2024年M1、松本人志さんの抜けた役割は誰が担ったのか、審査員9人は最適なのかをデータで確認する
阿部一二三選手のクジ運に「これがオリンピック連覇して金メダルを獲る人間の強運か」と全国民が慄いた24年のM1グランプリ。再びトップバッターで登場し、阿部一二三選手同様に連覇を果たした令和ロマン、皆さま、お疲れさまでした!
18年は久保田暴言問題、19年は上沼大暴走問題、20年はあれは漫才なのか問題、21年は上沼大暴走問題リターンズ、22年は山田かつてない採点問題、23年はナイツ塙「M-1八百長ドッキリ」問題…。
毎年何かしらネットが荒れるM1グランプリ。記念すべき20回目のM1は、松本人志さん不在という「最悪」の事態で幕を開けましたが、終えて見ればネットも荒れることが無く、バッテリィズのエースさんという「ワクワクするバカ」の活躍を目の当たりにするだけでなく、「うんこサンドイッチ」「剛力彩芽の顔を入れ替える」「偏った政党のポスター」「にぎり海峡飯景色」「細そう過ぎる」「自転と公転さえ分かれば」など様々な名言が飛び出して、過去最高の余韻に浸っています。
筆者は、バッテリィズが優勝だと思っていました。昨今トレンドの「誰も傷付けない笑い」(アンチテーゼとしてのウエストランドの毒舌)を超越して「言いたいことも言えないこんな世の中に誰かを救う笑い」としての完成度がえげつなかった。1週回ってアホが1番賢い。
毎年、データを用いて分析を行い、何かしらのバイアスを浮き彫りにするのが筆者にとって恒例行事だったのですが、今年はデータを用いて「松本人志さんの穴を埋めたのは誰か?」「審査員は本当に9人が良かったのか?」を考えたいと思います。
松ちゃんの抜けた穴を埋めたのは誰か?
まず、24年M1の採点をヒートマップで振り返ります。
最低得点は87点(アンタッチャブル柴田さんがトム・ブラウンに対して)、最高得点は97点(多数)でした。
赤(高得点)と緑(低得点)の色を俯瞰して見ると「令和ロマン、真空ジェシカ、バッテリィズ、エバースの得点が高いな」「ともこ姉さん高得点多いな、笑い飯哲夫さん低得点多いな」と分かります。
こうしたコンテストの採点方式として、1組目を基準に設定して「それを上回るか否か」とすることが多いです。M1の場合、誰が言い始めたのか「1組目90点方式」(1組目は不利だから+1点か+2点するとかしないとか)。
ところが、去年も今年も令和ロマンが面白過ぎた。そういう面白い漫才コンビが出だしに登場した結果、90点か91点を付けて基準にしてしまうと、後から登場する漫才コンビと差を付け難くなってしまうのではないか、と長らく指摘されています。
それが24年の哲夫さんであり、23年の松本人志さんだったのではないでしょうか。23年は大吉先生と山田かつてない邦子さんが、さや香に対してメリハリある得点を付けたのですが、松本人志さん的には「でも令和ロマンよりは…」と深く悩んだ結果、その後もかなり採点に苦労された印象が残っています。
一方で「面白かったら90点基準とか気にせず高得点にしたらええねん」と教えてくれたのが、ともこ姉さん(97点)であり、大吉先生・石田教授・かまいたち山内さん(96点)でした。
特に「さすがプロだ」と感嘆したのは、96点の後、ヤ―レンズに91点を付けて、真空ジェシカに97点を付けた、かまいたち山内さんです。ブレない採点基準があるんだろうな、と思いました。
ただ、総じて標準偏差の小さい審査が多かったと思います。2.00点未満が9人中4人(44.44%)もおられました。ちなみに過去を振り返ると、23年は7人中2人(28.57%)、22年は7人中1人(14.29%)、21年は7人中2人(28.57%)、20年は7人中3人(42.86%)、19年は7人中0人(0.00%)、18年は7人中1人(14.29%)、17年は7人中3人(42.86%)でした。
00年代は最低得点として50点も出ていました。極めて標準偏差の大きい審査だったのです。それなのに10年代になって最低得点は80点前半まで引きあがり、20年代は80点後半まで高まっています。それだけ漫才が上手いということでもあり、差が付け難いということでもあります。
そんな中、なるべく点差を広げ、同じ得点を付けようとしない松本人志さんの採点方式は、もっと賞賛されてしかるべきだと思います。22年は86点〜96点まで、ほぼ1点差でキレイに刻みました。筆者は、これを「審査員としての覚悟」だと考えています。それ以前の回も、基本的には同じ得点を避けようとする傾向にあります。
今回、そうした採点に限りなく近かったのが大吉先生であり、アンタッチャブル柴田さん、石田教授でした。
もちろん、塙さんのように90点~95点の間で刻むのも「覚悟」です。つまり、採点の傾向を読み込むと、何かしらの覚悟を持っているとデータから伝わってきます。
毎年思うのですが、M1の「本気度」がどんどん高まり、笑いの大会なのに笑えなくなりつつあります。審査する人を審査するようになり、審査する人を審査する人が審査されるようになっています。ただし、よくよく考えてみると、そもそもが「お笑い」に点数を付けるなんて言っている方が無茶なのです。無茶を道理にするために、何かしらの覚悟も必要です。
松本人志さんからの評価は何者にも代えがたいかもしれません。しかし、松本人志さんの意志と覚悟は、どうやら受け継がれたみたいです。それが分かっただけでも胸が熱くなります。
審査員は9人が良いのか?
松本人志さんの不在、サンド富澤さんの欠場を埋めるにあたって、2人新たに加わるとなると、どうしても「松本さんの代打感」という色が付いてしまいます。だったら、いっそ審査員枠を9人にしてしまい、半分近くを入れ替えてしまおう…という発想だったのではないか、と邪推しています。
しかし、その結果、1点差で2位、3位、4位が並ぶという史上稀に見る事態が起きてしまいました。その差、わずか2点差です。
2位~4位の点差は、審査員が7名だった17年~23年において、18年が18点差(656点、648点、648点)が最大、21年が6点差(655点、655点、649点)と20年も6点差(649点、648点、643点)でした。900点満点の2点差は辛い。
それだけ実力が拮抗していたと言えますし、審査員が意志と覚悟を持って採点した結果とも言えます。
そこで、9人の採点結果を、Rを使って描写してみます。
install.packages("PerformanceAnalytics")
library("PerformanceAnalytics")
chart.Correlation(m1)
採点の傾向として、石田教授とアンタッチャブル柴田さんがめちゃくちゃ似ているようです。逆に1番似ていないのが、塙さんと中川家礼二さん。
さらに、主成分分析も行います。
毎年、志らく師匠と上沼恵美子さんが「真逆の極端」を示しながら、それでも両方が「面白い」と認めたコンビが最終決戦に進出しておりました。一昨年と去年は、山田かつてない邦子さんが「極端」の役割を担っていました。
この採点の幅があるからM1には「意義」があるのです。
だからこそ、今年は僅差も僅差で「好き嫌いが分かれるけど、決勝に進む漫才コンビは審査員の大半が支持している」って状況を作れませんでした。人数が増えれば色んな観点で採点されるが故に、審査員が増えるほど、平均への回帰のごとく得点差は縮まるのではないでしょうか。
各審査員の上位3組に色を塗ってみました(大吉先生は同点3位が2組いらっしゃいました)。
バッテリィズは8人、令和ロマンは6人、そして真空ジェシカとエバース共に5人。マジで微妙な差です。
ここで、邪なことを考えます。平均点90.8点/標準偏差1.99点の哲夫さんの得点差3点と、平均点93.2点/2.40点のかまいたち山内さんの得点差3点は、「一緒」と考えて良いのでしょうか…。
もし、それぞれの得点差を「標準化」した際に、審査員1点の重みが変わることで順位も入れ替わったりするでしょうか。計算してみました。
やすよ姉さんは令和ロマンに平均+2.2点付けているのですが、石田教授はバッテリィズに平均+4.6点付けています。しかし、標準偏差で割った結果、得点の重みは変わりどちらも+1.5点となりました。
その結果、各審査員の点数の合算を見ると、バッテリィズ、令和ロマン、非常に僅差で真空ジェシカ、エバースの順番になりました(そりゃそう…なのか?)。
わずか1点差、ただし大きな1点差だったのではないか。そのように感じています。
もちろん、順番が違っていたら…エバースが真空ジェシカより前だったら…など色んな可能性があるんですけどね。もう、それは言い出したらキリが無いかな、と考えています。
M-1 2025に向けて
今回もTwitterのわたしのタイムラインはM1一色となりました。検索トレンドもM1づくしとなり、同時タイミングで放映されていた「海に眠るダイヤモンド」も、衆院選さえなければ…と思うところもあります。石破め。
松本人志さんは復帰されるのか。バッテリィズのエースさんはどこまで売れるのか(モグライダーのともしげさんに近しいバカ・アホ枠だけど、なんだろうこの感じ…よゐこ濱口さんのようでも無いし)。25年のM1で確認したいことが既にたくさんあります。
いつだってM1は新しい歴史を作ってくれると信じています。やらない後悔より、やって大成功できる舞台だから。以上、お手数ですがよろしくお願いします。