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まだコロナ禍にある日本のGDP~実質所得環境も痛んだまま~

企業の慎重姿勢を映す在庫取り崩し
2月14日、内閣府から公表された2022年10-12月期の実質GDP成長率(1次速報)は前期比年率+0.6%(前期比+0.2%)と、市場予想の中心(前期比年率+1.8%、以下特に明記しない限り前期比年率とする)を大きく下回りました。2四半期ぶりのプラス成長ですがが、前期(7~9月期)が▲1.2%だったので、その分は取り返せていないことになります。10月と言えば、水際対策の大幅緩和や全国旅行支援などが着手されたタイミングであり、ヘッドライン上の勢いはもっと強い仕上がりが期待されました:


需要項目別にみると、上述した全国旅行支援の開始などを筆頭にサービス消費が▲0.1%から+1.4%と急増しており、この影響もあって民間最終消費は横ばい(+0.0%)だった前期から+0.5%へ復調が見られている。片や、民需のもう1つの柱である設備投資は前期の+1.5%から▲0.5%へ、5期ぶりにマイナスに転じています。そのほか政府消費も+0.1%から+0.3%へ、なにより民間在庫(寄与度)も▲0.5%ポイントと全体感を規定しています。在庫取り崩しは今後の在庫積み上げを通じて復調のバネになり得ますが、そもそも冴えない実体経済を前に企業が投資行動を抑制し、生産活動が細った可能性を孕んでおり、前向きな評価は難しいでしょう

昨秋以降、海外経済環境の悪化が輸出減速に及んでおり、生産調整を図りながら在庫を圧縮する動きは先行しやすい兆候はある。今回のような在庫投資主導の成長率鈍化は警戒を要する。実際、輸出減少主導で貿易赤字は不調というのが現状の評価になります:

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA160QP0W3A210C2000000/


なお、上述したような内需は合計すると▲0.2%ポイントのマイナス寄与である。それでも成長率全体がプラスを維持できたのは外需(+0.3%ポイント)の伸びによるものだが、上述したように財の輸出が増えているわけではない。増えているのはサービスの輸出であり、これが10月以降の水際対策緩和の成果として指摘できる。
 
2四半期ぶりプラスでも「コロナ前」
ちなみに毎期注目される「コロナ前を復元できたか」という視点では未だ残念な状況が続いています。日本にとってのコロナ前とは消費増税と台風19号の影響で下押しされる2019年10~12月期の前期である2019年7~9月期、もしくは2019年平均と定義するのが妥当です。

この点、2022年10~12月期は2019年7~9月期と比較して▲1.8%、2019年平均と比較して▲0.9%、依然として下回っています。主要国の中では日本と英国だけが2019年7~9月期の水準を下回っています:

しかし、2021年12月以降で合計+275bpsの利上げを敢行している英国と緩和路線を堅持してきた日本という構図を踏まえれば、やはり日本の仕上がりは残念と言えるでしょう(しかも日本の方が負けています)。パンデミック発生から3年が経過してもマスク着脱可否が社会的議論となっている現状は、今一つ盛り上がりに欠ける内需の現状と整合的と感じます。米国もユーロ圏もインフレ高進に悩みつつ、かなり前にコロナ前の水準に回帰し、加速を続けています。昨年来、内外金利差が円安相場の一因と指摘されていますが(筆者はそれだけが原因とは思わないものの)、仮にそうだとすれば現状の成長率格差が金利差に直結するのは必然で、円安相場は簡単には終わらないように思えます。
 
懸案の実質GDIは漸く底打ち
精彩を欠く10~12月期のGDPにおいて唯一、前向きに評価できるのが実質GDI(国内総所得)の動きでしょう。過去1年、GDP統計が出るたびに議論される点だが、現状では実質GDPよりも実質GDIの方が景気情勢を図る尺度として適切です。実質GDPが生産「量」の概念であるのに対し、実質GDIは「購買力」の概念です。実質GDPに交易条件の改善・悪化(交易利得・損失)を加味することで実質GDIになります。市井の人々の景気実感に近いのは実質GDPではなく実質GDIと考えられる。

周知の通り、原油価格は2022年半ばに、円安相場は2022年10月にピークを迎えている。これまで日本の実質所得環境を苦しめてきた交易条件(輸出デフレーター÷輸入デフレーター)に関し、ようやく輸入デフレーターが低下に転じることで改善が期待できる局面に入ってきています。

具体的に見ると、日本から海外への所得流出である交易損失(%、対GDP)は前期の▲3.5%から10~12月期は▲3.3%へと2020年4~6月期以来、10期ぶりに縮小しています。この結果、実質GDIの成長率は+1.6%で前期の▲3.9%から大幅に改善しており、ようやくトレンドが変わる兆しが確認できます。もっとも、実質GDIに関してはここまでに負った傷が深過ぎるという現実を直視する必要があります。

この点は図を一瞥しても分かる話ですが、例えば2020年1~3月期からの成長率(ここは前期比とする)を累積すると、実質GDPが計+1.5%ポイント、実質GDIが計▲1.6%ポイントとかなり乖離があります。それだけ国民の体感する実質所得環境が悪化した状態が残存しているのであり、交易条件の改善がそのまま個人消費を押し上げるような世相に至るにはまだ相当の時間が必要と思われます

また、本稿執筆時点では円安・ドル高はやはりぶり返しており、原油価格も大して下がらないという状況に直面しています。果たして実質GDIがこのまま浮揚していくのどうかは確証が持てず、内需に勢いを欠いた状態が続いてしまうようにも思われます。


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