米大統領選を通じたSNSへの規制がもたらす保守系メディア(Parler)の躍進とその背景
米大統領選投票、そして大手メディアによるバイデン候補の当確が伝えられてから既に2週間以上が経っているにも関わらず、現職大統領のトランプ氏が敗北を認めず、選挙不正を訴え続けている不穏な状態が続いてます。
「米大統領選 癒えぬ分断」というテーマの連載コラムでもそうした状況が紹介されてますが、そんな中、気になっているテーマの1つが投稿コンテンツを検閲しないことを売りにして、投票日以降に保守派やトランプ支持者がTwitterやFacebookの「代替SNS」として飛びついているソーシャルメディア・サービス、「Parler(パーラー)」です。
2018年に設立されたParlerは投票日前には450万人程度の利用者だったのが、バイデン氏の当選が主要メディアで伝えられた直後からiOSやアンドロイドのアプリダウンロード数が全米トップに急遽ランクインし、現在では登録利用者が1,000万人以上へと急増し、アクティブな利用者も20倍になったと報じられています。
日本語に翻訳されているパーラーに関する記述では上記記事(紹介動画)に詳しくその特徴が描かれてますが、昨今規制が厳しくなり不正確な投稿やヘイト目的のコンテンツに対するラベル表示、グループ閉鎖などを行っているツイッターやフェイスブックとは対象的に、明らかな犯罪、スパム、ポルノ系コンテンツ以外は検閲、削除などの規制をしないことが保守派、トランプ支持者、陰謀論者などの需要を満たす場所として支持されているようです。
ただ、Parlerの創業来の主要な投資家として、2016年の大統領選においてフェイスブックの870万人もの登録者データを利用してトランプ勝利に大きな影響力を果たしたと言われる「ケンブリッジ・アナリティカ」にも出資していたレベッカ・マーサー氏が名を連ねていることなど、懸念を感じる点は多くあります。
実際に登録してみると分かるのですが、登録時に多くの保守系、トランプ支持者の議員、トークショーホストなどをフォローすることがオススメされる他、登録直後には「チーム・トランプ」のアカウントから歓迎の投稿がスパム的に投稿される点が正直異様、と感じます。
実際、SNSのツールとしての機能面はというと、「アルゴリズム」を売りにしてないこともあり、一般の人はフォローした人の時系列の投稿を眺めることが中心で、トランプ支持者や保守系のインフルエンサーの投稿をチェックするための用途以外、使い勝手があまりなさそうである、というのが印象です。
上記チャートはSensorTowerというアプリのダウンロード状況の分析サイトですが、11月7日以降iOS/アンドロイドにおいて「全てのカテゴリ」の総合ランキングで1週間近く1位となり、現在は22位(iOS)となっていることが分かります。
来年1月20日にはトランプ大統領が大統領の座を後にすることでトランプ氏のツイッターアカウントが今までより厳しい規制の対象になることも予想されます。そんな時、こうした代替SNSに再度の注目が集まるのか、とても気になります。現在はParler社は社員数30人でサーバーの増強、技術的な稚拙さも目立ちますが、今後資金や人材が集まることで更なる躍進へとつながる可能性もなくはないのでは、と感じます。
Parlerはあくまで今注目を集めているSNSとしての現象ですが、その他にもFOXニュースの代わりとして注目を集めているNewsmaxやワン・アメリカ・ニュース・ネットワーク(OANN)、Facebookの代替としてのMeWe、Youtubeの代替としてのRumbleなど、より規制の少ない、保守派にとっての居心地、耳心地のよいメディアに大きなスポットライトが集まりつつあります。
むしろ重要なのは、ひとつひとつのツールやメディアではなく、その背景にあるこうしたSNSやコミュニティを欲する分断された「もうひとつのアメリカ」が着実に存在していることなのでは、ということを以下の調査結果を見ることで伺えます。
エコノミスト誌がYouGovに依頼した世論調査(11月15日から17日にかけて行われた1,500人の米国有権者を対象)によると、共和党の有権者の74%が選挙に「多くの」不正があったと考えているのに対し、民主党の有権者はわずか6%が不正があったと考えていることが示されています。また、自分の票が正しく数えられたと少なくとも中程度の自信を持っていると答えた共和党有権者は56%に過ぎない一方で、民主党有権者の95%は投票が公正に集計されたと信頼しているそうです。
さらに驚くのは、共和党の有権者の4分の1しかトランプ氏が譲歩すべきだと考えておらず、半数近くが再集計によって結果が最終的に覆されると考えている」と答えている点です。
ちなみに今回の記事の中で引用しているウォールストリート・タイムズ、ニューヨーク・タイムズ、エコノミストは全て有料購読記事で、トランプ支持層の多くの人は思想的な理由から、そして課金をしてまで読む可能性が低いことから、ますます断絶が広がりつつあるのでは、ということも改めて感じます。
ちょうど今朝、バズフィードがハフポストを買収という報道があり、早速バズフィードCEOがインタビューに答え、「無料でより多くの人に読んでもらえるメディアが重要である」ことについても触れられています。
2020年の大統領選は不穏な様相を呈しながら、来年の1月20日以降も引き続き国民、社会、メディア、テックの分断をもたらす大きなテーマとして注視していく必要があることだけは間違いなさそうです。
Photo by Rami Al-zayat on Unsplash
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