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提言③:前編 誰からお金を稼ぐのか? -都市内の預金額を増やす-

「経済を活性化させるために、すべきことは何か?」

この問いに対して、多くの人は以下のような答えを述べるのではないだろうか?

「消費を増やして、経済を回すことです。」

残念ながら、この回答だと私の講義では「C」評価だ。貯蓄しているだけでは経済活動が行われないため、健全な消費が伴わなければ緩やかにその地域の経済は死んでいく。そこは正しい。しかし、「B」評価以上を取りたければ、「どう消費するのか?」まで言及して欲しい。


お金を使うほど、都市が貧しくなる?

地方だから物価が安いかと言うと、必ずしもそうとは言えない。例えば、離島は生活に必要な資源や物品のほとんどを船で運び込まなくてはならないため、物流コストがかさみ、物価が上昇する。そのような状況だと、生活用品を買えば買うほど、生活用品を仕入れるための現金が島の外に流出してしまうため、島内で流通する現金の総額が減少していく。

貿易関係で考えると分かりやすい。貿易赤字の国は、輸出によって獲得する外貨よりも、輸入によって流出する国内通貨の方が多いために貧しくなる。このスケールの小さいことが、都道府県や都市レベルでも起きる。地方都市の経済を活性化させるためには、地域外に出ていく金額よりも地域外から入ってくる金額が大きくなければ、経済活動をすればするほど地方経済は衰退していく。そのため、地方活性化のためには、目先の雇用確保のための大企業誘致や起業しやすい個人商店を増やすよりも、地域外から収益を獲得することのできる事業が生まれるように戦略を立てることが肝要だ。


どこからお金を獲得するのか?

それでは、地方活性化のために、どこから収入を得るべきだろうか。その答えはシンプルだ。お金を持っている場所と人から取ってくることだ。

例えば日本全国で一丸となって推進しているインバウンド観光だが、この観点から考えると、現在、主なターゲットとなっている中国や東南アジアからの観光客は好ましいとは言えない。TripAdvisorの調査『Trip barometer』(2017年)によると、日本を含むアジア圏内の観光客で宿泊費にかける金額が世界平均を超えている国はない。

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TripAdvisorの調査に従うならば、誰が何と言おうと最重要と考えるべき顧客はオーストラリア人だろう。そして、ラグビーワールドカップでの熱狂とオーストラリアやニュージーランド観光客の消費金額を思えば、あながち的外れな指摘ではないことが立証されたと言えるのではないか。大分県は、ラグビーワールドカップの会場として大きな恩恵を受けたが、その経済効果は2002年のサッカーワールドカップの比ではなかった。

しかし、いきなり海外市場を対象として事業展開することは簡単なことではない。初期費用も大きくなるし、なんといっても語学に堪能な人材が日本には少なすぎる。特に、地方都市の経営者で語学に堪能な人材は本当に一握りだ。そのため、どうしても国内市場で足腰を固めざるを得なくなる。

熊本の味千ラーメンを展開する重光産業株式会社のように、日本よりも海外で成功している地方企業は限定的だ。同社は、2007年に日本ではなく、香港証券取引所に上場している。それでは、日本でお金を持っている場所と人はどこなのか?


地域外から収入を得る2つのアプローチ

日本銀行が公表している統計データを見ると、面白いことがわかる。例えば、国内銀行が保有する預金額の合計を都道府県別に知ることや時系列で参照することが可能だ。丁寧なことに、自動的に折れ線グラフで描画までしてくれる。

このデータを見てみると、日本における富の偏在がよくわかる。都道府県別預金額の上位20地域・都道府県を一覧にしたものが下図だ。一般預金には、個人と企業の預金額が合算されたものが記載されている。預金合計は、一般預金・公金預金・金融機関預金・政府関係預り金の合計だ。

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図を見てみると、日本国内の預金額の約半数が関東地方に集中しており、東京都だけで約35%を占めていることがわかる。35%というと、近畿地方と中部地方、九州・沖縄地方、北陸地方の4地方を合算した金額とほぼ同じだ。東京都の面積は日本全国の0.57%しかなく、人口割合も10.92%と非常に限定された一都市に、富の一極集中が起きていることがわかる。

以上のことを踏まえると、地域外から収入を得るためには2つのアプローチが想定される。

第1のアプローチは、シンプルに東京都を主要な市場として捉え、地方都市の本社に収益を持ってくる方法だ。地方である程度の成功を収めた企業が、東京本社や営業本部を作るパターンがこれに当たる。しかし、このパターンは自社商品やサービスに圧倒的な競争優位性がないと激しい市場競争に揉まれ、思うように成果を出すことができないことが多い。

第2のアプローチは、東京以外のすべての地方都市をターゲットとする方法だ。東京には35%の預金額が集まるが、残りの65%は地方に分散している。規模だけで言えば、東京に特化するよりも、地方に特化したほうが市場が大きくなる。この地方に点在する65%を主なターゲットとする戦略だ。例えば、ファミリーレストランのジョイフルやホームセンターのコメリは、東京よりも地方市場に重点を置いた事業展開をしている。

これ以外のアプローチ(例えば、九州のみなどの特定地方への特化)では、事業規模に限界が来てしまう。事業規模が獲得できないと、残念ながら地方都市の収益構造に及ぼす影響力は微々たるものになってしまう。その企業単体としては良いかもしれないが、都市としての活気が失われることに歯止めをかけることが難しい。

また、都市の活気が失われないようにするために、地域外から収入を得ることができる大企業ができればそれで良いのかと言うと、そんなに簡単な話でもない。後編では、地方活性化に向けた、地元の中小企業や個人商店と大企業化を目指す地方発ベンチャー企業の役割の違いについて考えていきたい。


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大分大学経済学部の講師(人的資源管理論)をしています。採用や育成などのタレントマネジメント、地方創生・地方発ベンチャーなどの話題を中心に取り上げていきます。自動車メーカーやシンクタンクを経て、30代で大学教員とジョブホッパーです。 ※日経のキーオピニオンリーダーに選出されました。
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