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外国人の嫌がる「日本人の視察」がなくならないのは、生産性への意識が低いから

近年、スタートアップ企業が数多く生まれ、勢いのある国としてエストニアに注目が集まっている。そのため、エストニアのスタートアップ企業へ視察目的で訪問する日本企業が増えている。しかし、ダイアモンドオンラインの記事を見ると、日本からの視察団は歓迎されているどころか、敬遠されているらしい。

このような現象は、今に始まったことではない。少し前は、優れた社会福祉や教育システムを学ぼうとフィンランドに大量に視察団が訪問し、迷惑がられていた。もう少しさかのぼると、シリコンバレーへの視察団に対しても同じようなリアクションがあった。

なぜ、日本の視察団は同じことを繰り返してしまうのか。原因として考えられる3つの点について、考察してみたい。


1.そもそも、嫌がられることを問題視していない

文字にしてみると虚しさが際立つが、視察を組むときに「海外の事情を把握しなくてはならない」という社内事情ばかりが優先され、視察を引き受ける側の立場を考慮していないことがある。

情報収集のために、現地に足を運ぶことは悪いことではない。どちらかというと、三現主義に則って、良いことと言える側面もある。反面、直接赴くことの生産性の低さが軽視されることが多い。

「ちょっと話を伺いたい」「ご意見を頂戴したい」という場面は、海外視察だけではなく、至る場面に存在する。そして、多くの場合、声をかけられた方は応対している間の自分の生産性が低下するためにあまり良い気持ちがしない。

例えば、似たような事例で「講演の質疑応答では誰も手を上げないのに終了後に質問者が列を作るので、外国人講師が怒った」という話がある。質問があるなら質疑応答の時間にすべきであり、講演後に個別に質問を来るのは講師の時間を奪う行為になる。つまり、自分の事情が優先されて、相手の生産性に対して無頓着になってしまっている。

しかし、「直接会う」と言う行動の生産性に対して配慮ばかりをしていると、「情報を早く仕入れたい」「乗り遅れないように最新の情報を仕入れていたい」という社内のニーズに応えることができない。そもそも、個社の事情に照らしてみると情報収集は頻繁にあることではないので、多少相手の心証が悪くなっても自分たちの業務に不都合はない。その結果、残念ながら社内の事情が優先されるケースは多い。


2.成果は「0⇒0」を求めるか、「0⇒1」を求めるか

視察に対する受け入れ側の不満には、視察の成果に対する考え方も影響しているように思われる。それは、視察によって新しい何かを生み出すことを志向する「0⇒1」か、視察をすることで世界の情勢に取り残されていないという安心感を得ようとしている「0⇒0」なのか、目的に違いがあるということだ。

例えば、海外のシンポジウムや展示会で日本企業の視察団と会うと、「これくらいなら、ウチでも似たような取り組みをしているから、まだまだ大丈夫ですね」とホッと胸をなでおろす姿を目にすることが多い。最近だと、深センのキャッシュレス事情を見て、「日本にもお財布ケータイはあるし、QR決済のサービスもあるから平気だ。顔認証決済も取り組んでいるようだが、技術はあるから置いて行かれていない」といった感じだ。「通貨よりもキャッシュレスの方が当たり前」「新しいことへ挑戦する貪欲な姿勢」「屋台での支払いすらキャッシュレス」という社会変革にまで目を向けないようにしている。つまり、安心を求めに視察をしており。現状をゼロとしたときに、マイナスに陥っていないことを確認することが目的となっている。

しかし、情報提供をする立場としてみると「0⇒0」を目的とされると、情報提供をしたメリットが何もない。「0⇒1」が生まれるのであれば、そこから共同プロジェクトの機会やお互いの発見事実を共有し合うことによるシナジー効果が生まれる。視察を行う人は、自分たちの期待する成果が「0⇒0」の安心感を求めるためのものなのか、「0⇒1」の創発的なものなのかを意識して欲しい。


3.視察時に明確なアウトプットを意識していない

視察時に、アウトプットのイメージがないために決済権を持たずに来ることも、欧米企業から敬遠される理由の1つだ。

日本側の立場からすると、決済権を付けるかどうかの判断材料として情報収集をしているので、その場で話が進むわけでもなければ決済権を持つ人が来るわけでもない。しかし、ビジネススピードの早い市場で成果を出している立場からすると、意思決定のスピードが遅すぎて話にならない。決済権のない人に情報提供をしても百害あって一利ない。

ここで、日本企業の意思決定プロセスと欧米系スタートアップ企業の意思決定プロセスの構造的ギャップが軋轢を生むことになる。日本企業の場合、意思決定は日本本社で行うので、現場で情報を集めてくる従業員に権限が与えられない。本社に戻り、情報をチームで精査し、総合的な判断を下すことを好む。一方、欧米系スタートアップ企業だと権限をあらかじめ与え、その場で意思決定をしてしまう。つまり、視察の前段階からアウトプットを想定し、実行のための準備を整えてしまう。

視察時にアウトプットを決めることの良し悪しは、企業の方針と状況によるだろう。しかし、生産性という観点から見ると、日本企業の意思決定プロセスは非効率的だと言える。


これらのことを踏まえると、結局のところ、日本企業にとって「生産性が低い」と視察を嫌がられることが大きな問題として考えられていないのだろう。そして、ここでは海外視察に焦点を当てているが、同じような問題は国内でも良く見られる。訪問すること、会うこと、挨拶することが目的となってしまい、「直接会うことの生産性」が二の次になっているケースは多い。

しかし、「生産性の向上」は日本企業が早急に解決すべき最重要課題の1つである。海外への視察を検討している企業の方は、是非、生産性について考えたうえで、訪問先にもメリットのある視察を行っていただきたい。

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碇 邦生(大分大学)

大分大学経済学部の講師(人的資源管理論)をしています。採用や育成などのタレントマネジメント、地方創生・地方発ベンチャーなどの話題を中心に取り上げていきます。自動車メーカーやシンクタンクを経て、30代で大学教員とジョブホッパーです。 ※日経のキーオピニオンリーダーに選出されました。

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コメント2件

これだけ海外旅行が安くなり、当たり前になったにも関わらず、企業による視察を「タダで海外旅行できる贅沢」と思っているふしがありますね。訪問の視察通訳をやっていて心底呆れました。簡単に情報が入手できるのに相手の事を全く調べてこない!訳すのが恥ずかしいような質問を平気でする!!10回に9回は最低レベル、対応する相手企業・組織の「お邪魔様」を全く考えていないのです。最近相手も呆れて有料にし出しました。
「タダで海外旅行できる贅沢」という感覚は驚きですね。
私の周りで結構聞くのが、現地の言葉がわかるメンバーに下調べなどをすべて任せてしまい、視察メンバーで事情がわかっているのが1人だけというパターンです。
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