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ビジネスは社会課題を解けるか?

パタゴニアはアパレルメーカーでありながら、なるべく衣料品の無駄買いを減らすよう消費者に呼びかける希少な存在だ。このように、自社の存在そのものを社会課題の解決に結び付けるビジネスは、表層的にESGを気に掛ける多くの企業とは根本的に異なる思想に基づいている。

資本主義の枠組みに身を置きながらも、株主利益よりも社会課題解決を優先するという意味で「資本主義に異を唱える」と言えるこれらの企業の系譜を歴史的にひもといた書籍が、私のハーバード・ビジネス・スクール時代の恩師、ジェフリー・ジョーンズ教授による“Deeply Responsible Business: A Global History of Values-Driven Leadership”という著作である。最近、京都大学経営管理大学院で彼の講義を拝聴する機会があった。

社会にとって善いことを本業としながらも営利企業として存在する―そんな例は実は古くからある。パタゴニアは近年の例だが、古くは飲酒の代わりにチョコレートを勧めたキャドバリー(英)、貧富の差をなくすよう格安の値付けをしながら従業員を手厚く報いたファイリーンズ(米)、日本の資本主義の父でありながら公益追及を説いた渋沢栄一などが紹介されている。資本主義の中でもこのような企業が絶え間なく生まれ、いくつかは成功して存続していることは、私たちに希望を与えてくれる。

一方で、このような企業が今まで一度も世界を塗り替えるような飛躍をしないことは、悲観の種となる。これは、コミュニティを重視してDeeply Responsibleであろうとすると、おのずとビジネスモデルが地元密着志向になり、規模拡大やグローバル化が難しいという根源的な限界を内包するからだと考えられる。逆にこのようなビジネスが時流に乗って急拡大した場合、往々にして創業者精神が失われ「普通の企業」になってしまうという例も著書では紹介されている。

故に、これらの事例が深い人間性と起業家精神の融合がもたらす希望の星だとしても、資本主義の果てに起こるさまざまな問題―格差拡大、環境破壊、気候問題など―に対するグローバルでシステミックな解決にはならなさそうだ。では、ESGやBコープといった仕組みはどうか?ジョーンズ教授の解説によると、ESGはKPI操作に帰着し、Bコープは優れたアイデアではあるもののその展開は遅く、中小企業しか当てはまらないという難点があるという。
資本主義は私たちに富と繁栄、より良い健康をもたらしてくれた一方で、その与えるダメージも大きい。「何かしなくては」という問題意識は世界共通ながら、これはという解決策が見いだせないまま、世界は漂流する。

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