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将来会社の経営を担う幹部育成はなぜ進まないのか。必要なのは修羅場経験?

皆さん、こんにちは。今回は「幹部育成」について書かせていただきます。

「幹部」といっても会社によって定義は異なりますが、「将来、会社の経営を担う可能性のある人」を育成していくにはどうすれば良いのか、頭を抱えている企業は少なくないと思います。

組織が成熟して中長期的な展望に目が向くと、これからの会社を背負っていってくれるような若い人材の確保や育成が必要になります。
できるだけ早いうちから幹部候補を育てていきたいと考える一方で、知識も経験も浅い若手社員の中から、どのように適任者を選び、どのように育成していけば良いのでしょうか。

NTTは30歳代などの若手を抜てきし経営幹部に育てる制度を導入する。社内組織「NTTユニバーシティ」を新設して2023年度に300人を選抜。経営管理などの座学や未経験の部署で管理職を経験してもらい、執行役員以上の候補にする。デジタル分野を中心にグローバルで人材獲得競争が激しくなり、企業は人材流出リスクに直面する。伝統的な大企業で人事システムを脱・年功序列型にカジを切る動きが加速してきた。


■幹部育成に失敗する5つのケース

幹部育成が進まない理由や、失敗してしまうケースは具体的にどんなものなのか、5つのケースを挙げてみます。

①本気で育てようとしていないケース。
→数人~数十人を束ねる「リーダー」は、現場の実務経験を通して、ある意味“勝手に育つ”可能性は高いのですが、「幹部候補」を育てようと思うと、現在の経営チームが手間暇をかけて、時間もお金も労力も投下して育成しようとしなければいけません。「幹部候補となる人材がいない」と嘆く前に、本気でそんな人材を育てようとしているか、それだけの労力をかけているのかを自問自答する必要があります。
②育てられる側が経営チームの一員だと認識していないケース。
→ただでさえ、優秀な人材は現場で重要な案件を抱えていたり、社内外から引っ張りだこで忙しくしていることがほとんどです。「将来自分が会社を経営することになるかもしれない」と考える暇さえないかもしれません。仮にそう思っていたとしても、どうやって経営スキルを身につけていけばいいのか、答えを持っている人の方が少ないのではないでしょうか。まずは、「将来的に経営チームに参画する可能性の高い社員である」ということを何らかの形で認識してもらい、覚悟を持って日々の業務に向き合ってもらう環境を整えていく必要があります。
③経営する立場にならないと経営は学べないと思っているケース。
→よく聞くのは、「ポジションが人を育てる」という話です。これは間違っていないと思います。役職や役割ができて初めて、人はそれに見合った人材になるべく、何が自分に足りていないのか真剣に思考し出します。チームのリーダーであればそれで問題ないのですが、幹部育成に関してはそれだと少し遅いのです。会社の経営に関わる意思決定の重要度や難易度が上がれば上がるほど「役職に就いてから成長する」だと遅く、一歩間違えれば会社が誤った方向に進んでしまいかねません。
まだまだ自社の経営チームが若くて、あと十数年は今のチームのまま会社を成長させられる可能性が十分あったとしても、来たるべき時に備えて予め育成しておく必要性を認識していないと、いつまでも幹部育成はできないままになってしまいがちです。
④育成期間の長さに我慢できないケース。
→幹部候補となる人材の育成には時間がかかります。リーダーが1年から3年で育つような育成環境や抜擢環境が整った会社であっても、将来経営を担うような人材の育成にはそれ相応の時間が必要です。
たとえば「10年後にどんな会社にしていたいか」という未来のビジョンから逆算して幹部候補人材の選定を行い、時間をかけて育成していくことが大事なのですが、選定できたとしても途中で離脱してしまったり、期待以上のパフォーマンスにつながらなかったりして、「候補となる人材が足りない、育たない」という状況に陥ってしまうのです。育つ側も育てる側も忍耐が必要で、育成期間中の負担が双方に重くのしかかってしまうだけでなく、育成の効果が見えづらいといった懸念もあり、育成の取り組みが後回しにされることが多いのが実情ではないでしょうか。
⑤“責任”や“権限”を委譲しきれないケース。
→育てたい人材に役割を持たせ、より大きい範囲の業務を任せたり、難易度の高い業務を課しても、重要な意思決定の際に横から口を出し過ぎてしまったり、結果的に権限を制限してしまうことがあります。会社が間違った方向に進まないためにも適切なアドバイスは必要ですが、権限委譲できないままではいつまでたっても人が育ちません。ある程度の失敗を許容しながら、思い切って一歩も二歩も引いた位置から“伴走”していき、期限を決めてそれまでに「任せきる」という姿勢が必要なのだと思います。

■幹部候補にふさわしい人材とは

「経営戦略を描けるか」「経営に関する知識を備えているか」「社員を統率していけるか」など、経営チームに参画する人材に求められるスキルや素養はたくさんあると思いますが、まずはどんな人材が幹部候補としてふさわしいか、社内で明文化しておく必要があると思います。

会社によっては、「明るい未来を提示できる人材」や「中長期視点を持ち、企業価値を上げられる人材」が必要と考える企業もありますし、「現時点での実績などアウトプットが十分で周囲からの納得度が高い人材」が必要と考える企業もあります。

「決断力」「実行力」「論理的思考力」などのスキル面を重視する企業もあれば、「社内外に応援される人格を持ち合わせている人材」、「様々な事業や多様な価値観を持った社員からのオーソライズを得られる人材」「起業家精神のある人材」など、人柄や人物像を重視する企業もあるかもしれません。

これらの人材要件を明確にした上で、幹部候補を「選抜」し、「育成」していくことが求められます。

■必要なのは「修羅場経験」?

幹部育成において、どんなことができれば育成が成功するのか、必要な項目を記載してみます。

・経営課題の解決に向けて、提案・実行までを行ってもらう
・難易度の高い業務を課す
・現在の部署とは違う部署での経験を積んでもらう
・経営に必要なスキルやスタンスを可視化し、足りない能力を補ってもらう
・専門家から幅広い分野のスキルや知識、ノウハウを習得してもらう

自分に足りない能力や経験を明確にし、その上でそれが身につく部署へ異動する、または部署を越えて全社横断組織で意思決定などの経験に携わるなど、通常業務の範囲では賄えないような「試練」や「役割」を新たに経験していかなければいけません。
その中でも特に重要なポイントは、「修羅場経験をいかに積めるか」ではないかと思います。

修羅場経験とは、たとえば、
・会社の重要な意思決定に関わる経験
・会社全体に影響を与えるような大きな目標を掲げてそれを乗り越える経験
・それまでの自分の経験やノウハウでは対処できないような新しい経験

などです。

当社の場合、特に上級管理職候補になる人材には、「業績」「影響度」「期待値」の項目において、全社インパクトがあるかどうかという観点を昇格基準に置いていますが、

【参考】当社の上級管理職の昇格基準
①業績・・・全社インパクトのある成果か
②影響力・・・全社的に影響力があるか
③人格・・・全社を代表する人望や期待値があるか

「全社インパクト」というからには、少なくとも一つ以上の「修羅場経験」を越えてきた人材でないと、会社全体に対して大きな影響力は持てない可能性が高いです。

さらに、難易度が高く大変な経験や試練を越えてきたからといって、必ず誰もが成長し、経営人材になれるというわけではなく、そのプロセスの中で自分の課題を明確に認識するなどの「自覚」を持つことが何より大事なポイントになると思います。

客観的で適切な「自己認識」の機会が多ければ多いほど成長につながり、幹部候補としてふさわしい能力や経験、人格を身につけていけるのではないでしょうか。

■育成手法は企業によって正解が異なる

引用した記事には、

前身の日本電信電話公社から長い歴史を持つNTTは年次主義が色濃く残り、これまで若手の抜てき人事は少なかった。グループには主要企業で執行役員が約150人いるがほとんどが50歳代以上だ。今後は40歳代も積極的に登用する。
若手に限らず幅広い層で実力主義の評価の比重を増やす改革も進める。社員個人の職務を明確にした「ジョブ型」の人事制度を21年10月から全管理職に導入した。優秀な若手人材の抜てきは組織を活性化し、人材を有望分野に機動的にシフトしやすくすることにもつながる。
日立製作所は将来の経営者候補として若手50人を選出し育成を進めている。オリンパスは国内外から人材を選抜し、経営陣が育成計画を議論する取り組みを20年度に50人を対象に始めた。21年度は約200人にまで増やした。

とあります。どの会社も若手人材の抜てきについて考え、実践し、経営陣が率先して幹部候補の育成計画について議論する場を増やしているのです。

三井住友海上火災保険は出向や社外での副業など「外部での経験」を社員が課長に昇進するための前提にする。大手企業で管理職の昇進に外部経験を課すのは珍しい。出向などで得た知見や人脈を社内で生かし、新たな事業の開発を促す。損害保険は主力の火災や自動車保険の成長が頭打ちになっており、多彩な人材の育成や外部との連携強化が課題になっていた。

という記事もありました。出向や副業などの「外部での経験」を昇進条件にするというのは珍しい事例で、一つの会社や一つの部署に留まり続けることで得られるメリットよりも、新しい経験やそれまでと違うスキル・武器・人脈などを身につけてそれを組織に還元することの重要性が増してきているのだと思います。


不確実性が高く変化の激しい時代の中で、幹部候補となる人材に求められる資質やスキルは今まで以上に高くなっています。多くの企業が課題感を持ち、取り組みを行っているものの、その育成手法や結果に満足している企業は少ないのが実情です。

いわゆる“型”通りの上辺だけの研修を実施するだけでは、求めている結果が出にくいはずで、それぞれの企業に合った幹部育成のやり方を本気で向き合って発掘していかなければなりません。

経営幹部候補となるのは、おそらく10年後(会社によっては20年後)に最前線に立つ若い社員です。未来を見据えた会社運営においては、この若い世代をいかに育てるか、また、次の世代に会社が目指すものや価値観などをしっかりと体に染み込ませておくことが大事になってきます

どの企業にとっても「幹部育成」は遠い未来の話ではなく、その準備には時間がかかることを理解した上で、今すぐにでも着手すべき重要な経営課題であるといえそうです。


#日経COMEMO #NIKKEI

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