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地政学リスクに備える組織の作り方

企業から私たち経営コンサルティングに持ち込まれる課題は、世相を映す。去年から急に増えた問い合わせが、地政学である。

2010年代後半から始まった米中関係の悪化とともに、これまでその果実を享受してきたグローバリゼーションの大前提が揺らぎ始め、2022年、欧州ではまさかと思われた物理的な戦争まで起こってしまった。世界中に投資先を持ち、自由貿易を基本として戦略を作ってきた日本企業が根本的な戦略の見直しを迫られていることがその背景にある。

まず地政学シナリオと自社への影響を理解しようと、特に大企業では地政学リスクを専門とする組織を本社直属で立ち上げる動きが顕著だ。しかし、法務部や人事部といった既に定型のある本社組織とは異なり、「地政学組織」の運営モデルそのものに定まった答えがない。すなわち、この組織がどのような問いに答え、社内の実務とどう関わり、どんな人材が必要なのか、まだ手探り状態である。

ここでは、「地政学組織」の在り方について、先進的なグローバル企業をベンチマークしながら得たいくつかの視点を共有したい。

1. 独立させるか埋め込むか

にわかに増したその重要性から、「地政学組織」を独り立ちさせ、CEOに直接報告する形にしたいという要望をよく聞く。確かに、地政学関連の問い合わせに対する責任の所在としては分かりやすい。ただし、まっさらのグループを独立させることには危険も伴う。社内との関連が弱かったり、ブラックボックスになってしまったりするからだ。

反対に、既存組織に「地政学担当」を埋め込んだ形でうまく機能する例もある。例えば、Chief Strategy Officerが持つ戦略組織とリスクマネジメント組織の両方に「地政学担当」を置き、それぞれの組織内で地政学に関するインプットや考察を行う例だ。この場合、既にある社内の仕組みに地政学が常にフレーバーとして入ることになる。

埋め込み型の「地政学担当」が過剰に社内の論調に染まり、何かを見落とすリスクを恐れるのであれば、CEOには別に外部アドバイザーをつけて補うこともあり得る。

どちらが正解、不正解ではない。他のコーポレート機能とのバランスや人材の有無、解くべき課題の大きさから各社個別に判断が必要な視点である。

2. 平時と有事、中央と地域

地政学リスクは常にモニタリングが必要な一方、何かが起こったときは社員の安全確保はもちろん、事業撤退の判断を迫られるなど、喫緊に「有事モード」を発動しなくてはいけない。「地政学組織」はあくまでも平時対応であり、有事には違った組織対応をする必要がある。

従って、平時と併せて、有事にはどのようなタスクフォースを組むかを日頃から用意しておく必要がある。もちろん、平時のモニタリングが優秀であればあるほど、有事に際した手順が明らかになり、素早い行動が取れるだろう。

有事タスクフォースには、必ずリスクが顕在化した当該地域の代表が入るべきだが、平時から「地政学組織」がグローバル本社に閉じず、地域との連携を強く持つことをお勧めする。すべての地域レイヤーで「地政学組織」を作らないまでも、特に注視が必要な現地の情報を常日頃から正しく吸い上げるパイプが必要だ。

3.「地政学組織」リーダーの素質

地政学リスクの重要さは分かっても、個社の事業ポートフォリオに即した正しい問いを立て、知見と人脈を使って方向性を示すことは、かなり高度なスキルが求められる。「で、誰ができるんだっけ?」と、企業がはたと困る問題だ。

一歩先んじたグローバル企業を見渡すと、リーダーの類型は二つに分かれる。社外から元外交官やリスク専門家などの人材を採用する場合と、社内のジェネラリストを地政学専門家に育てる場合だ。もちろん、それぞれにメリット・デメリットがある。

最も際立つのは、社外採用の場合、その企業固有の事情に精通せず、また社内人脈に乏しいことがデメリット。逆に、社内から育てる場合は、その逆がメリットとなる一方でインテリジェンスを取るための社外人脈が欠けがちになる。

法務のプロや人事のプロはイメージがついても、地政学のプロにはまだ定まった人物像がない。純血主義が色濃い日本企業において、あえて外部人材を登用し、幹部の多様性を底上げすることは、検討に値すると考える。

これら3つの視点は「地政学組織」運営モデルにとって欠かせない。その一方で、地政学リスクを考えることは、本来トップマネジメントの本領であることを忘れてはならない。歴史の巨視的なうねりをつかみ、その中でみずからの産業の立ち位置を見極めることができれば、おのずと戦略の方向性が見えてくるはずだ。

リスクに備えるのみならず、能動的に次の手を考えるために、企業固有の「歴史観」が求められている。マネジメントは、歴史観を背景としてこそ、正しい地政学的な問いが立てられ、その解決を「地政学組織」に求めるライセンスが得られると言えるだろう。

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