神話の研究とセンサーが生み出す新世界
ジョーセフ・キャンベルの神話の研究と、カンブリアサイクルの類似。神話のパターンから見える、新たな世界を生み出すために、ユーザーに必要な物語性について書いてみました。
ヒーローズテンプレート
すべての物語は、同じのパターンにそって描かれている。古今東西の神話の研究を通して発見された、その物語のアーキタイプのような内容がまとめられた『千の顔を持つ英雄』(ハヤカワノンフィクション文庫 ジョーセフ・キャンベル著 倉田真紀 斎藤静代 関根光弘訳)という本があります。
その内容を4分22秒で見ることのできるTED -Edの動画があります。
その中で、ストーリーの展開が円で表されています。
スタート地点は、時計の12時の位置です。そこから、時計回りに、物語が進みます。
1時:謎のメッセージを受け取る。
2時:新たな世界への賢者の導き。
3時:異界への旅立ち。
4時:様々な試練。
5時:最大の危機。
6時:最大の危機。
7時:危機に打ち勝ち、結果を得る。
8時:敵が降伏したり、もしくは別の驚異に追われたりする。
9時:日常に帰ってくる。
10時:主人公の成長。
11時:物語の謎が解き明かされる。
12時:変化した主人公にとって、日常は新しいものとなっている。
ハリーポッターの主人公も、ハンガーゲームの主人公も、ロードオブザリングの主人公も、同じだといいます。
これらは、あらゆる神話にも見られる物語のパターンで、多くの映画や小説でも、意図してかそうではないかは別として、同様の展開がとられているといいます。動画では、これをヒーローズテンプレートと呼んでいました。
カンブリアサイクル
このヒーローズテンプレートの円環をみていて、ふと気付きました。カンブリアナイトで共有している、カンブリアサイクルと似ていると。
カンブリアナイトおよびカンブリアサイクルの「カンブリア」は、生命の多様性爆発「カンブリア爆発」に由来しています。動物に目ができたことで、進化の多様性が後押しされたという説から、センサーというテクノロジーによって生み出された新しい眼によって、多様な課題を解決する多様なサービスが爆発的に生まれる時代をつくることを目的に、カンブリアナイトというイベントを主宰してきました。その中で、上記のカンブリアサイクル、を共有してきました。
このとき、スタートは下の日常部分です。データによって「みえる」、それを解析することで「わかる」、それにもとづき様々なな介入が「できる」、そして生活が「かわる」という円環です。
カンブリアサイクルとヒーローズテンプレート
ここに、先ほどのヒーローズテンプレートを重ねてみました。
ヒーローズテンプレートの上下を入れ替え、12時を下にもってきました。この12時の位置が、日常生活です。ここから始まります。
1時:データ活用する生活への誘い。
2時:各種センサーの導入された新たな世界への導き(価値訴求)
3時:データによって見えてくるこれまで認識できなかった日常の側面(異界!)
4時:見えたくないことも見えてしまう可能性(様々な試練)
5時:解析され自分と向き合う必要性(最大の危機)
6時:時に受け入れたくない課題がわかる(最大の試練)
7時:データ取得から解析までの一通りの結果を得る
8時:介入サービスにより課題との関係性に変化
9時:介入サービスを伴う日常が始まる(日常への帰還)
10時:生活自体が変化していく(主人公の成長)
11時:データとともに生活することの意義や価値が体験できる(物語の謎が解き明かされる)
12時:変化した主人公にとって、日常は新しいものとなっている
新たな生活にチャレンジすることは、ヒーローズテンプレートにのっとっている。ジョーゼフ・キャンベルも、そう行っていました。虎穴に入らずんば虎子を得ず。コンフォートゾーンから出て、試練に挑戦することで、新たなトレジャーを得る。
生活を変えるという物語
これまでの生活をちょっと変えるということも、大きな意味では、こうしたものなのかもしれません。新しい技術が世の中に存在していても、それを使う人がいなければ社会実装は進みません。
そして、社会実装が進まなければ、新しい技術やサービスを提供しようとする事業者は、継続的に活動することができません。自分たちの生活をちょっとずつかえていく。それは、どんな小さな変化であっても、ヒーローズテンプレートのように、自分と世界を変える、神話と同じ営みなのかもしれません、多くの人々の、無数の円環によって、世界は少しずつ変化していくのかもしれません。