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ISO30414等の売り文句としての「人的資本経営」と政策としての「人的資本経営」

以下の記事にもあるように、人的資本情報の開示について法整備が進むなかで、益々「人的資本経営」の動きが盛り上がっています。

この流れのなかで、人材ビジネス関係の方々が「人的資本経営」という言葉を使って、自社のサービスやツールを売り込んでいる例も多く見られます。
当然、ビジネスであるので、そのように「人的資本経営」という言葉を使うことは否定し難いところです。
しかし、経産省で人材版伊藤レポートを担当した立場からすると、政策としての「人的資本経営」の狙いや人的資本情報の開示について、企業の方々に誤解を与える可能性のあるものも見られます。

「ISO30414への対応=人的資本情報開示」ではない

まず、「人的資本情報開示への対応」と書かれつつも、中身としては「ISO30414」を解説する例が見られます。

ISO30414では、コンプライアンス、リーダシップ、組織文化、健康安全等の開示指標を示し、例えば研修費用、研修時間、離職率、定着率等の具体的な開示項目を示しています。

確かに、ISO30414は重要な指標であり、今後の国際的なスタンダードになる可能性はあります。
しかし、今、政策として求めている人的資本情報の開示との関係では、ISO30414で示された開示項目を開示すれば足りるかというと、そうではありません。

ISO30414は開示指標の「例示」に過ぎない

内閣官房が示した「人的資本可視化指針」では、「比較可能な開示項目」として、ISO30414等の開示指標を挙げています。


内閣官房「人的資本可視化指針」より

しかし、可視化指針では、「ただし、ここで挙げた開示事項は、あくまでも例示として参照することが期待される。」、「最も重要なことは、自社の経営戦略と人的資本への投資や人材戦略の関係性(統合的なストーリー)を明確にし、それを表現する上で適切な開示事項を主体的に検討していくことである。」としています。

このように、あくまでISO30414等の開示指標は、比較可能な開示項目の“例示”にすぎず、これらを全て開示することが必要というわけではないですし、むしろ、経営戦略とのストーリーが不明確なままにこれらの開示指標の開示事項が開示されることは期待されていません。

したがって、「人的資本情報開示への対応」は、「ISO30414に対応すればOK」というわけではありません。

会計学上のアカデミックな「人的資本」の議論は避けている

また、人的資本情報の可視化というと、会計学等で、「人材を資産として認識できるのか」といった議論がされています。

人材版伊藤レポートでは、そうした会計上の議論には触れていません。
そもそも、人材版伊藤レポート等では、「人的資本」について明確な定義を書いていません。

この点は、アカデミックに研究している方からすると批判もあり得るところではありますが、ひとまず政策として人的資本情報の開示を進めるにあたっては、経営戦略との統合的なストーリーを開示してもらうことを重要視しています。

狙いは「経営戦略と人材戦略の連動」であり統合的ストーリーの開示が必要

これまでnoteで何度も書いてきましたが、人材版伊藤レポートないしは今進められている人的資本政策の狙いは、「経営戦略と人材戦略を連動させ企業価値を向上させること」にあります。
そして、人的資本情報の“開示“は、その統合的なストーリーを資本市場や労働市場に開示し、対外的な評価の仕組みを作ることで、経営戦略と人材戦略の連動をより向上させていくことを目指すものです。

したがって、自社の経営戦略に応じて独自に統合的ストーリーを示し、それを根拠づける指標を示すことが求められており、かつ、それで足ります。「これこれを開示しなければなりません」という難しい話ではないのです。むしろ、政策目的からすれば、画一的な対応はむしろ控えてほしいところです。

人材版伊藤レポートや可視化指針をよく読んでほしい

冒頭述べたように、今、「人的資本経営」という言葉を活用してさまざまなサービスが展開されています。
しかし、「政策として」今求めているものが何かについては、人材版伊藤レポート、人材版伊藤レポート2.0、人的資本可視化指針をよく読んでいただけると良いかと思います。
特に、一連の指針の始まりとなっている人材版伊藤レポートは、抽象的ですが重要な考え方を示しているで、是非ご覧ください。

※人材版伊藤レポートについては、以下を始めとして色々書いていますので是非ご覧ください。


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