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アフリカは遅れている、は本当か

仕事のためにタンザニアのダルエスサラーム市に滞在している。ダルエスサラームはかつての首都であり(現在の首都は内陸部のドドマにある)、インド洋に面した同国最大の都市で、人口は500万程度と言われる。

私にとっては、エジプトを含めるならアフリカ大陸で3カ国目の訪問国であり、また渡航回数としては5回目なので、それなりにアフリカの国々の様子が、おぼろげながらある程度わかってきている状況ではある。

そういう目でダルエスサラームを見ると、人口約500万人の都市は、日本で言えば東京都のほぼ半分、日本の都市で2番目に人口が多い横浜市(400万人弱)よりも大きいので、ダルエスサラームの街の様子は特に驚きはない。港町らしく仕事の合間にくつろげる雰囲気のカフェなどもあって、また今は天気の良い時期ということも手伝って、取り立てて不自由なく過ごせている。

宿泊しているホテルの窓からも街の様子が見えるので、日本とのオンライン会議の時にPCのカメラを窓の外に向けて街の様子をご覧に入れたりしたのだが、一様に「こんなに開けているのか」という感想もたれていた。窓の外の風景はどちらかといえば郊外の方向なので、取り立てて開けている・発展しているというイメージではないように思える風景なのだが、タンザニアやダルエスサラームを知らない人にとって、とても開けているように思われるようだ。(トップの写真もホテルの窓からのもの)

これは特に不思議なことではない。タンザニアといえば、キリマンジャロやサファリなど自然のイメージが強い国であることもその理由の一つだろう。

20年前くらいだろうか、中国がすでに目覚ましく経済発展し、日本でも名前を知られているような都市であれば高層ビルが立ち並ぶ風景が当たり前になり、クルマも北京や上海であればひょっとすると東京よりも高級車の割合が多いのではないかと思うぐらいの状況であった頃に、まだ中国の大都市と言えば人民服を着た人々が自転車を漕いで移動しているイメージを持ってる人も少なからずいた。こうした認識に時差が生じるのはやむを得ないことだが、それと似たことが今アフリカ大陸の、特に主要国の主要都市においては起きている、と考えていただいて良いのではないかと思う。私のたった3ヶ国5回の渡航経験だけで言うのもなんではあるのだが。

もちろん、街全体のインフラの整備状況などは、日本の人口が少ない街と比べても、まだまだ見劣りするレベルである。公共交通機関として地下鉄や路面電車といったものはなく、最近になって専用レーンを走りバス停が駅のように改札があるバス (BRT)が 出来たくらいで(下記青いバスの写真)、あとは日本の中古のマイクロバスが主力で活躍している路線バス(ダラダラと呼ばれている)や、三輪やUberを含めた広義のタクシーが主な公共交通機関である。このため特に市内の幹線道路は慢性的に渋滞している箇所もあり、交通渋滞が街の効率を落としているという点も、一部のアジアの大都市などと同じ状況だ。

しかし、ことITに関して言えば、必ずしも日本と比較して遅れてるとは言えない部分がある。例えば、タンザニアの出入国にあたって必要な新型コロナウイルスの検査は、タンザニア保健省の専用サイトから入国登録してその画面を見せることでチェックポイントを通過することができたり、出国の際の PCR 検査もタンザニア保健省のサイトから医療機関を選んで予約から検査結果の取得まですることができる。検査結果の証明文書は保健省の公式文書としてオンライン発行され、サイトに表示し、ダウンロード・印刷することもできる。

検査結果の文書には QR コードが付いており、それを読み込むことでスマートフォンでも簡単に表示できるようになっていた。この QR コードは今年の初めに渡航した人の話では当時はなかったということで、国の機関であっても、こうしたITを活用した機能をこまめにアップデートしていることをうかがわせる。この海外渡航に伴う一連の PCR 検査・陰性証明の手続きに関して言えば、残念ながら日本のやり方のほうがタンザニアよりもアナログであると思わざるを得ない。

もちろんこれはある一面を取り出したものでしかないが、例えばM-Pesaをはじめとするモバイルペイメントの仕組みがタンザニアにおいても広く普及しており、主に少額の決済や個人間の送金が容易にできる利便性においては、日本より進んでいると言える面もある。

下記の記事と紹介されている書籍を読めば、そうしたアフリカの現状を理解することが出来るのではないだろうか。

そして何より印象的なのは、当地のビジネスパートナー候補となる会社の対応の早さと、前向きな姿勢である。今回、言ってみれば飛び込み営業に近い形で、私たちの目指すビジネスについて説明し、そのパートナーとして一緒にやれないかという提案をしたのだが、テーマのわかりやすさということもあるにせよ、どの企業でも担当者の飲み込みが早く、またフィードバックについてもポジティブな反応がかえってくることが常で、中には私の2週間の滞在のうちに、初回のミーティング結果を踏まえてビジネスパートナーの受諾意向を示した文書にサインしてくれた会社もあった。

タンザニアは人口が増え続けていて、平均寿命は50歳そこそこと若い国であり、ビジネスパーソンの年齢の若さも、外国人が持ちかけてくる提案に対しても積極的に話を聞こうとする姿勢につながっているのだろう。また、言ってみればこれからすべてが発展していくという希望の中で、既存の仕組みやルールが少ないぶん、新しいことに取り組みやすいという背景もあると思われる。

こうしたタンザニア企業とのやり取りをしていて、どうしても比較してしまうのが日本企業の対応である。上に述べたように国や社会の置かれた状況が大きく違うことから、日本企業の方が保守的になることはやむを得ない部分がある。新しいことをやろうとすると既存の事業など既にあるものとの兼ね合いが複雑で難しいことは重々承知しているのだが、タンザニアでビジネスを進める方が困難も大きいことを考慮しても、ビジネスを進めようとする上では、ポジティブで前向きな気持ちで取り組めるのはタンザニアの方、というのが私個人の正直な感想だ。仕事に関わるメンタルヘルスを維持する面においても、タンザニアの方が健康的な状況と言えるかもしれない。

ITについては、基礎的な通信設備は物理的に整備しなければいけないものの、道路や鉄道、橋などを建設することに比べればはるかに短い時間とコストで整備することができる。このため、通信網を活用しIT化して様々な物事を先に進めようとする姿勢は、国から民間企業まで強く感じる。当地で若い人が経営する企業の中には、ホームページはないけれどもSNSで非常に多数のフォロワーを集めていることを基礎にビジネスを展開している人もいる。

国の状況が違うので、何でもタンザニアと同じようにしましょうというつもりはもちろんない。ただタンザニアをはじめとするアフリカ諸国は、一般的にはITの利活用においては、日本との状況はさほど変わらないか、部分的には日本以上に進んでいる部分もあり、このままで行くとアフリカ諸国の方が全般的にも先に進んでいく可能性もあることについては、改めて認識しておきたいところだ。

日本でもデジタル庁が発足し、行政のデジタル化を進めようとしているが、その成果に期待したいと思う。物理的なインフラが一定以上のレベルで整備されている日本で、 適正にIT化が進めば日本の良さを一層活かすことが出来るようになるものと期待している。

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