見出し画像

NARRATIVE(ナラティヴ)に行こうぜ!Vol.2-あやふやな関係こそ力強い

こんにちは。スマイルズ野崎です。 前回これから「価値爆発の時代が来る!」、これからの価値のキーワードは「NARRATIVE=自分事」だというお話をしましたが、今回はその続きです。

NARRATIVEと「関係性のブランディング」

このNARRATIVEという概念について改めて考察してみたいと思います。

が!
その前に企業やブランドがどのような目的を持った際に「NARRATIVE」を取り入れることが有効となるのか考えてみたいと思います。 

スマイルズが提唱するブランディングの考え方として「関係性のブランディング」というものがあります。 自著『自分が欲しいものだけ創る(日経BP)でも紹介していますが、 これは企業やブランドを擬人化して、そのステークホルダーとの信頼構造の性質について分類したものです。

画像1

この関係性はその信頼関係が、情緒的に結ばれているのか、論理的に結ばれているのか(横軸)その両者の関係が上下の関係か、並列の関係なのか(横軸)によって大きく4つに分類されます。

それぞれの内容は図に示した通りなので割愛しますが、これまでの大半の市場においては、規範的あるいは合理的関係を結ぶ攻防が繰り広げられていきました。
「私たちがより正しい!」「私たちの方がよりお得です!」というわけです。

ネットにおける比較購買なども基本的には何らかの定量的スペックをベースにしている場合は、生活者も自分の購買は正しいのかという論理的正解を求めているわけですね。

しかしながら近年はD2Cの台頭や、インフルエンサーがいきなりハンバーガーチェーンを開いてしまうなんていう論理的な与信を突破したビジネスの興り方が増えていますよね。


この事象自体は何も今に始まったわけではなく、かつてから「知り合いのブランドの展示会に行ったら応援票も含めて思わず商品を購入してしまう」とか、「近所にある地元だけで人気が”すさまじい”居酒屋」とか、規範や合理を度外視した消費行動は生活者の中に内在していましたが、SNSなどのメディアやテクノロジーがその感覚を広くビジネス実装させることを可能とさせたわけです。

また様々な分野におけるファブレス化やDXによる共通プラットフォームの構築などによるサプライチェーンの革命が、大抵の製品クオリティを担保してくれるようになったことで、どんな商品を買っても「まあ外れはしない。」なんていう市場主観※が生まれてきたことも要因としてあるのではないかと思います。

※市場主観:かつてのファストフード店であれば、本来の意味である”早い食事”というイメージにとどまらず、”安い””ちょっと体に悪そう”のような元々の本質とは必ずしも関係のないものの、ユーザーの中で当該市場において一般的に想起される付帯的イメージのことを指す

かつてであれば、「やっぱり家電は日本製じゃなきゃ心配」とか「CMやっているブランドじゃないと安心できない」なんて時代もあったわけですが、今となっては、ダイソンなどの欧州メーカーから韓国や台湾のメーカーも数多く市場でのプレゼンスを獲得し、アイリスオーヤマの勢いも凄いですよね(僕の幼少期は、アイリスオーヤマに家電メーカーのイメージは1mmもなかったんですけどね(笑))。

市場を取り巻く種々の環境変化が、異業種や個人事業主にとっての参入障壁を下げ、さらにはクオリティをも担保しうる現代、業界の盟主たる地位に甘んじるだけでは足元を掬われかねない時代に突入したと言えるでしょう。またSDGsを始めとした社会課題へのアクションが求められる今、単にスペックだけの競争に陥らないステークホルダーとの関係構築を梃にしたブランディングの在り方として、情緒的関係を構築していくことは非常に重要なファクターとなり始めていると感じます。

「宗教的なコンビニ」とか「共感する電力」とかそんなことを考えるだけで、新しい可能性が拓けてきそうな気がしませんか?

さてとは言え、市場の状況に応じて、企業やブランドは臨機応変にステークホルダーとの関係性を構築していく必要があります。「コストパフォーマンスも高いのに、共感できる」とか、「宗教的で妄信もするが、社会的に正しくもある」のような関係の多義性が求められているとも言えます。

顧客とどんな関係性を結びたいか?

それではそれぞれの関係性を結ぶ上でどのようなことがポイントか、少し整理したいと思います。

画像2

●宗教的関係

『自分が欲しいものだけ創る(日経BP)』の中では 【宗教的関係】を築くためには”信仰のメカニズム”を構築する必要があるという話をしました。これはまさに宗教における教祖や経典、宣教師や偶像・聖地などと同様の仕組みが必要となるということです(詳しくはここでも本書をご覧ください)。

じゃあその他の関係においてはどのような要素が必要か、この点については本書では触れていないので、仮説的な部分もありますが、検討してみたいと思います。

●規範的関係

まずは【規範的関係】の場合。この場合は社会的与信を生み出すRTB(Reason To Believe)が必要です。これはマーケティング用語ですが、所謂「信じるに足る理由」ですね。特に【規範的関係】を構築するRTBとしては「目・論・見」が重要だと考えています。

「目」とは企業の目標やビジョン、トップからのメッセージ、社会へ向けたスコープ等その企業やブランドの意志を指します。「論」とはロジック。事業戦略から商品の開発メソッドなど、活動や商品クオリティを担保する論理。「見」とは何らかの見える部分。社会的認知や商品・チャネルなどステークホルダーとの接点のすべて。更には時として活動の裏側を見える化することも有効な手立てとなります。

●合理的関係

次に【合理的関係】。ここでは、まさにコストパフォーマンスが肝となるわけですが、一般的な価値工学上の定義(V:価値 = F:機能 / C:総費用)とは少し異なると考えています。価値の届け方の選択肢が少なく、あるいは価値の対象物が物質的なものに偏っていた時代においては上記の考え方に妥当性はあったかもしれませんが、”モノの届け方”やサービスに競争軸が移ってきた今、価値のファクターは下記のように示すことが妥当なんじゃないかと思います。

 V=αR・βP・γM / C

V:価値
R:得られる結果の質(商品の機能や品質)
P:結果を享受するプロセス
M:享受するときの心理的状況(心理障壁の除去 or 期待値の増幅)
C:支払われる金銭的総費用
α・β・γ:互いに相関関係がありえる変数

ちょっとややこしくなりましたね。
いずれにせよ、単にある商品やサービスによって得られるであろう結果(R)とそこに支払われる費用(C)だけにとどまらず、その結果を享受するまでのプロセス(P)や享受する際の心理的状況(M)が重要になってきていると言いたいわけです。

合理的関係性をさらに深堀り!

このことに気づくきっかけになったのが、データストレージサービスの「Dropbox」を利用し始めた時でした。

「Dropbox」 がローンチされた2008年頃は、オンラインストレージブームが巻き起こっていました。Microsoftが提供する「Windows Live SkyDrive(後のOneDrive)」をはじめ、RICOHの「quanp(現在はサービス終了)」など様々なオンラインストレージサービスが群雄割拠していた時代です。併せて、各アプリケーションが独自のUI / GUIを生み出すことにも躍起になっていた時でもあったので、各社特徴的で差別化されたお作法を備えていました。

そんな中「Dropbox」はその設計思想が全く異なっていたんですね。全く特殊なUIを備えていない。これまでのファイル・フォルダ管理と全く変わらないわけです。更には気が付けば自動でアップロードしてくれるので、そもそも使っていることすら意識しない。完全な黒子状態。それまでのオンラインストレージはそもそもアップロード作業やダウンロードが面倒でどうも使い勝手が悪かったわけですが、「Dropbox」はローカルのHDDの容量に依存するものの、その作業をゼロプロセス化したわけです。更には真新しいUI / GUIを”備えない”ことで、心理障壁もほぼゼロにしてしまった。それ以外にも様々な気の利いた機能があるのですが、兎にも角にも徹底的にユーザーセンタードなデザインを行ったわけです。

 V=αR・βP・γM / C

V:価値
R:得られる結果の質(商品の機能や品質)
P:結果を享受するプロセス
M:享受するときの心理的状況(心理障壁の除去 or 期待値の増幅)
C:支払われる金銭的総費用
α・β・γ:互いに相関関係がありえる変数

 上記の式で言うならば、R:結果やC:総費用よりもP:プロセスやM:心理的障壁において他のサービスと差別的な価値を作り出したと言えるでしょう。

いずれにせよ、これからの合理性の競争盤面は、単なる商品スペックや価格だけではなく、その結果を享受するプロセスや心理品質までもが重要となってきそうです。

●共感的関係

そして最後に【共感的関係】を結ぶためには何が必要か?ステークホルダーが企業やブランドに対して「なんか好き」と感じているわけです。正直僕も最近までこの関係は確実にあるとわかりながらもどうやったら「なんか好き」となるのか解けないでいました。これはまさに「関係性のブランディング」における未解決問題だったわけです。

スマイルズのある1日, 自然光_HMA0178-Edit

しかしながらどうやらこれを解くキーワードこそが「NARRATIVE(自分事)」ということなんじゃないかと気づき始めたわけです。

もし企業やブランドが意識的に【共感的関係】を結ぶことができればこれは無茶苦茶強いですよね。「NARRATIVE」な状態になっていると考えると、そのブランドの不完全なところや場合によってはダメな部分も許容してしまうわけですから。

画像4


おっと、そんな話をしていたら、またしても時間が来てしまいました。
結局NARRATIVEとは何ぞや?ということは解けずじまいですが、どうやら【共感的関係】を結ぶためのキーファクターのようです。

実はすでにNARRATIVEにもいくつかのパターンがあることを発見してはいるのですが、まだまだ未解明な部分も多いので今回はこのあたりで。

次回は全然違う話をしたいと思います。

この記事のおすすめ書籍

この記事を書いた人

画像5

野崎 亙(のざき わたる)
株式会社スマイルズ/取締役CCO/Smiles: Project & Company 主宰

京都大学工学部卒。東京大学大学院卒。2003年、株式会社イデー入社。3年間で新店舗の立上げから新規事業の企画を経験。2006年、株式会社アクシス入社。5年間、デザインコンサルティングという手法で大手メーカー企業などを担当。2011年、スマイルズ入社。giraffe事業部長、Soup Stock Tokyoサポート企画室室長を経て、現職。全ての事業のブランディングやクリエイティブを統括。外部案件のコンサルティング、ブランディングも手掛ける。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?