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「アカデミアが求めているビジネス人材」を考えると、「企業におけるアカデミア人材活用」のヒントに巡り合う!

 ここに来て、「人材」「働き方」についての議論が増えてきた。企業では、「副業解禁」「在宅勤務」「定年延長」などが、見えてきた現象だろう。

 今回、COMEMOでは、「 #どう活かすアカデミア人材  」という、皆さんの意見募集の企画を行っている。

 これは、企業側に「アカデミア人材」の登用の仕方を考える、良い質問だ。実は、この質問には裏の質問がある。それは「アカデミアで求める、ビジネス人材」という質問だ。実は、私自身は、現在大学でも講義をさせて頂いている。その理由は、私が優秀な研究者だからではなく、企業の中で「アカデミア」の研究を、有効に活用しているからである。つまり、私自身、企業側でアカデミア人材を求めているし、アカデミアからはビジネス人材として、働く場所を頂いている。

 この経験から、「企業」と「アカデミア」の関係を整理してみたい。そのことにより、理想的な産学連携についても見えてくるのではないだろうか?

企業はなぜアカデミア人材を欲しているのか

 まずは、この問題を整理したい。私は、ビジネス・パーソンを、企業の研究者として始めた。大学、大学院の研究と、企業の研究は、同じ研究という言葉を使っているが、その目的は大きく異なる。

 大学、アカデミアの研究は、個人の意思、さらにその領域の面白さ、社会に対する貢献などから、研究テーマを自由に決めることが可能だ。私も、大学時代には、微分方程式の研究を行っていた。それは、その方程式のテーマが、新しく、実際に私自身面白いと思ったから、取り組んだ。何かの役に立つかは、正直考えていたなかった。

 一方、企業の研究は、その企業のビジネスに対する貢献度が求められる。企業には注力テーマがあり、そのテーマの中から研究テーマを選ぶことが多い。そして、スケジュール管理もあり、例えば商品やサービスの設計時期までに、その研究が完了しなければ、研究の価値がなくなることもある。

 このように、大学、アカデミアの研究と、企業の研究は大きく異なる。

 では、そのスタイルが異なる企業が、アカデミア人材を求める理由とは何かといえば、その企業にない知識、研究経験をもった人材が、アカデミアにいるからだろう。今まで、マーケティングの領域で、あまり統計などを行ってきたことない企業が、アカデミアで経験を積んだデータ・サイエンティストを求める事例などが、それに該当するだろう。

企業が、アカデミアに飛び込む方法もある

 ところで、この企業にない知識、研究経験の人材を補う方法としては、アカデミア人材の企業雇用だけだろうか?実は、企業がアカデミアに、行いたい問題を持ち込み、企業側がアカデミアに飛び込む方法もあるのではないだろうか?

 東京大学大学院数理科学研究科では、以前から「産業界からの課題解決のためのスタディグループ」という活動を行っている。私も、この活動には長く参加させて頂いており、2015年には、当時在籍していた花王のテーマとして、「人間の立位時における重心動揺に関する数理モデルの構築と解析」という問題について、大学院生と一緒に1週間研究させて頂いた。

 企業にアカデミアの人材を登用する場合には、多くの企業の人の中に、アカデミアの人材を混ぜる方法で、アカデミア人材の濃度は高くない。この場合、仕事の進め方や、研究マネージメントは、企業の従来の研究方法近くなるだろう。つまり、成果や出口を意識した研究方法になるのであろう。

 一方、大学、アカデミアに企業の方が飛び込む場合には、多くのアカデミア人材の中に、企業人が混ざることになり、アカデミア人材の濃度が高くなる。従って、研究の進め方は、大学の研究手法、進め方に近くなる。

企業が求めているは、アカデミア人材だけなのか?本当は、基礎的な研究手法なのかも

 今回のCOMEMOでは、「 #どう活かすアカデミア人材  」という、問いは、実は「どう生かす、アカデミアの能力」なのかもしれない。人材だけではなく、研究手法、本質探求なども、アカデミアと一緒に行うべきテーマなのかもしれない。

 本当に、企業は「人材」だけを求めているのか?それとも、未知・未踏の問題にぶつかる手法を知りたいのか?その整理も重要なのである。私の理解では、多くの企業が求めているのは、「人材」よりも「未知・未踏の問題への接し方」を求めていると思う。なぜなら、企業も科学同様に、行うべきテーマ、問題が進化し続けるからである。

企業でアカデミア人材を登用した時に、気を付けて欲しいこと

 さて、最後に企業にアカデミアな人材を登用する時の問題点。アカデミアに企業が飛び込むときに問題点についても、少し考えておきたい。

 まずは、企業でアカデミア人材を登用した時の考慮点である。大きくは、「仕事の向き合い方」「評価方法」である。

 アカデミアの方を企業で採用したとしましょう。その方が、仮に35歳だとしたら、企業のかたは、その人を35歳のビジネス・パーソンと考えたくなりますが、ビジネス経験1年目の新入社員でもあります。ビジネスの場に出ない代わりに、企業でできない研究を進めていたのです。アカデミアとビジネスでは、若干仕事の方法が異なります。仕事のテンポもことなるかもしれません。つまり、企業に入ったからすぐに、企業の仕事の仕方を押し付けるのではなく、緩やかな学びの時間を与えて欲しいのです。

「評価」については、もっとシビアな側面があります。その登用したアカデミア人材の専門領域に詳しい方が、会社の中にいれば良いのですが、多くの場合はいらっしゃらないでしょう。この場合、アカデミア人材の方の評価をどのように行うのかは、とても難しい問題です。

 つまり、企業でアカデミア人材を登用した時に、その人材のマネージメント方法については、本人ともきちんと話し合い、明確にすることが多いのです。

アカデミアに企業が飛び込む方法の考慮点

 逆に、アカデミアに企業が飛び込む方法の考慮点は、ずばり私たちにあります。この記事を読まれている方の中で、どの程度の方が、自分の最終学歴の在籍校に、就職されてから、訪問したことがあるのでしょうか?

 リカレント教育など、難しい話の前に、自分の出身校に戻り、そして可能であれば、指導教官とお話をすること。このことが、とても重要です。実際やってみるとわかるのですが、自分の会社での仕事を、指導教官に説明することは、意外と難しいのです。そして、実務の課題を、アカデミア、大学の問題の文章に変更すること。このことは、もっと難しいのです。

 つまり、企業人として、アカデミアと付き合う訓練、練習を普段から行うことこそが、「産学連携」の入り口で、「産学連携の活動予算の増加」につながるでしょう。

 つまり、アカデミアに企業が飛び込む方法の考慮点は、まず自分がアカデミアに飛び込めるか実行し、アカデミアに飛び込む能力をつけることです。

 企業が求めているアカデミア人材について考えている皆さん。皆さんのことを、アカデミアも求めています。皆さん自身がアカデミアに飛び込むこと。これが、実は企業のアカデミア人材の登用について、とても多くの示唆を得られることも、忘れないでください。

 


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本間 充 マーケティングサイエンスラボ所長/アビームコンサルティング顧問
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