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実は和菓子はいつも新しい。

こんにちは、電脳コラムニストの村上です。

みなさんは最近和菓子を食べましたか? 季節感のあふれる雅な見た目と懐かしさを感じる餡の風味は、いつ食べてもホッとする味わいです。〆に薄茶でも点てればなお心落ち着くひとときになりますね。

和菓子産業は製造企業数約3万社(推定)といわれる中で小規模事業者が95%を占めると言われており、その需要動向などについて正確な統計はありません。総務省統計局「家計調査」によると、平成28年では平成18年と比較して97.2%であり、比較的底堅い需要が存在していると言えるでしょう。また、健康志向や少子高齢化という社会動向も、和菓子にとってはマイナスではありません。和菓子の餡(つまり小豆)には、良質なタンパク質、豊富なビタミンB群、鉄、カリウム、マグネシウム、カルシウム、リン、亜鉛などのミネラルやサポニンなどの機能性成分はもとより、食物繊維やポリフェノール含有量も多いです。加齢とともに変化する嗜好も、高齢者ほど和菓子を好むという傾向がありますのでプラス要素です。

なにより、和菓子は季節感という強い商品特性があります。誕生日やクリスマスくらいしかイベントがない洋菓子に比べて、和菓子には春夏秋冬に合わせて桜餅や柏餅などが売られます。また、正月、節分、ひな祭り、彼岸、花祭り、端午の節句などの伝統行事とも切り離せない関係があります。

そんな和菓子に、近年新しい風が吹いているようです。

和菓子は「五感の芸術」といわれる。特徴的なのは味覚や触覚などに加え、聴覚でも味わうことだ。和菓子には「アントニオとララ」のように「菓銘」と呼ばれる名をつけることが多い。例えば秋のモミジをかたどった菓子にはしばしば「竜田」と銘がつき、紅葉の名所の竜田川や、かの地を詠んだ和歌の数々を思い起こさせる。菓銘を聞くことで「菓子の向こうにイメージがふくらむ。菓子は食べればなくなるけれど、言葉の余韻は残ります」。こう話す名主川さんを和菓子にひき付けたのも、菓銘の伝統だった。

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竜田川と言えば平城京の昔から紅葉の名所。「千早ふる 神代も聞かず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは」という百人一首にある在原業平の歌は、人気漫画のタイトルにもなりました。江戸時代の元禄期に茶道を中心に「ものに銘をつけるブーム」があったと言われており、お菓子にも銘がこぞってつけられたようです。そのため、季節感を美しく切り取った古今和歌集のような和歌や源氏物語などから銘をつけたのだと思います。

一方で、和菓子は海外の最先端の菓子を取り入れ続けた歴史もあるようです。

「タチバナの実が菓子の始まり」という神話通り、古代日本の菓子は果実や木の実だった。今「和菓子」と聞いて思い浮かべる菓子の多くは、江戸時代に生まれたといわれる。その下地には遣唐使や禅僧らが中国から伝えた饅頭(まんじゅう)や羊羹(ようかん)、欧州の金平糖やボーロといった海外の食がある。長い時間をかけて取り入れ、江戸時代の平和が洗練させた。

「海外から最先端の菓子を取り入れ続けたのが和菓子の歴史です」。京都で200年以上続く和菓子店、亀屋良長8代目の吉村良和さんは言う。吉村さんの部屋に積み上がる史料は、和菓子のイメージを覆す。

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最近ではインターネットなどで新しい和菓子を販売するお店も増えてきました。「御菓子丸」の杉山早陽子さんはバーで学んだ野草を蒸留して香り付けする手法や、台湾ではドライフルーツとお茶を合わせるという話に触発されて新たなお菓子を考案しました。

台湾のギャラリーに招かれ、当地の茶と合わせて和菓子を出した経験だ。現地ではドライフルーツを茶に合わせると聞き、「日本の菓子の始まりはタチバナの実」という神話にちなんだ菓子を作った。かんきつを使い、形も果実にならった「鉱物の実」(上から2番目の写真)だ。「見た目だけでなく味や香りも一体でデザインすることで表現に幅や必然性が生まれる。食としてももっと楽しめる」(杉山さん)

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先日招かれた茶会でこのお菓子をいただきましたが、見た目や香りや味わい、そして食感などを五感で感じることで新たな世界を味わうことができました。

茶会で出された「鉱物の実」(筆者撮影)

このような話を耳にすると、老舗における「伝統と革新」という話を思い起こす方も多いでしょう。しかし、500年近い歴史を誇る和菓子の老舗である「虎屋」17代目の黒川社長は、この言葉を使わなくなったと言います。

「伝統と革新」という言葉は私も以前よく使っていたのですが、ここ十年ほど自分からは使わないことにしています。「革新」と言えるほど思い切ったことは果たしてどれくらいあるかと考えていたら、おこがましくてそんなことは申し上げられないと思ったからです。そんな大層なことの前に、今、目の前のお客様に喜んでいただくために何をするのかを考え、即座に実行していくことが大事です。それは必然であって、革新ではないと思うのです。

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瞬間瞬間の判断を目の前のお客様のためにし続ける。動く世の中の中でふらつかないように、まず自分から行動して変化していく。『臨済録』(入矢 義高 訳注/岩波文庫)には、以下の言葉が記されています。

諸君、時のたつのは惜しい。それだのに、わき道にそれてせかせかと、それ禅それ仏道だと、記号や言葉を目当てにし、仏を求め祖師を求め、いわゆる善知識(人々を導いて、悟りに至らしめる僧)を求めて憶測を加えようとする。間違ってはいけないぞ、諸君。君たちにはちゃんとひとりの主人公がある。このうえ何を求めようというのだ。自らの光を外へ照らし向けてみよ。

『臨済録』

「求心歇む処即ち無事」。せまる年の瀬の中で、この一年は「無事」であったかを自身に問いかけたいものです。

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※ タイトル画像は筆者撮影。

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