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「私は男でフェミニストです」に学ぶジェンダード・イノベーション

この世界はバイアスにまみれてできている。バイアスを完全になくすことは不可能だが、自分のバイアスがほかの誰かを生きにくくしているとしたら?と思うと、なんだか居心地が悪い。今回は、「ジェンダード・イノベーション」というキーワードに注目し、ジェンダー平等を精神論だけではなく、イノベーションの機会として捉え直す可能性について考えたい。


ジェンダード・イノベーション

日経の記事に、「ジェンダード・イノベーション」というキーワードが何度も登場するようになった。次の記事では、「人工知能(AI)を使った企業の人材採用試験。性別への偏見などを排除して公平な選考ができると期待したのに、男性の評価ばかり高くなる不思議な現象が起きた。実はその原因は、AIが学習のために読み込んだ過去のデータだ。これまでの採用実績が男性に偏っていたため、AIも男性ばかり評価するようになってしまった」と紹介する。ニュートラルに見えるAIも、学習素材の情報の偏りの影響を受けてしまう。

さらにこの記事のなかで、専門家は「今後は男女の性差だけでなく、人種や性自認・性的指向、年齢など、様々な要素が絡み合う交差性(インターセクショナリティ)を重視した研究も増やしていく必要がある」と指摘しており、多様性に寄り添うことで、イノベーションの可能性がますます広がりそうだ。

不平等解決のイノベーションも続々

次の記事も、ジェンダード・イノベーションについて記している。記事の中では、「マイノリティーに対する不平等や差別を、イノベーション(技術革新)が解消するようになってきた。視覚障害者などが健常者と同じ場所でエンターテインメントが楽しめるようにしたり、乗り物の安全基準が男性基準で作られていることを見直したりする例がある」と述べている。

何より面白いのは、多様性への合理的配慮でつくられた機能が、エンターテイメントとして広がっていることだ。「この技術を使った新しい楽しみ方が広まりつつある。2023年11月公開の『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』では、映画内では明示されない妖怪の名前や登場人物の表情が音声ガイドで解説されることが口コミで広まった。そして音声ガイドを聞きに映画館を訪れるリピート客を生んだ」とある。

「私は男でフェミニストです」

いま、韓国でフェミニズムに関する面白い本が続々と出ている。そのなかでも「私は男でフェミニストです」は、なんともストレートに問題意識を表現したパワフルなタイトルである。韓国のチェ・スンボムさんが書いた自伝的な「男フェミ宣言」の本だ。ジェンダー平等について知識は持っていても、この本の生々しい家族親戚との間のジェンダーバイアスのエピソードを読むと、そういう経験が自分にもあったなと思い当たることが多い。つまり、男性も女性も、こういった幼少期からの原体験によって考え方のベースができあがっているので、どれだけ頭で知識を得ても、感覚的にずれてしまうことは消すことができないのだ。

この本の冒頭に、著者自身のフェミニズムに対する態度が反転するきっかけが語られている。大学時代の後輩男子に、著者が尋ねる。「男なのに何のためにフェミニズムの勉強をしているの?」と。すると後輩男子が「男だからよくわからないんです。学ばないと」と答える。このシンプルな会話のなかに、とても大事な視点が示されていると思う。「わからないから学ぶしかない」という真摯な姿勢であり、それは「すべき」だからではなく、「興味深く、面白いもの」だからだ

矛盾にあふれた世界に向き合おう

フェミニズムは男性社会への怒りではない。違いがマイナスに働いていることにお互いが気づき、その違いをプラスに働かせるためのイノベーションを起こすことなのだ。

必ずしも男フェミになる必要はない。性的マイノリティの理解者である「アライ」になってもいい。自分とは異なる特徴をもつ人たちの生きにくさをこの社会から取り除くためには、その視座から世界を見る人が増えることが何より必要だ。

勇気を持って、そして気軽に「矛盾にあふれた世界」に向き合うことを始めてみてはどうだろうか。いきなり周囲に宣言までする必要はないので、ためしに「隠れフェミニスト」を自認してみてはどうだろう。流れてくるゴシップニュースの多くが「イノベーションの対象」に見えてくるはずだ


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