ビジネスには「アート思考」が必要だ
こんばんは。COMEMOスタッフの森下です。みなさんは「アート思考」という言葉をご存じですか?ビジネスにおける発想法として、「デザイン思考」の次のフレームワークとして近年浮上してきたアート思考について、COMEMOでは先日みなさんのご意見を募集し、多くのコメントをいただきました。
これを受けてきょう3月4日、「不確実性の時代にアート思考をどう活かすか」と題したセミナーが開催されました。冷たい雨が降る月曜の夜にもかかわらず、会場は開演前から超満員に。
■登壇したのはこのお三方
まずはモデレーターを務めたuni'que代表の若宮和男さん。
建築士やアート研究者、モバイルIT業界を経てuni'queを創業。uni'queは副業をしていないと入社できないというユニークな会社です。
続いてメディアアーティストの市原えつこさん。
「妄想インベンター」という肩書も持つ市原さん。日本の民間信仰やシャーマニズムとテクノロジーを融合させた「デジタルシャーマニズム」というジャンルで作品を発表されています。
そして資生堂の研究推進部R&D企画グループの中西裕子さん。
大学院で化学を学び、資生堂入社後は乳液や化粧水を開発。現在は社会/ひと/技術のトレンド・洞察とR&D戦略策定などを担当されています。
■アート思考とは?
若宮さんが考えるアート思考の定義とは「課題から出発せず、不確実性の中でユニークな価値を生む試み」だそうです。
論理的な考え方であるロジカル思考に対し、そこからこぼれてしまうものをとらえるため五感を重視するデザイン思考が現れたのが10年ほど前。そしていま、デザイン思考でもすくいきれない「衝動」「ポエジー」に向き合うアート思考が注目され始めています。
予測可能性が高い時代は論理的であることが求められていましたが、不確実性が高まる時代にはそれだけでは足りない、というわけです。
■ここからはトークセッション
若宮さんの質問におふたりが答えるという形で進みました。一部を抜粋してご紹介します。
ーービジネスとアートの違いは?
市原「短期的な結果を求められない分、アートの方が時間軸が長いと感じます」
中西「ビジネスが新たなアンサーを生むのに対して、アートは新たなクエスチョンを生むものだと思います」
ーーアートはどうやって生まれる?
市原「パーソナルな体験や初期衝動が多いです。土着×テックという私のスタイルのルーツも、母方が農家で父方が工業系という属人的なものです。企業が事業化しにくいそういうものを世に出していくのが自分の役目だと思っています」
ーーデザイン思考、アート思考は企業の中でどう有効?
中西「私がいたR&Dの世界では数字がすべてでしたが、デザイン思考を取り入れることで、数字だけじゃないというマインドが社内で浸透しました。さらにアート思考が入れば、一個人の強い思いを企業の中でも出しやすくなると思います」
ーーアートの個別性と普遍性、ビジネスのニッチとスケールをどう考える?
市原「ニッチでいいのはアーティストの醍醐味ですが、マスにどうやって届けるかはあの手この手で考えています。どれだけ今の時代にインパクトを与えるのかとか、自分がライターだったらどう取り上げるだろうかとか」
中西「ゼロから1を生み出すという意味では新規事業とアーティストは似ている点があると思います」
……などなど。真剣な議論の一方、「クリムトは矢沢永吉」なんて名言が飛び出すほど、笑いも絶えないトークセッションとなりました。
■さあ、どう活かす
若宮さんは「コアとなるユニークさ(自分)×ターゲットのニーズ(他者)=コアバリュー(価値)」という方程式を紹介し、企業人に「ニーズだけでなく自分の衝動も大切にしては?」と提案しました。
ただし、アート思考は万能ではありません。不確実性が高い発想法だけに、アート思考一辺倒になると「会社がつぶれてしまう」(若宮さん)。マスに届かせるためにはロジカル思考も併用する必要があります。
最後のまとめで中西さんが話されたように「ロジカル思考、デザイン思考、アート思考をみんなが身につけることで、適切なタイミングで適切なカードを切れるようになるといい」ですね。
本日のトークセッションの内容をビジュアル化したのがこちら。白熱した議論を反映した渾身の仕上がりになっています。
COMEMOでは、アート思考のテーマにしたイベントをシリーズ化します。次回は4/23(火)、「身体から発想する――アート思考と身体性の関係(仮)」と題し、ゲストに能楽師の安田登さん、演劇家の藤原佳奈さん、モデレーターは引き続き若宮さんが務めます。
ご予約はこちらから。
お楽しみに!