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令和は、地方にとって「令月」となるか?「冷月」となるか?-エンゲージメント型地方創生のすゝめ-

2019年4月30日の今日、平成が終わり、明日から新元号である「令和」が始まる。「令和」とは、何を始めるにも良く、調和がとれている様を指す言葉らしい。まさしく、イノベーションが求められる昨今の地方都市にとって、新たなスタートを切るには良い元号だと言える。

しかし、残念ながら地方都市の置かれている現状は、必ずしも「何を始めるにも良く」と楽観視できる状況にはない。少子高齢化に人口減少、新たな産業の創出など課題は山積している。加えて、これらの課題に対する明確な解決策やビジョンを打ち出せている地方都市もほとんどない。「令和」が、「何を始めるにも良い」という「令月」となるか、「最後の月」を指す「冷月」となるか、地方都市にとっては正念場だ。


頑張っていない地方都市はない

このような課題を目の前にして、何も手段を講じていないという自治体はない。加えて、その都市に住む住民や企業も精一杯、力を注ぎ、自分たちの地元を良くしようと苦心している。大企業に対してコールセンターやサービスセンターの誘致や、毎週のように開催される町おこしイベントなど、数えきれないほどの取り組みが日本全国で行われている。しかし、費やしている労力に対して、効果のほどは懐疑的だ。

この状況は、なかなか成果の出ない営業部門と状況が似ている。営業現場の従業員一人一人は持てる能力と時間を精一杯費やして頑張っているが、そもそも労力を費やすポイントがズレているため効果が上がっていない状況だ。このようなときは、過去の成功体験や他者の成功事例を模倣するのではなく、現場の担当者が創意工夫しながら、自分たちで解決策を考え出すことが求められる。このように、環境変化の流動性が高く、現場レベルで意思決定が求められるような職務では、成果を出すのにエンゲージメントが有効だと言われている。


地方創生に求められるエンゲージメント

エンゲージメントは、経営学の用語というよりも、コンサルタント会社やシンクタンクが生み出した実務用語に近い概念だ。そのため、定義が定まっておらず、コミットメント(帰属意識)やモチベーションといった類似概念と混同されることがままある。このように定義があいまいな概念であるが、ユトレヒト大学のSchaufeli教授の定義を借りると、エンゲージメントとは「活力と献身、職務への没頭が伴った、遂行に対して前向きで肯定的な状態」と言うことができる。

ただ活き活きと熱意を持って取り組んでいるだけであるならば、多くの地方創生に携わっている人々も当てはまるだろう。しかし、エンゲージメントはただ活き活きとしていれば良いというシンプルな概念ではない。

エンゲージメントが高い人材には、6つの特徴があると言われている。第1に、当事者であること。第2に、自分ならできると自分を信じていること。第3に、自分で自分を奮い立たせる方法を持っていること。第4に、自分の価値観が組織の価値観と合致していること。第5に、疲れを感じていても、同時に充実感を味わっていること。第6に、ワーカホリックではないことである。

加えて、エンゲージメントには2つの対象があり、仕事そのものに対する「ワーク・エンゲージメント」と所属する組織に対する「組織エンゲージメント」が存在する。つまり、目の前の職務や課題に対して取り組むミクロな視点と、所属する組織の抱える課題に対して取り組むマクロな視点が両立していることが求められる。

地方創生の現場に置き換えてみると、「地元を良くしたい」という思い「地元愛」の面は関係者であれば誰しもが持っているところだろう。この「地元愛」は企業では「コミットメント」に近しい概念だ。しかし、地元の抱える課題に対して、エンゲージメントの6つの特徴にあったような、課題への当事者意識や課題解決に向けた自信、価値観の共有ができているだろうか。また、目の前のイベントやお祭りといったミクロな視点ばかりを重視してしまい、地方都市として課題にどう取り組んでいくのかマクロな視点との連携が欠けていないだろうか。


まとめ

日本の特色として、コミットメントは高いが、エンゲージメントは低いと言われている。エンゲージメントは、様々な調査会社やコンサルタント会社によって指標が作られており、国際比較調査も行われている。これら会社が実施するほとんどの調査で日本の順位はほぼ最下位だ。それでは、なぜコミットメントは高いのに、エンゲージメントが低いのか。

それは、コミットメントは「自分の所属する組織に対する愛着や自己同一化である」というシンプルな概念であるのに対し、エンゲージメントは組織や外部環境の整備状況が影響を及ぼしてくるためだろう。エンゲージメントは、自律的に動くための権限や行動の自由を与えられていないと実現が難しい。また、「組織との価値観の合致」も、そもそも所属する組織が明確なビジョンや方向性を提示していない状態では目線を合わせることが困難だ。つまり、エンゲージメントを高めるには、個人だけではなく組織や環境も整備していく必要がある。

地方創生の現場に置き換えた時、その現場はエンゲージメントを高めるようにできているだろうか?もし、エンゲージメントを高めるような制度や環境が地方都市にできているのであれば、若者が低賃金でボランティア活動のような形で成り立っている地方創生の諸活動の形はあり得ないはずだ。彼らの現状は、使命感で支えられたワーカホリックに近い。地方都市にエンゲージメントの概念を取り入れるということは、個人と地方創生の制度の両方が変わるということだ。

思い返してみると、平成は東京一極集中の時代だった。昭和では、日清食品やブリヂストン、武田薬品工業などの大企業が地方都市から誕生していたが、昭和末期から平成にかけて企業の東京への本社移転が相次いだ。国勢調査の結果によると、東京一極集中は21世紀に入ってから一段と加速したという。このまま、東京一極集中が進めば、間違いなく地方都市にとっての「令和」は「冷月」となる。そうならないためにも、地方創生には新しいアプローチが必要である。「地元への愛」というコミットメントをベースにした地方創生ではなく、「マクロ&ミクロ視点のエンゲージメント」をベースとした地方創生が、その1つの切り口となるだろう。

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碇 邦生(大分大学)

大分大学経済学部の講師(人的資源管理論)をしています。採用や育成などのタレントマネジメント、地方創生・地方発ベンチャーなどの話題を中心に取り上げていきます。自動車メーカーやシンクタンクを経て、30代で大学教員とジョブホッパーです。 ※日経のキーオピニオンリーダーに選出されました。

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