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会社でヒーローになりたいけれど、それは難しい時代に突入したのかもしれない。

 多くの人は、自分にしかできない仕事をしたいと憧れる。面白い企画を立案し、大きな案件をまとめ上げ、時には困難をも切り抜ける。そのために日々知識を蓄え、スキルを磨く人も少なくない。サラリーマンとして生きていく上で、会社から認められたり、より必要とされたいと考えるのは自然なことだ。VIVANTの堺雅人のように、混迷の現代を生き抜く人間ドラマは常にヒットランキングに食い込んでくる。

 かつては職場にはエースがいて、まるでヒーローのように輝いていた。しかし、ヒーローが生きにくい時代になった。

 最近、「業務の属人化」という言葉が最近、よく聞かれる。仕事を抱え込んでしまい、その人でないとわからないことが増えてしまうことを指す。これは会社のマネジメントからすれば悪手であるという考え方が一般的になってきている。そこで多くの会社では、「業務の属人化」を避けるよう、多くのお達しがでる。一人で抱え込まずチームで業務にあたろう。業務のマニュアルを作って、そのスキルをシェアしよう。名刺などの取引情報も引き継げるようクラウドで管理しよう。

 それはつまり、その仕事を誰でもができるようにする、ということだ。

 この考え方は、チームで仕事をしている際、育児や介護などで仕事を休めるようにするために大切なことだ。


 しかしひとつ間違えるとミスリードを生みかねない。

 そのミスリードとは、仕事をするのは、究極のところ「誰でもいい」という考えだ。本来は「業務の属人化」を避けることと、このミスリードは腑分けされるべきものだろう。しかしこの「誰でもいい」という感覚は、社会全体に広がりつづある。派遣という業態の根底には人材の流動性を高めるという思想があるし、AIというテクノロジーの登場は、その感覚を加速しいている側面もあるだろう。
 
 この「誰でもいい」というミスリードを、最近多くの場所で見聞きするようになった。逆に言えば、自分にしかできない、という希少性がネガティヴな響きを帯びるようになった。これを突き詰めていくと、社員のモチベーションを大きく毀損されるだろうし、できる人材から立ち去っていくだろう。

 これは会社という組織のありように起因する。

 会社という場所は、個人ではなく、役職によって構成される。つまり固定されているのは役職で、そこに個人が配置されていくのだ。かつては、会社は家族のように思われた時代は、終身雇用と年功序列ががっちりと機能しており、そのことに不安はなかった。しかし今は、会社がなくなるリスクだってあるし、役職定年という仕組みが広がっている。
 
 では、そんな時代にどうすれば身を守ることができるのだろう。

 その答えはシンプルだ。

 それは役職に固執することをやめることだ。なぜなら会社から役職=権限を与えられて働くということは、いつかは剥奪されることを意味する。だが人は、このポストと自分を同一視しがちだ。でも権限というのは、あなたにではなく、ポストに張り付いてるものだ。

 役職に固執せずに働くということは、あなたの実力が試されることだ。

 役職として付与された権限をただ行使するのではなく、自分のスキルを常に高め、それによって成果を出すことを続ける。そうすれば「誰でもいい誰か」ではない立ち位置を得ることができる。

 会社という閉じた社会のなかだけの物差しで自分の価値を測らせてはいけない。

  

 

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河瀬大作
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