2022年読んで面白かった10冊の書籍を紹介する第1回松本賞
2022年、松本が読んだ書籍の冊数は85冊でした。仕事忙しくて血尿出たわりには、月7冊ペースで読んでたことに驚きです。一時は週7ペースでオフィスへ出社していたから、移動中に本を読めたことが起因していると思います。
年々縮小傾向にある書籍・雑誌市場。少しでも面白い書籍に出会って欲しいと考え、皆さんに松本が推薦する書籍をご紹介します。年末年始の移動時間に、気になった書籍に目を通していただければ幸いです。
SF小説であり現代小説「彼らは世界にはなればなれに立っている」
相棒の脚本家としても知られる太田愛さんの小説が大好きで、全作買っています。その中でも本作は意欲作であり異色作。
〈はじまりの町〉の初等科に通う少年・トゥーレから始まる物語は、章ごとに主人公を変え、最後には「2021年には想定外だけど、2022年には想定内の結末」を迎えます。
太田さんが脚本を書かれた「相棒 -劇場版IV-」もそうですが、太田さんは常に「持つ者」と「持たざる者」の戦いを丁寧に描きます。エルサレルム賞受賞時の村上春樹のスピーチ「壁と卵 - Of Walls and Eggs」と根本は一緒だよな、と思っています。
2022年秋ドラマ「エルピス」が好きな人は、この小説も好きなはず。
WHO・WHAT・HOWの話「ファンダメンタルズ×テクニカル マーケティング」
SNS上でマーケティングについて検索すると、だいたいが「HOWの話」に収斂しており「それだけでマーケティング語るのもどうかと思う」と悩まれたマーケターも多かったのではないでしょうか。
一方で、上位概念にあたるWHO・WHATの話は抽象的過ぎて、都度具体的に説明しないと「地に足ついていないアカデミアな話」と思われがちです。コミュニケーションを間違えると、数年前からSNSで散見される「デジタルマーケター叩き過ぎ問題」にも発展してしまう。
ところがWHO・WHAT・HOWのバランスを捉えた非アカデミアなマーケティング本が意外と少なく、自分で言葉を作るのも大変だし、「まぁ…好きにしたら良いんじゃないですか」と分断を生み出していたと感じています。
本書籍は、冒頭にWHO・WHATの話を徹底的に優しく噛み砕きつつ、後半にHOWの重要性も描かれた、かなり稀有な書籍だと考えています。
代替行動の臨床実践ガイド:「ついやってしまう」「やめられない」の〈やり方〉を変えるカウンセリング
帯からして、普段からマーケターが考えていることじゃないですか。
根底に流れているのは、行動分析学です。「ついやってしまう、やめられない行動」を「代替行動」へ切り替えるためのアプローチが、詳細に解説されています。もし本書を読んで「面白い」と感じたなら、次に学ぶべき領域は行動分析学でしょう。
もっとも、扱っているテーマは、夜更かし、ゲーム、ギャンブル、飲酒、喫煙、風俗通い、薬物、リストカット、家族間のコミュニケーション不全なので、結構重めです。依存症や自傷症からの脱却など、読んでいて辛い気持ちになる方もおられるでしょう。
1つ1つのテーマを抽象化して、自分だったらどうするだろう、もし顧客に代替行動を促すならどうするだろう…と考えながら読むと良いです。
言葉の可能性「「売り言葉」と「買い言葉」心を動かすコピーの発想」
松本が今一番嫌いな言葉が「そのコピー、機能紹介になってない? メーカー目線じゃない?」です。うぜぇー。全てのプロダクトがPMFしていると勘違いしたマーケターのアドバイスうぜぇー。プロダクトアウトを悪と勘違いしたマーケターの考え方うぜぇー。
俺の中のウエストランドが、あるなし問題を飛び越えて、苛立ちを訴えてますよね。
本書の著者であるコピーライターが「ものを売るためのコピー」と「ものを買ってもらうためのコピー」をそれぞれ紹介します。紹介されるコピーと、その解説もタメになります。
どちらかが時代遅れなんかではなく、手法として「どちらも必要」。どちらかが優れているなんかではなく、発想として「どちらも必要」。両刀を知っておくべきですね。
私以外私じゃないの「サブリミナル・マインド 潜在的人間観のゆくえ」
大学の授業が1冊の書籍になっています。本書のテーマは「人は自分で思っているほど、自分の心の動きをわかっていない」。私以外私じゃ無いけど、私が私を気付いていない。メタ認知できていないのです。
「気付いていない私」とは「マーケティングで言われる潜在的欲求に突き動かされ、いつの間にか行動している私」と言い換えられます。いつの間にかコーヒーを買っちゃう。いつの間にかスマホ開いてTwitterやっちゃう。やめられない止まらない!
そうした「ついつい」を昔から宗教が解き明かす役割を担ってきました。キリスト教で言えば「七つの大罪」であり、仏教で言えば「煩悩」です。先ほど紹介した「代替行動の臨床実践ガイド」も「ついつい」を読み解く話です。
松本が「人が悪魔に熱狂する」を書き終えて「無意識」「習慣」をテーマに次回作を練っていた時に、出会った1冊でした。
持ってる小説家・池井戸潤「ハヤブサ消防団」
もっている人は、何をしても流れを引き寄せます。2010年代を代表する作家である池井戸潤さんも「もっている人」です。
これまでの勧善懲悪方式に少し飽きたのか、超久しぶりに人が死ぬ小説を書かれたので「今回は”売れる本”じゃなく”書きたい本”だったのかな。絵にするには、ちょっと地味というか、タブーな感じする」と思っていました。
ところが、本書に登場する「宗教団体が醸し出す沈黙と恐怖」は2022年後半を騒がせたテーマだったこともあり、難なくTVドラマ化。タブーがタブーじゃ無くなった感じしますものね。
小説は二転三転四転して非常に読み応えがあります。
想定外のオチに驚愕する「リバー」
奥田英朗さんは「最悪」以来のファンです。奥田英朗さんと池井戸潤さんは新作を必ず読みます。絡みに絡んだ糸が最後の瞬間に爆発するカタルシスが最高なんですよね。
本作も「この人が犯人じゃないかな?」という予想が中盤に出来つつも、数多の関係者が想定外に巻き込まれ、転げ落ち、最後のどんでん返しに辿り着きます。「えっ、そうきました?」という感じ。
川(リバー)、栃木、群馬、連続殺人事件と聞いてピン!ときた人。まぁ、読んでみて下さい。
アンチ東京の炎を絶やすな「暖簾」
松本は30代前半に東京へ転勤でやってくる以前は、大阪に住んでいました。平野に20年、野田阪神・中崎町・天満と北区に10年ほど居たのですが、東京に居る時の方が「大阪愛」を拗らせていますね。いまだに大阪弁で、本籍を大阪のままにしているのは「郷土愛」なんです。
暖簾は国民的作家・山崎豊子先生の処女作であり、自伝でもあります。虚実ない混ぜのストーリーは、戦前、戦中、戦後と今は姿無き大坂(大阪)の船場を舞台にしています。
この小説も、ぜひオチに注目して欲しい。非東京出身の人ほど「あぁ〜」と思うでしょう。
普通の会社になる理由「アフター・スティーブ 3兆ドル企業を支えた不揃いの林檎たち」
偉大な企業は、カリスマ(創業者)を失うとどうなるのか。日本であれば松下幸之助や本田宗一郎、あるいは盛田昭夫のような偉大な太陽無き後、組織はどうなるのか。みたいな普遍的なテーマを、膨大な取材の上で小説のように読めます。
「日本はスティーブ・ジョブズを生めなかった」みたいな意味不明なご高説を伺うことがあります。本書を読み終えて「そうですね、Appleは日本の大企業と同じ道を辿りましたしね」という感想を抱きます。
緩やかに衰える、死なない程度に。その怖さを知りました。
現代日本最高のマーケター「鈴木敏文のCX(顧客体験)入門」
本書の感想をSNSに投稿したところ、思いの外バズりましたので、そちらの投稿を添付しときます。
映えある第1回松本賞の受賞は…?
松本がこの2022年末・2023年始にどうしても読んで欲しいと考える最高の1冊はこちらです。
とにかくメッセージ性が強いですが、ハマる人はハマります。2022年、このSFの世界が現実になった世界で生きる私たちにピッタリの小説です。