電力需給逼迫は節電ポイントでしのげるのか?
この夏、電力需給がひっ迫する見通しであるとして、政府は節電を奨励し、参加してくれた家庭にはまず2000円分のポイントを付与し、要請に応じて実際に消費電力量を減らした場合にはポイントを上乗せすることを検討している、と報じられています。
この制度で需給逼迫は回避できるのか、考えてみたいと思います。
需給逼迫回避の方法は?
需給逼迫を回避するには、「供給力を増やす」か、「需要量を減らす」か、その両方とも行うかしかありません。
まず、供給力を増やす方を考えてみましょう。電源設備の中で最も短期で設置可能な太陽光発電であっても、大規模な導入は期待できません。ご自宅の屋根の上に太陽光発電を導入しようと考える方がおられたとして、何軒のお宅が冬までに設置できるか、というところでしょう。新規建設によりこの事態に対応するのは無理筋であり、あり得るのは既存設備の活用です。
既存の原子力発電所の活用(いわゆる原発再稼働)、もしくは、休廃止した火力発電の再稼働しかありません。原子力の再稼働を求める声は高まっているもののどこまで現実的なのかなどについては稿を改めて述べたいと思います。
さて、供給力を増やせないなら、需要を抑制するしかありません。
電気が大量には貯められない(在庫を持てない)商品であるために、最も需要が多くなるタイミングにもその量を賄うだけの発電設備を持たなければならないのですが、そうしたピークにあわせて発電設備を持つことは、普段稼働率の低い設備を抱えることになりますので、以前から電力会社は工場などの大口需要家に向けたメニューとして、需給がひっ迫した時、直前に連絡すれば電気の使用を停止してもらう契約を用意していました。いわゆる「ディマンド・レスポンス」(需要側の対応)です。
ディマンド・レスポンスへの期待と限界
なぜ大口の需要家にだけそうしたメニューが用意されているかと言えば、迅速かつ確実に需要を抑制する必要があるからです。需給バランスをギリギリで確保している状況では、抑制すべきタイミングで確実に必要量を抑制する必要があるので、契約に基づいて確実な使用抑制を約束してもらえる大口需要家の確保に取り組んできたのです。
こうした大口需要家には、指令に応じて電力使用を抑制することに対して経済的インセンティブが与えられる訳ですが、生産計画は人や資材の手配、納期など様々な要素で判断されるものであり、電力使用を抑制すればそれが狂ってしまいます。
例えば2018年1月には、1週間ほぼ毎日抑制の指令が発せられました。発動指令に対する達成率が徐々に低下していったことが当時の資料に記されています。2018年1月の需給に関する分析はこちら。
経済学者の中には、需給ひっ迫時のデマンド・レスポンスは、設備投資の必要が無く痛みのない施策であるとして積極的に推奨すべきであると主張する向きもあります。確かに設備投資の必要はないのですが、経済活動を抑制せざるを得ないことは確かで、使い方には注意が必要です。
節電ポイント制度の課題
今回政府が打ち出した節電ポイント制度。これは一般家庭を対象としたものです。
先ほど、確実性の点で大規模ユーザーが勝るといいましたが、小さな取り組みが集まると大きな力になるのも確かでしょう。今年3月22日の深刻な需給逼迫の際には、一日を通じて3%程度の節電が行われ、その半分程度が低圧電力(家庭用の小規模な契約)であったとされています。
とはいえ、この節電ポイント制度には課題も多いと感じています。
3つ指摘します。
① 節電の量はどう測る?
昨年リモートワークをしていた方が、今年は通常通り出勤するということになれば、家で使用する電力量は減少する可能性が高いでしょう。ただ、社会としての電力使用量はこのことによって減ったのかどうか?税金を原資にポイントを付与するのであれば、公明正大なルールが必要ですが、どう設計すれば公平になるでしょうか。参加を宣言したら2000ポイント、ということでは単なるバラマキとなってしまい、節電の効果がどれほど期待できるかがわかりません。
② 民間事業者の競争はどこへいった?
需給逼迫の際には卸電力市場で価格高騰が発生します。仕入れ価格が高くなる中で、小売り電気事業者は、顧客に節電を促すインセンティブを与えるメニューを考案し、高い電気を仕入れなくて良いようにするわけです。その創意工夫こそが、電力自由化の効果として期待された小売り電気事業者の競争であり、そこに政府が介入することのデメリットは大きいでしょう。とはいっても、それでも介入せざるを得ないほど、需給ひっ迫が厳しいと政府は考えているわけです。
③ 供給力の確保こそが政府の仕事
この一言に尽きます。
自由化以降火力発電所の休廃止が続いたことに対してもう少し早く手当てをできなかったのか、福島原子力発電所事故以降原子力政策を放置してきたツケが来ているのではないか。この問題はまた稿を改めて書きたいと思います。
早速、今週にも需給逼迫注意報が発令される可能性とのこと。
電力需給逼迫で初の注意報 経産省、27日に東電管内に: 日本経済新聞 (nikkei.com)
熱中症など大事なことには電気をしっかり使った上で、身体に負担をかけない範囲での(←ここが一番大事)、節電にご協力いただければ幸いです。
急に暑くなりましたので、身体がなかなかついていけないと思います。くれぐれもご無理なさらないように!