どうしたら女性優位の組織を増やし、日本社会に包摂のカルチャーをひろげていけるだろうか
私が教員をしているKIT虎ノ門大学院。これまでビジネススクールに通う人は男性が圧倒的に多かったのだが、昨年度くらいから、入学する社会人学生の男女比が女性優位に反転した。その影響がとても面白いので、報告したい。
包摂するカルチャー
ビジネススクールの授業は、グループワークが多いことでも知られている。ビジネスの新たな視点を学び、そのレンズを使って、新事業を構想したりする。
一人ひとりを見た時に、男性と女性の間に大きな性格的な違いは感じてこなかった。コミュニケーションスキルの高い男性は多く、お互いに傾聴し、相手のアイデアを尊重する態度を示す。チームの力を高めるために必須なスキルだからだ。
そんな中、今年の私のイノベーションを起こすために、どのようなマルチステークホルダーを集め、問いを立て、対話のファシリテーションをしていくかという授業で、面白い現象が起きた。科目だけを履修するために来る学生も含め、15人くらいの履修生のうち、男性がたったの一人だったのだ。
男性、女性というバイアスは持ちたくはないが、15人中14人が女性というチームになると、授業の前後、最中、さらには授業間のSlack上の議論でも、驚くような「包摂のカルチャー」になってきました。
授業前には早めにきた人たちが井戸端会議を始め、次々と人が来ると、その度に「ちょっと、ちょっと」と言って、話の輪に加えていく。雑談から、授業の質問まで、シームレスに話が盛り上がっていく。
授業中も、「ごめんなさい、私、わかんなくなってしまいました!」と手を挙げる生徒、みんなで「どこが分かんないの?」「私も分からなかった!」と盛り上がる。
Slack上でも、「これ、誰の担当でしたかー?」と問いかけると、「私、やっておくね」と、とんとん話が進んでいく。
差別化のカルチャー
私がなぜ、これほどに包摂のカルチャーに感動するかというと、一般的なビジネススクールのカルチャーは、この真逆だからだ。授業貢献で評価をするため、我こそはと手を挙げ、自分の意見を発表し、「おれがすごいぞ!」とゴリラのドラミングよろしく、差別化のカルチャーをつくりがちである。
不思議なことに、一人ひとりを見ると、必ずしも男性が競争的なわけでもない。しかし、男性の数が増えると、差別化のカルチャーになる。そして、今回いくつかの授業で、女性の数が増えたことで包摂のカルチャーが発現した。
このできごとを偶然と捉えるか、あるいは「インサイト(洞察)」であると捉えるかで、これから起こすべきアクションは変わる。
この記事では、「女性優位のマネジメント体制になったときに、包摂のカルチャーが立ち現れる」というインサイトに基づき、これからの企業を考えみたい。
女性役員登用が「包摂のカルチャー」を生み出すならば
次の記事は、日本の女性役員の登用が進んでいないことを報じている。そして、「政府はプライム上場企業に対し、2030年までに女性役員比率を30%以上とすることを求めている」とも述べている。
だが、もし前半に述べたインサイトに従うならば、この記事のように30%をめざすのでは足りないのではないか、とも思う。
私の提案は、「どうしたら女性役員を少し増やせるだろうか」という問いをやめて、「どうしたら女性優位の組織を増やし、日本社会に包摂のカルチャーをひろげていけるだろうか」という問いに、思い切ってジャンプすることである。
包摂のカルチャーを良しとするならば、女性はマネジメント職向き、男性はプロフェッショナル職向きと捉え直すことさえできるだろう。
重ね重ね言うが、個人差の方が大きいので、一人ひとりを包摂型、差別化型と評価してはいけない。しかし、大きな発想の転換がなければ、日本の包摂のカルチャーの実現には、もっと大きな時間がかかるだろう。