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アート観光、産業観光を超える「STEAM観光」を生み出してみたい。

長島聡(きづきアーキテクト株式会社代表)

瀬戸内国際芸術祭、越後妻有大地の芸術祭。2022年は日本を代表する2つの芸術祭が行われている。共に、開催期間は4月から11月と長く、コロナ禍で縮こまっていた人々に、極上のアート体験を提供している。幸いにも、瀬戸芸は既に一部体験することができたが、残念ながら大地の芸術祭には出向けていない。なんとか時間を作って、一泊の旅に出かけようと思う。アートに合わせた上質な食と宿泊の体験。今からとても待ち遠しい。

こうした大規模なもの以外にも、アートや文化を軸とした観光が日本全国で行われている。私もそうだが、アート初心者にとっては、とても良い機会となっているにちがいない。身近に訪ねられる機会はないかと、アート観光、文化観光の情報を漁っていた時、もう一つの観光に出会った。産業観光だ。次世代の働き手の確保や地元産業の振興、地域との協調などを目的に、工場を公開するオープンファクトリーを開催する動きが全国的に広がり始めているというのだ。

郡山市では、市の体育館をメイン会場に、中小企業10社のオープンファクトリーをつなぐイベントが開催された。工場見学では、匠の技術の一端を垣間見ることができると共に、実際に手を動かして作業を体験できる。ものづくり好きの私にとっては、とても興味深い内容だ。体育館では57学科を持つ専門学校グループもブースを出展するという。思い切って参加した住民は、思い思いに大きな刺激を受けると共に、日本のものづくりの素晴らしさを実感したに違いない。

かなり以前より、地元客の注目を浴びて続けているオープンファクトリーがある。富山県高岡市にある能作の本社兼工場だ。建物に入った途端に目に入る鋳物造りに使う木型を生かしたインスタレーション(展示空間自体が作品)は壮観だ。しかも使われている木型は現役で、職人が時折やってきては、工場に持っていくのだ。思わず職人について行き、その使われ方を見たくなってしまう。もちろん望めば製造体験もできる。子供なら 500円で文鎮を作ることができるのだ。

食とのコラボも完璧だ。カフェで使われる器は、もちろん職人の作る逸品だ。銀色に光る錫製のプレートに生えるスイーツが出てくる。ショップには工場で作った食器や雑貨などが販売され、オープンファクトリー体験の感動を持ち帰ることもできる。その他に、幼稚園での出前型製造体験などもおこなっているという。「五感で触れてこそ、会社の価値が分かってもらえるとの信念がある」という能作専務の言葉には、ものづくりを次世代に継ぐ熱い意思を感じさせられる。

岡山県に日本最大級の蓄電池工場。ふと、こんなタイトルの記事に目が止まった。ただ、驚いたのは日本最大級とかそんなことではない。記事についていたイメージ図だ。「これは工場だろうか?」、これが頭に最初に浮かんだ疑問だった。でも、ネットで調べてみると、これは紛れもなく「パワーエックス」というスタートアップが本気で作っている「電池の量産工場」だった。このパワーエックスは、昨年設立されたスタートアップで、洋上風力発電所でつくった電気を運ぶ電気運搬船も開発している。

そして、このイメージ図はなんと妹島和世さんが手掛けられたものだという。金沢にある二十一世紀美術館の建物をはじめ、世界中の様々な建物を設計されている方だ。この工場は、新進気鋭のスタートアップと世界的建築家がタッグを組んで、魅せるために、そして体験するために作られた工場だったのだ。工場を生かしたインスタレーションと言っても良いのかもしれない。完成が待ち遠しい。

この工場が建つ岡山県玉野市は古くから造船業や塩業などが盛んな街だ。もし、この電池工場と、様々な業種の様々な大きさの工場がタッグを組むことができれば、「玉野市まるごとオープンファクトリー」を実現できると思った。最先端の電池工場、重厚長大の造船業、自然の恵みの塩業だけでも、なかなか面白い組み合わせになると思う。

さらに玉野市のもう一つの特徴は、瀬戸芸のメイン会場の一つで、国内外の方々に愛され続けている「直島」への玄関口、宇野港があることだ。アートと工場の掛け算ができるのだ。アートの「感性」と、工場の「原理原則」を交差する。美しさとメカニズムを行き来させて、脳をぐるぐる刺激したくなってきた。直島と玉野市を満喫する旅があったら、大人気になるのではないだろうか。妄想が膨らむ。

ここまでくると、アート観光や産業観光を超えて、STEAM観光を生み出してみたくなる。ひとりひとりのワクワクをよびおこすSTEAM教育の観光版だ。旅をする中で、いつの間にかワクワクがよびおこされる感じがいい。ある人は過去の記憶が呼び覚まされ、ある人は未来のきっかけをもらう。こんなことを起こしてみたいと思った。

ご存じの通り、STEAM教育は、科学:Science、技術:Technology、工学:Engineering、アート:Art、数学:Mathematicsの5つの領域を対象とした理数教育に、創造性教育を加えた教育理念だ。知る(探究)とつくる(創造)のサイクルを生み出す、分野横断的な学びだ。手を動かし、頭を動かし、ものづくりを改めて実体験する。次世代を担う子供たちにも、ワクワクをどこかに置き忘れてきた大人たちにもぴったりな観光になると思う。

さて、アート観光もそうだが、これまでの多くの観光は、建物や自然からなる空間やそこにある作品を見にいくことが多かったと思う。人々は、新鮮な刺激や魅力を追い求めて訪ねていく。ただ、念願かなって一度訪れると、次はどうしても別の場所に行きたくなる。それに対抗して、リピート訪問を実現するには、常に新たな刺激を加えていく必要があった。一過性のイベントで終わらせないためには、相応の投資の継続が求められてきたのだ。

STEAM観光なら、少し別の世界が描けるように思う。「学び」の本質が「深める」や「極める」だからだ。「学び」自体に継続というモチベーションがあるからだ。もっと知りたい、もっと試してみたい。こうした希望を叶える「場」さえ作れば、何度でも訪れてくれると思う。ものづくりに興味を持つ人が増えるし、職人の背を追いかける人すら出てくるかもしれない。

企業単独でのオープンファクトリー、科学技術館のような体験施設は国内外にそれなりの数ある。ただ、市がまるごとオープンファクトリーとなっている事例は、海外にも例がないと思う。工場という生の現場で、本気の仕事をしている場所で、プロのものづくりが学べる。しかも、伝統的なものづくりから最先端のものづくりまで多様なものづくりに出会える場所で、アートと交差する場所だ。ものづくり大国「日本」で、是非こんな場所を生み出したいと思った。

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長島聡(きづきアーキテクト株式会社代表)
由紀ホールディングス社外取締役、FS協会理事、慶應大学SDM特任教授、NDMA代表理事、工学博士。 早稲田大学理工学部助手、ローランド・ベルガー日本代表、同グローバル共同代表を経て、2020年7月きづきアーキテクトを創業。 https://kidukiarchitect.jp/