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有給インターンシップで人材の流動性を高める

圧倒的に足りないIT人材

世の中の急激なDXが進む中、IT人材の不足は深刻さを増している。経済産業省が2016年に公表した「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査」では、2030年には最大で約79万人のIT人材が不足する試算だとしている。IT人材をどのように賄うのかは大きな問題だ。

そのような中、サイバーセキュリティ企業のトレンドマイクロ社が思い切った取り組みをしている。非IT職を対象として有給インターンシップを募り、そこでトレーニングを積ませて、IT人材としての新たなキャリアをスタートさせようという試みだ。

同社の試みは素晴らしいことだ。不足する人材の獲得方法は、基本的に2つしかない。「育てること」と「採用すること」だ。そして、後者に比べて前者は圧倒的に難易度が高い。

難易度を高める原因は、企業側と個人側の双方にある。
企業側からすると、人手不足に陥っている状況では即戦力が欲しい。育成に割く余裕が時間的にもマンパワー的にもない。加えて、競争力のある労働条件を提示できる企業であれば良いが、中小企業で条件もそこまで出すことができない場合にはさらに厳しくなる。
個人側の視点では、そもそもIT人材としての向き不向きがある。特に、文系・理系という分類が強い日本では、文系人材が理系であるIT技術を学ぶことへの心理的なハードルが高い。自分は文系だという自己認識があると、IT技術を学ぶ中で困難に直面した時にモチベーションの維持が難しくなる。
加えて、最も多くの求職が出ているシステムエンジニアの働き方のイメージも悪い。「休みがとりにくい」「深夜までのサービス残業や休日出勤が当たり前」「デスマーチと呼ばれる職場に泊まり込みでのプロジェクト進行」など、ブラックなイメージが付きがちだ。

有給インターンシップで未経験者の育成を大企業が担ってくれるというのは、社会にとっても利益が大きい。有給インターンシップの参加者で、その後の就職に繋がらなくても、その人材はITのスキルを身に着けている。そういった人材が労働市場に出てくることで、市場の流動性が高まる。
加えて、個人にとっても、有給インターンシップとして働きながら学ぶことで、IT人材としての働き方を試しに体験することができる。そこから、自分がIT人材としてキャリアを歩んでいくことの具体的なイメージを持ちやすくなる。

IT人材育成と地方移住の組み合わせもある

有給インターンシップではないが、同じように育成を大きな組織が担うことは重要な取り組みだ。行政が主体となっている例では、大分県が主催で移住希望者ウケにプログラミングスクールを無料で開講している。IT人材としての訓練を受けて、大分県への移住と就職まで一貫して支援する。

特に、地方ではIT人材の不足が都心部よりも深刻だ。そのため、このような移住と就職、人材育成がセットとなった取り組みが重要になる。

IT人材の不足にどう向き合っていくか?

IT人材の不足は、これからも進んでいくだろう。20年前であれば、そのための対策として学校教育を改革することで対応できたかもしれない。実際に、インドやマレーシア、北欧ではそのような教育改革を実施してきた。しかし、今となっては教育改革だけで乗り切れる状態ではなくなってしまった。社会人のトレーニングとキャリア転換も積極的に推し進めて、IT人材の不足に対応していくしかない。

このような社会課題に対して、これまでの日本社会は後手後手に回っているが、今やれることをなんでもやって、乗り切っていくしかない。


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