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地方は大企業・東京依存から卒業できるのか?

大企業が撤退した企業城下町の恐怖

2023年の閉鎖に向けて、日本製鉄の瀬戸内製鉄所呉地区の高炉が今月末に止める。1962年の火入れから59年の歴史に幕を閉じる。同様に、和歌山の関西製鉄所和歌山地区の高炉も9月末で休止する予定だ。変化するビジネス環境の中で、日本製鉄のこの決断は仕方のないことだろう。2025年には、東日本製鉄所鹿島地区の高炉1基も休止する。国内の高炉は15基から10基体制に縮小される。

多くの人、特に首都圏に住む人々にとっては、一企業ひいては一産業の栄枯盛衰として他人事のように語ることもできるだろう。「ああ、もう鉄鋼の時代は終わったね」のような語りだ。しかし、地方に住む人々にとって、製鉄所の高炉が止まることは笑い事ではない。1960年代以降、製鉄所の企業城下町として発展し、歩みを共にしてきた地方都市は多い。関連会社だけではない、製鉄所で働く人びとの憩いの場となっていた地元の繁華街も大きな打撃を受ける。高炉の火が消えるということは、そのまま街の活気の火が消えることに直結することになりかねない。

田舎でスローライフは自治体単位では現実的か?

こういった話をすると、「それなら、ほそぼそと身の丈に合った生活をすればよい。のんびりと田舎でスローライフも良いものだ。」という意見がでてくる。しかし、物事はそう簡単ではないだろう。そのまま活気がなくなり、財政破綻をした市町村は悲惨だ。公共サービスが縮小・停止し、ごみを出すのも有料になる。水道料金や軽自動車税、市民税、県民税も上がる。公共施設の利用料も値上がりする。議員の数も減り、給与もなくなり、市職員もリストラと給与カットがされる。これらは、財政破綻をした北海道夕張市で実際に起きたことだ。そして、私の母方の実家のある北海道赤平市も寸でのところで同様の状態に陥るところだった。赤平市の場合は、市立病院の赤字を公立病院特例債の発行と人員・人件費削減で自力で立て直しができたが、予断を許さない状況が続いている。

夕張市も赤平市も、1960年代までは炭鉱の町として栄え、旧帝大卒のエリートが財閥系企業の社員として陣頭指揮をとるほど活気のある町だった。しかし、炭鉱が次々と閉山となるとともに街の活気は急速に衰えていった。その後、バブル期になるとスキーブームにのって観光の町となり、同時にメロンなどの特産品となる農作物の栽培に着手した。しかし、バブル崩壊とともに観光業は廃れ、アジアからの観光客で糊口をしのぐ状態となっていた。

つまり、特定の企業や産業に依存していた地方都市は、企業が撤退した後に盛り返すことが容易ではない。そのまま急速に活気を失い、明るい未来を描けなくなる。そうならないためには、既存の企業や産業があるうちから、自力で稼ぐ力を身に着けておく必要がある。いなくなるときに、見捨てられたと騒ぎ立てても遅い。

首都圏からの企業移転に未来はあるのか?

私の住む大分県もそうだが、地方行政にとって、大企業の誘致は依然として優先度の高い事業だ。大分に関して言えば、2004年にダイハツの生産拠点を誘致させたことで中津市の人口減少に待ったとかけることができた。(その代わり、移転元である前橋市では大量の解雇者と関連企業も含めた産業空洞化を生んだ負の側面もある)その後、コールセンターの誘致を積極的に行い、2019年には外資系企業のコンカーが拠点を開設している。2020年には、アジア初の宇宙港としてVirgin Orbit社との提携を成功させている。2021年は、富士通と協定を結び、テレワーク勤務者の大分移住を斡旋している。

大分県だけをとってみても、首都圏に本社を置く大企業や外資系企業と提携し、誘致をすることに地方行政は多くのリソースを割いている。

このことの追い風となるように、東京からの本社移転という風潮も出てきている。大企業では、パソナとルピシアが地方への本社移転を行ったことは記憶に新しい。パソナは兵庫県淡路島に本社を移転し、ルピシアは北海道の生産拠点に本社機能を移した。大企業ではまだまだ大きな流れとはなっていないものの、少数でも事例がでている。

中小企業だと、地価の高騰する東京での事業をコスト高と判断し、地方に本社移転をする企業が増えている。帝国データバンクの全国「本社移転」動向調査(2019年)によると、東京都は転出・629社、転入・580社で49社の転出超過となっている。転出先としては、①大阪府32社 ②茨城県30社 ③静岡県20社 ④福岡県18社 ⑤群馬県、愛知県16社となっている。

まだまだ東京一極集中を揺るがすほどのインパクトはないが、東京から地方への本社移転は経営者にとって1つの選択肢になっているようだ。経団連が2020年11月に行った調査でも、東京に本社を有する経団連幹事会社433社のうち、東京からの移転を「実施中」「検討中」「今後検討する可能性がある」と回答した企業の割合は22.6%となっている。本社機能の全部または一部移転に関する検討状況については、移転を「実施中」が3.9%、「検討中」が7.8%、「今後検討する可能性がある」が10.9%の割合である。

これらの情報から、埼玉や千葉、茨城などの首都圏近郊や7大都市圏では、東京から本社を移転するという戦略に可能性がないわけではないことがわかる。特に、本社工場や国内の研究開発拠点を持つ企業の本社を誘致することは、ルピシアのように挑戦のしがいがある。(ただ、サンスターのように日本を飛び出して海外に本社移転してしまう可能性もある。)しかし、47都道府県のうち、大多数は本社移転の候補地となりにくい。それでは、私の住む大分県のような地方はどうすべきだろうか。

理論上は日本はどこからでも大企業が生まれる

政策論的な話で言えば、おそらくは道州制の話になるのだろう。7大都市圏を中心として道州を作り、各地域内で辻褄を合わせる。もちろん、道州制は良いことばかりではなくリスクの多い選択だ。道州同士の格差が大きくなる可能性もあるし、地方レベルの失策が住民に及ぼす影響が大きくなる。そのため、地方の政治家や自治体職員の質が問われることになる。しかし、このまま現状維持ではじり貧なこともわかっており、楽な道など存在しないことが伺い知れる。

政策論では現状、何を選択してもリスクと課題があり、次善策を選ぶことになるだろう。しかし、個人や企業レベルではやれることがまだまだある。日本のGDPは世界第3位であり、格差が広がったとはいえまだまだ1億総中流社会の範疇にいる。インフラ整備は地域間の差が諸外国と比べると相対的に少なく、教育格差も同様だ。全都道府県に国立大学があり、一定レベル以上の高等教育機関があるのも強みだ。最近の地方大学もグローバル人材の育成に力を入れている。大分県のAPUや秋田県の国際教養大学だけではなく、地方国立大学でも交換留学で1割程度の学生を海外に送り出しているところも増えてきた。これらの要素を鑑みると、環境だけの面で見れば各都道府県は規模の大小はあるものの欧州の小国程度の条件を持つ。なにもせずに将来を悲観するにはまだ早いと言えるだろう。

例えば、大分県は人口はエストニアと同程度で県内GDPはチュニジアくらいの規模を持つ。チュニジアといえば、ジャスミン革命による民主化後に経済成長を遂げ、北アフリカのスタートアップと観光産業をリードする国だ。尚、ユニコーン企業を数多く輩出するバルト三国のエストニアのGDPは佐賀県と同程度である。つまり、日本の都道府県は世界的に見れば大きいのだ。

チュニジアにしろ、エストニアにしろ、勢いのある小国家には共通点がある。地元経営者や起業家の海外志向が強いことだ。国内市場が小さいために地元市場に立脚したビジネスでは経営が安定しない。そのため、創業時から世界展開を意識してビジネスモデルを構築する傾向にある。同時に、留学生の起業が盛んなことも特徴だ。米国でもそうだが、世界規模に成長するスタートアップのかなりの数が母国民ではなく、留学生や在外外国人が生み出すことが多い。ルクセンブルクで起業し、エストニアで成功した Skype の創業者2名はスウェーデン人とデンマーク人である。

SKYPEの創業者のニクラス・ゼンストローム氏は、WIRED NEWS のインタビューで以下のように答えている。

グローバルに考えるべきだ。大きく考えていないなら、大きくはならない。われわれは最初から、Skypeを国際的なビジネスとして考えていた。ルクセンブルクで会社を開き、エストニアのソフトウェア開発者たちを雇い、ロンドンに移動した。インターネットには国境は無い。

また、英国発のグローバル企業であるダイソンやブリュードッグも創業の地は片田舎の地方都市だ。ダイソンの創業の地であり、シンガポールに移転するまでの本社があったのはロンドンから車で2時間に位置するマルムズベリー(人口5000人)だ。日本で言えば、山梨県南都留郡山中湖村から世界企業が生まれたようなものだ。ブリュードッグは、スコットランドのフレイザーバラ(人口1万3千人)が創業の地だ。日本だと、新潟県阿賀町と同じくらいの人口だ。

これらの欧州の事例は、グローバルに考え、大きくビジネスを考えて挑戦することで、地方都市からでも大企業が生まれることを私たちに教えてくれている。大企業や首都圏に依存せず、世界を狙う人材が地方から増えることで地方都市は成長する余地がまだある。日本を見ても、地方発のグローバル企業は数多くある。トヨタやヤマハ、スズキなどの四輪・二輪メーカーを筆頭に、ブリヂストン、ニトリ、ユニクロ、カゴメ、キッコーマン、リョービ、TOTOなど事例に事欠かない。世界に目を向けることで、地方都市には伸びしろがまだまだある。

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