほど進まず名目賃金も思ったより下がらない懸念はあるでしょう。今後、CPIがどこかで下げ止まるとすれば、そうした雇用・賃金情勢の「壁」に直面した時だろう。それがCPIで見て3%なのか4%なのか、あるいは2.5%なのか。具体的な水準に議論はあろうが、無視できない論点です。例えば、FRBが注視しているミシガン大学消費者マインド調査におけるインフレ期待は3年先について3%程度、5年先について5%弱というイメージになっております:

いずれにせよCPIが10%弱から4~5%まで減速する過程で形成された市場予想を自明の前提として本当に大丈夫なのか。目標である2%への収束は本当に来春に見えてくる話なのか。利上げによる景気のオーバーキル懸念を踏まえ「春に利上げ停止」は一応のメインシナリオとして筆者も据え置いておりますが、不安が尽きない前提ではあるようには感じています。

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