家計貯蓄率に対する誤解
停滞する個人消費 インフレ時代のデータの見極め方 - 日本経済新聞 (nikkei.com)
昨年7-9月期の家計貯蓄率が季節調整値で▲0.2%マイナスに転じました。
季節調整値でマイナスに転じたのは2015年7-9月期以来8年ぶりとなります。
しかし、内閣府が公表する家計貯蓄率は、実際には支出を伴わない固定資本減耗も支出したものとみなされることになります。
そこで、固定資本減耗を除く前の総可処分所得を基に家計貯蓄率を計算し直すと、実際の家計貯蓄率は一般的に公表される数値よりも+7ポイント以上高くなっています。
こうしたことからすれば、直近昨年7-9月期で▲0.2%となった家計貯蓄率も実際は+7%以上のプラスである可能性が高いといえるでしょう。
そして、家計金融資産が順調に増加を続けている背景には、少子高齢化が進むわりに無職世帯が増えていないことがあります。
また、当初の想定ほど日本の高齢者無職世帯は金融資産を取り崩していないことも一因でしょう。
こうした中で、少子高齢化により貯蓄を積み増す現役世代より貯蓄を取り崩すシニア世代が増えることで家計全体の貯蓄率が低下し、家計貯蓄による国債購入原資が減少することで金利に上昇圧力がかかるとする考え方があります。
しかし、シニア世代が切り崩した貯蓄はそのまま国内から消滅するわけではなく、購入した財やサービスを提供する企業や政府およびそこで働く労働者すなわち家計に分配されることになりますので、そのままマクロの貯蓄減にはつながりません。
また、政府債務残高が家計の純金融資産残高を上回ると国債消化に困難が生じ、金利が上昇して財政危機が起きるとする向きもあります。
しかし、政府が国債発行で調達した資金を使うと、家計や企業の預金が増えます。
このため、国債消化は金融政策が大きなカギを握ることになります。
そして、これまで日本は国債残高が膨張を続けてきたのに長期金利が下がってきたのは、企業部門が異例の資金余剰主体になってきた構図が影響しています。
また、日本の政府債務残高/GDPが200%を大きく超え、主要先進国の中でも突出して高いことから主要先進国並みに下げるべきという議論も、各国でISバランスの構造が異なる分、政府債務拡張の余地も異なってきます。
企業の信用創造が旺盛な米国では政府が信用創造を増やすとマクロの信用創造が行き過ぎるため、政府の信用創造の余地が限られることになります。
しかし日本では、企業部門の信用創造が乏しいため、政府の信用創造の余地が米国に比べて大きくなります。
こうしたことからすれば、企業の信用創造とのバランスを考慮せずに政府の信用創造を過度に抑制しするぎると、マクロ経済の安定に支障をきたすリスクが高まることには注意が必要でしょう。
確かに自国の政府債務/GDPの上昇を抑制すること自体には意味がありますが、政府債務のGDP比を国際比較すること自体はマクロ的にそこまで重要ではありません。
このため、財政リスクはマクロ全体での資産負債の膨張度合いを比較して判断すべきでしょう。