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複業人材を生かすには「あそぶように働く文化」が必要だ!~大組織と複業人材を隔てる大きな壁の話~

 Potage代表 コミュニティ・アクセラレーターの河原あずです。2020年4月に独立する前は、バリバリの現役大企業内複業人材でした。

 コロナ禍がひとつのきっかけになったのでしょうか。数多くの大手企業が社員の副業を容認したり、社外から複業人材を募集したりしています。下の記事を見るだけでも、みずほ銀行、ANA、キリンホールディングスなど名だたる企業が副業を解禁し、ライオン、Zホールディングスが、複業人材を公募していることが話題になっています。他にも、ダイハツ、ダイドー、愛媛県などが複業人材募集を開始しているようです。

 しかし、これらすべての会社や組織が複業人材を社内で生かすことができるかというと、まだまだ壁があるように個人的には感じています。それは、自身の経験からくる「大企業文化」と、複業人材の思考に隔たりを感じるからで、会社員時代はその隔たりについて常に問いかける日々でした。

 そしていざ独立して、一定の距離をとりつつ大きな会社と複業人材の働き方を見直してみたときに、ふとこの隔たりの正体に気づいたのです。

 答えからいうと「あそぶように働く」感性に対する許容度の差が、この隔たりをつくっているのだと考えています。

 どういうことかを実体験も混ぜながら以下解説していきます。複業について考えている方、複業人材を雇用されている方、社外人材との協業を進めている方には、ぜひ読んでいただけると嬉しいなと思います。

「あそぶように働く」とは?

 「あそぶように働く」とは何か。別に、就業時間内にさぼるとか、そういうことではありません。ぼく個人が勝手に考えている概念なのですが、遊び心を持ちつつ、自分の持っている特性(個)やスキル、経験を活かしながら、既存の枠ではおさまらない事業を開発したり、自分が価値だと思うことをひたすら追究したり、既存のプロセスを疑いながら変えていく姿勢のことと定義しています。

 ひらたくいうと「周りとわいわいしながら目的に向かって夢中になって働いている状態」と定義できるかもしれません。 

 「あそぶように働く」感性が発芽するトリガーには2つあります。1つは「夢中になってたまらない絶対に実現したいアイデアを思い立ったとき」、もう1つは「この人(や組織)ととにかく仕事をして新しいモノコトをかたちにしたいと思い立ったとき」です。


 たとえば、起業家の気質はこれにかなり近しいものがあります。社内で自分から発案して新規事業をやる人たちも同様です。大体においては、多動的な傾向もあり、社外の友達がやけに多かったり、出張で日本中世界中飛び回っていたり、SNSでの発信力が強かったりするケースもあります。常に仲間を探していて、「意気投合」を起こしやすく、次々と新しいプロジェクトを立ち上げていくのです。

 自分から立上げるタイプもいれば、そういうタイプを支えるのが好きなタイプもいたりしますが、共通しているのは「共感できるビジョンを持っている仲間とわいわい夢中になって働きたい」と考えている点です。この定義はとても大事なので、ぜひ覚えておきつつ、読み進めて下さい。

複業の本質は「あそびづくり」にある

 そしてぼくの見立てによると、世にいう「複業人材」の多くは、この「あそぶように働く」感性を持っています。みんな、共感してくれる仲間とわいわいしながら自分の夢中を追究したいから、仕事を新しくつくったり、増やしたりするのです。

 なぜ違う職場を求めるか。それは、今所属している場だけでは実現できない、温めているアイデアがあったり、今所属している場では一緒に働けない、意気投合した仲間(候補含む)がそこにいるからです。

 複業の本質は「あそびづくり」にあると個人的には考えています。世の中に新しい価値を届けたり、みたことのないビジネスをつくりだしたり、既存の価値観が変わるようなコトを生み出す、そんな「あそび」です。その「あそび」は、スケールが大きくなればなるほど、一人では実現できないので、一緒にプロジェクトをすすめる仲間を求めるわけです。言い方をかえると「あそび仲間」を見つけに行くわけですね。

 ちなみに、大事なのは、このあそびが「お金を生み出す(持続的なビジネスとして成立する)」点です。
きちんと所属先の事業に結果として貢献できるという目算があるからこそ、わざわざ組織と一緒に遊ぶという選択をとるのです。ぼくの知る限りでは、ただ単に副収入が欲しいから「複業」をするという人は、生粋の複業人材の中にはほぼ存在しません。ここも重要なので、おさえつつ次の章にぜひ進んでください。

※複業の定義としては、西村創一朗さんのこちらの記事を参考にしています。自己実現、社会貢献という目的を実現する手段が当記事でいう「あそび」ということになります。

「あそびづくり」を「趣味」とみなす組織

 ところが、多くの大企業組織では、この複業人材的「あそびづくり」の概念は、理解されないことがほとんどなのです。

 自身の例を述べます。大企業社員時代、業務の必要上、売上を立てつつ国内や海外に出張することが多かったのですが、「出張行けていいなあ」とか「なんで行くの?」とか、何度も言われていました。クライアントからの要請があったとしても、見積書と契約書があったとしても、細かい行程表を提出しても、たくさんのハンコを出張稟議で押されても、です。このような言葉は、出張の多い人は必ず一度は言われたことがあると思います。

 おそらく言っている当人たちは何の悪気もなく言っているのですが、この何気ない無意識の発言は、日本の大企業組織の「あそびづくり」に関する感性の欠如を見事にあらわしています。要するに「こいつは出張が大好きで、基本、遊びに行っている」と、つまり「趣味」でやっていると思われているわけです。

 これは自身の話ではないですが、ある人に聞いた話だと中には「出張にいくなら仲間に入れてほしい」と近づいてくる社員もいるそうです。基本的にはその人たちは「地方で美味しいものを接待費で食べれる」「ついでに自費延泊すれば旅行になる」などの、いわゆる趣味的な「遊び」の動機で寄ってくるので、ビジネスプロジェクトにとってプラスになることはありません。これは趣味でやっているのではなく仕事だしと、丁重にお断りすると嫌な顔をされるので、それに苦慮するなんということも少なくないようです。言い寄ってくるのが上役の方だったりするとなおのことでしょう。

 これは自身の経験談ですが「これだけ好きにやっていれば、ちゃんと本業に注力したらもっと成果が上がるはず」というニュアンスのことを周りから言われたこともあります。これも言っている本人に悪気がないのはわかるのですが、やはり「趣味の一環でやっている」という無意識のバイアスが存在するのがよくわかります。

「あそびづくり」を理解しない組織が複業人材を追い詰める

 そんな「無意識の圧力」の数々が、複業人材のHPを徐々に徐々に削いでいきます。最悪の場合、パフォーマンスを上げても人事評価に結び付かない、なんてこともあります。上長が上手にかばってくれているうちはいいのですが、人事異動で上長がいなくなった瞬間に「あそびづくり」が続けられなくなる、なんてこともよく聞きます。こんな環境では、複業人材がフットワーク軽くアウトプットをつくっていくことは、不可能ですよね。

 先ほども書いた通り、複業人材は「共感できるビジョンを持っている仲間とわいわい夢中になって働きたい(あそびたい)」と思って、パラレルワークの道を選ぶのです。共感できる人が減り、組織のビジョンが見えず、周囲からは趣味でやっていると思われている状態になれば、すぐに別の場を見つけることでしょう。

 同じく、他社で複業をしたり、プロボノで活動をしている社内の複業人材についても、「遊んでいる」とみられることが多いのが実情です。たとえば、評価面談で「そのエネルギーを本業に注いでくれれば…」などと心無い上司から言われるケースも少なくないようです。

 これはぼくは幸いにして経験ないですが、複業はプロボノ(報酬なし)でやっているのに「外で稼いでいるんだろう?」という嫉妬混じりの声を聞くという方も、中にはいるようです。

 もちろん、企業が多くの複業人材に門戸を開いたり、社員に複業を奨励するのはいいことです。しかし、大事なのは、複業人材が生き生きあそびをつくれる環境に組織があるかどうか。つまり「あそぶように働く」ことに敬意を表せる文化がきちんと存在するかどうかなのです。その心の準備がないまま数だけ増やしても、複業しつつパフォーマンスを発揮できる優秀な人材は、どんどん流出していくでしょう。

「あそび」を許容する組織づくりのために(文化面)

 ではどのようにして、許容する文化づくりをすればいいのでしょうか。いきなり文化をつくれ、と言われても難しい話です。特に官僚的、保守的な大組織のマインドが変わるには時間がかかります。中長期の施策が必要になってくるでしょう。

 たとえば、他社との人材交流を中長期で増やしていき、社員の気づきをうながしていくことはひとつ重要になります。それも、違うバックグラウンドを持つ起業家、新規事業担当者、アーティスト、クリエイターなど「あそびながら価値をつくっている人たち」の価値観と社員を引き合わせ、徐々に慣らしていくのです。多様性を元にして柔軟なアイデア発想を促す研修などを活用するのも効果的です。(Potageでも研修プログラムを提供しています)

 出島的な場所(物理的+体制上)をつくり、そこで複業人材を投入するのも効果的です。特にリサーチや新規事業開発には有効でしょう。スポンサーとなる役員や事業部長の配下にして、すぐに決断できる体制を構築できると、複業人材はスムーズに業務に没入できます。

「あそび」を許容する組織づくりのために(制度面)

 制度面のフォローも重要です。人事部が中心になりきちんとフォローアップしたり、複業の有無が評価に影響を与えることのないように中間管理職としっかりコミュニケーションをとることも大切です。

 実は最も大事なのは、契約面です。契約上は業務委託になることも多いでしょうが、業務委託を「外注」という感覚でとらえていては、複業人材活用はうまくいきません。契約形態問わず、複業人材は大事な「仲間」です。不当にならないような契約の締結が企業側には求められます。

 冒頭で上げたZホールディングスの事例のように、応募者の多くが収入の多寡を求めていないケースもあるので報酬については一概には言えませんが、複業人材それぞれの要件に応じて、契約条件の整理が必要です。

 実は、スペシャリストの複業人材との契約でいちばんもめるポイントは、報酬よりも知財(知的財産権や著作権)です。制作物の権利所属に関しては、明確に協議の上、取り決める必要があります。特に外部から名のあるスペシャリストを登用する場合は、共同制作物として取り扱ってほしい、名前をクレジットしてほしい、事例として対外的に発信させてほしいというニーズもあるので、注意が必要です。

 これは知人の複業人材の例ですが、とある大企業と、契約書を交わさずに、スピード感を重視するために案件都度の見積ベースで取引をして、プロジェクトの立ち上げをした際に、その方が出したアイデアがプロジェクトの根幹の部分で採用されたが名前がクレジットされず、プロジェクトが軌道にのった段階で次回見積の価格を大きく下げられ、事実上はずされたということがあったそうです。

 契約を締結していれば下請法による保護対象になったのに、知財に関する取り決めもできたのに、と後悔したそうですが、権利を主張することもできず、泣く泣く袂を分けたとのこと。クリエイターの場合は、有形の成果物、無形のアイデア、エンジニアの場合はプログラムのソースコードなどなど、それぞれの権利帰属や納品物を整理し、お互いがきちんと納得できる形でプロジェクトをはじめる必要があります。

 とはいえ契約に時間がかかるのも複業人材の視点からすると問題となるので、スピーディに契約がかわせるようにひな形を準備する、法務部門ときちんと話を通しておく、知財の所属範囲を明確にするなど、あらかじめしっかり準備することが求められます。

 複業人材がしっかり「あそびづくり」に邁進できる場所になるよう、組織全体でひとつひとつしっかりと受け入れについて考えて、環境を整えていく必要があります。

形から入らず「あそぶように働く」本質を理解しよう

 というわけでつらつらと書いてきましたが、従業員の労働時間短縮、ジョブ型への移行など、さまざまな時代の要請で「複業人材」がクローズアップされている昨今。大事なのは、かたちだけ取り入れるのではなく、きちんとそれぞれの人材が生きるように本質を理解し、真摯に取り組んでいくことだと考えています。

 そのためには複業人材の持つ「あそぶように働く」「あそびをつくる」という感性を理解し、受け入れていくことが大事ですし、中長期かけてでも、会社、組織の従業員のできるだけ多くが、この感性を理解し、ちょっとずつでも実践できるようになることが大事ではないでしょうか。

 ぼく自身も、自身の複業人材としての経験から、多様な人材や働き方を自分ごととして落とし込む研修プログラムの提供や、コンテンツの提供、組織開発や事業開発のお手伝いをしておりますので、もしご興味ありましたら、お声がけいただけますと幸いです。

 こちらの記事は、下のCOMEMOお題を元に執筆しました。さすがなKOLなみなさんが読み応えある記事を多数あげられているので、ぜひチェックください!

#日経COMEMO #複業人材を生かす組織とは

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