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大企業社員のスタートアップ出向、成功の条件とは

大企業からスタートアップに若手社員を出向させる施策が記事になった。少し前から出始めていた動きだが、こうして日経の記事になることで一層認知が広まり、このような施策を採用する大企業も増えていくのだろうと思う。

こうした動きが広がることは、スタートアップで働く機会を得る大企業社員にとっては、自分のビジネススキルを高めたり見直したりするとても良いチャンスなので、積極的に評価したい。

資本関係もない会社で働くということで、スタートアップに行く社員自身がそれを不安に思ったり、また、送り出す上司が部下が苦労することを懸念したりということは、実際に見聞きするところだし、前例のない、あるいは少ない動きであるだけに、そうした心配があることももっともだと思う。

ただ、転職ではなく、基本的には期間が決められ元の企業に戻ることが前提の、いわば「命綱がついた冒険」なのだから、過度に不安に思わず、ダメだったら(期限前でも)戻ればいい、というつもりでチャレンジしていいのではないかと思うし、相談された際にはそのようにアドバイスしている。

私自身も、最初に就職した会社に「本籍」を置きながら、別の(資本関係のない)大企業や、スタートアップ企業を「現住所」として働いた経験があるが、役に立てるかどうかも未知数なので、働く期間については柔軟に対応できるようにしてもらっていた。そして、いずれも得がたい経験をさせてもらった。

ただし、この施策の成功のポイントは、社員を送り出す側の大企業の対応にあり、それがこうした施策の成否を決める。スタートアップで修行して戻ってきた社員に対して、どのような処遇を与えるのか、ということだ。

せっかく、イノベーションの現場を見て戻ってきた社員がいても、その知識や経験を生かすチャンスを与えないのでは、送り出した大企業側には全くメリットがない、どころか、そうして育てた人材が流失してしまう可能性もはらんだ施策である、ということは、心に留めておいていただきたい。

具体的には、新規事業やイノベーションの部署を設け、そこにポストを用意する、といったことはもちろん、少なくても当初はなかなか売上も見込めず、むしろコストだけがかかる(ように見える)新規事業について、会社の経営陣自ら重要性を社内外で公言し、現在の主力事業部門と異なる評価尺度を用意するなど、新規事業とそれに関わる社員を守り育てる意識がなければ、こうした「イノベーション人材」は居場所がなくなってしまい、辞めてしまうだろう。居場所がないのにそこでくすぶっているようであれば「イノベーション人材」としての能力は十分ではない、とすら言えるかもしれない。

これは、長く会社の人事・HRに関わっている人には、どこか既視感のある話ではないだろうか。私には、かつてのビジネススクール(MBA)派遣制度と重なって見えてしまう。私自身はHRが専門ではないので、当時のこの制度が現在どのように評価されているのか詳細は知らないのだが。

当時、社内選抜を通ってビジネススクールに派遣される社員に対して「お前ら、(MBA取って戻ってきた後に)辞めるんじゃないだろうな」と凄んだという、ある会社の経営者の話を噂に聞いたことがあるが、結局、会社としてMBAホルダーのポジション・処遇を用意せずに、いわば流行に乗る形で社員にMBAを取らせに行くことだけが一時的に広まったものの、一過性の施策に終わってしまったように思う。

2つ目の記事の最後にも少しだけ触れられているが、せっかくスタートアップへ社員を武者修行に出すのであれば、そうした社員が戻ってきた後の制度をきちんと整えなければ大企業にとってこうした施策のプラスはないだろう、ということを、経営層の方には改めて指摘しておきたい。

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