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モノから体験・経験を売るリアル店舗への転換トレンド

 ネットショッピングに慣れた現代の消費者は、逆にネットでは得られないリアルな体験や経験を実店舗に求める傾向が高まっている。観光客をターゲットにした店舗では、お土産品などの物販から、体験ショップへの転換トレンドが海外で起きている。

米国で人気の「Spice & Tea Exchange(スパイス&ティー・エクスチェンジ)」というショップは、世界から取り寄せた香辛料、フレーバーシュガー、紅茶などが、250種類以上のガラス瓶に保存されており、顧客の好みによってブレンドして販売している。店主はスパイスマスターとしての専門知識を習得しているため、作りたい料理を相談すれば、それにマッチするオリジナルの調味料を調合してもらうことも可能だ。

新規顧客の開拓には、地域内で開催されるイベントや料理教室に出張する形で、香辛料やお茶の知識をレクチャーしたり、ブレンドのデモンストレーションをしたりする方法が効果的で、そこで興味を示した消費者が店を訪れて、固定客として定着する流れとなっている。

この店舗はもともと、2008年に米フロリダ州でスモールビジネスとして創業されたものだが、顧客に香辛料の匂いを感じてもらいながら、好みの風味にブレンド販売する、という新たなショッピング体験がヒットしたことで、現在はフランチャイズビジネスとして全米で50店舗以上に拡大している。

出店地の選定基準として重視しているのが、年間に100万人以上の観光客が訪れる地域であることで、地元の固定客と、観光客のお土産需要によって経営を成り立たせている。開店にかかる総費用は、フランチャイズフィー(37,550ドル)と店舗の内装や商品在庫の仕入れを含めて20~35万ドル(約2,200万~3,850万円)となっている。また、開店後の売上に対しては、7%のロイヤリティと3%の広告料を納める契約だ。

米国では、地域の消費者や観光客に対して、新たなショッピング体験を与えられる新業態の店舗開発がトレンドになっており、1つの店舗で成功ノウハウを築くことができれば、それをフランチャイズ方式にして店舗数を増やしていくことができる。

【観光客向けクッキングスクールの新業態】

 旅行の楽しみには、現地の美味しい料理を食べられるレストランを訪れることがある。しかし、それだけでは本当に地元の食文化を学んだことにはならない。 そこで、旅行者をターゲットとした料理教室を運営しているのが、2009年にスペインで創業した「MIMO」という会社だ。同社は、スペインのサンセバスチャン、セビリア、マヨルカ島などの観光地にクッキングスタジオを開設している。

旅行者向けの料理教室は10名以内の小グループ制で、およそ半日の日程で行われる。プランの一例として、朝10時に集合をして、現地の生鮮市場で食材の買い出しをした後、クッキングスタジオでシェフの指導を受けながら、地元に伝わる伝統的な料理を参加者が協力しながら作る。昼過ぎには完成した料理を皆で食べながら、親睦を深めるというコース。参加料金は1人あたり、日本円に換算して15,000~24,000円と高価な設定だが、高級レストランに行くよりも深い体験ができるとして、参加者からの評判はとても高い。

旅行者の集客は、自社のWebサイトや旅行情報サイト「Trip advisor」のオンライン予約を通して行われているが、それ以外でも地元の住民を対象としたクッキングイベントも定期的に開催されている。

この料理教室には、地元の農業生産者やワイナリーも協賛して、食材や商品の納入を行っている。MIMOのクッキングスタジオは、料理教室でも利用する地元の名産品を販売する店舗としての役割も兼ねている。近年では、小売店に対する関心は薄れていても、実際に料理をしながら食文化を学べたり、新たな友達作りができることには興味を示す消費者は、少なからず存在している。そこで有意義な体験を提供すれば、関連商品の売上も伸ばすことができる。

【和の心を伝える日本型体験ショップ】

このように、アナログに回帰した体験を提供する店舗は、日本を訪れる外国人観光客向けに応用することもできる。もともと、日本の店舗は他国ではみられないほどの、清潔で整理整頓された商品陳列や、丁寧な接客(おもてなし)が、海外からは“一見の価値あり”と評されている。

そこに、日本の伝統的な文化や技術を体験できるサービスを加えることにより、日本独自の体験ショップを開発することは可能だ。たとえば「TOKI」は2014年に日本の起業家が創業した、訪日外国人向けに各種の体験サービスを提供する会社である。旅行者の要望に応じて、様々な日本文化の体験ツアーを組むことが可能で、茶道、生け花、習字、相撲、柔道などに加えて、寿司や和菓子、伝統工芸の職人体験ができるコースも人気となっている。

こうした日本文化の体験に関心のある外国人は、富裕層やエリート層の中に多く、個人の旅行者に加えて、法人向けの接待としても利用されている。

ネットでは様々な情報や知識を調べることはできるが、それと、実際の現場を訪れて「自分で体験する」ことでは、経験値で大きな違いがある。そうしたリアルな感動に対して対価を惜しまない価値観は、20~30代の若い世代からも広がり始めている。

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