トルコショックで本当に怖いことは難民危機の再来

記事中コメントさせて頂いております。今回のトルコショックではFT記事に端を発しスペイン、フランス、イタリアの大手銀行の名前が具体的に挙げられており、これがユーロ売りはもちろん、世界的な株安に繋がった格好です。確かに国際決済銀行(BIS)の国際与信統計を元に数字をチェックしてみると、それらの国々の名前は目につきます。例えば、18年3月末時点でトルコの国内銀行が外国銀行に対して持つ対外債務は合計2232億ドルですが、上記3か国だけでその合計額の約6割を占めることになります。こうしたデータを元に金融市場が懸念するのは「トルコ発、スペイン・フランス・イタリア経由、ユーロ圏行き」という危機の波及経路でしょう。

とはいえ、それら3か国が世界向けに有する国際与信残高(国外向けの与信残高)にとってトルコがそこまで大きい訳でもありませんから、事態がそこまでクリティカルなものになるとも思えません。FT記事中でも「決定的な事態ではない」という関係者の評価が出ています。

しかし、心配がないわけではありません。キーワードは難民です。根本的な解決が済んでいないとは言え、2015年に勃発した欧州難民危機をEUが抑え込めているのはトルコとの間で2016年3月に妥結した「EU-トルコ合意」によるところが大きいのです。トルコの政情が不安定になるとこの合意が反故にされ、難民危機が再発するリスクがあることは市場ではまだ意識されていないように思えます。現状、根本的に解決していない難民危機が火を吹いていないのはEUがトルコにお金を払って難民を堰き止めてくれているからです。

つまり、欧州難民危機は「エルドアン政権がトルコ沿岸の警備にどの程度真剣にコミットしてくれるのか」という点に依存しています。ここに至るまでのエルドアン大統領の言動を見る限り、故意的に難民管理を杜撰なものにするリスクは無いとは言えないでしょう。いや、故意ではなくともトルコの政治・経済自体が混乱を極めれば難民を管理しきれないという過失も考えられます。率直に言ってイタリアやドイツの正常性に鑑みれば、今、EU域内に難民流入が再開するのは非常に不味い話です。さらに2019年5月には5年に1度の欧州議会選挙もある。EU懐疑的な会派をこれ以上躍進させないためにも難民を巡る状況はやはり悪化させるわけにはいきません。

現状、金融市場ではトルコの国内金融システム混乱がユーロ圏に波及する経路が不安視されていますが、現実的にはエルドアン政権が欧州難民危機ひいてはEU政治安定の生殺与奪を握っている事実の方がより強い脅威であるように思われます。

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO34081580R10C18A8EA2000/

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