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外国人技能実習生を現代の奴隷制度にしてはいけない

いつしか、日本で働くことは「薄給で奴隷のようにこき使われること」という認識が当たり前になってしまった。ブラック企業、社畜と自分たちを蔑むだけならまだしも、「Karoshi」という英単語として世界にまで広まっている。日本に学びに来る交換留学生の認識も同様、ネガティブである。彼らが日本で学びたいことのほとんどが「過酷な日本の労働環境」「自由のないキャリア選択」「搾取される日本の若者」などで、心が痛い。そして、彼らの認識が違うと覆すことができるような根拠となるデータが存在しないことも追い打ちをかける。個人レベルでは幸せを感じているかもしれないが、社会や国家といったマス・レベルで見ると、日本で働くことは幸せな人生に繋がらない。

そのような悪評の立つ日本だが、それでも日本の高度な技術を学びたいと、アジア諸国から技能実習生として来日する若者は多い。2018年の時点で、技能実習生は約28万5千人であり、2017年と比べて4%増えている。

しかし、外国人技能実習生の労働条件について、法令違反は後を絶たない。今治タオル工業組合では、下請け企業における違反行為が2008年と2019年と2度にわたって問題になっている。この問題は、中小企業だけではなく、大企業でもそうだ。三菱自動車にパナソニック、日産自動車と去年1年間だけでも違反行為が明らかとなった。労働基準監督署によると、昨年、技能実習生が働く事業所のうち、約7割で労働時間などの違反行為が確認されている。

なぜこのような法令違反が公然と行われ、常態化しているのだろうか。この問題について議論してみたい。

技能実習生の労働問題の原因は複数のパターンがある

外国人技能実習生の問題は、違反をしている企業を一括りにして批判や対策を講じても、現状の改善は見込めないだろう。その理由は、違反に至るまでのパターンが複数あって、それらを1つ1つ潰していく必要があるのではなかろうか。それでは、どのようなパターンがあるのか、仮説として考えられるのは5つある。


パターン① 良かれと思ってやったことが違反だった

これは、外国人技能実習生を指導するときに、指導内容が実習生のこれまで受けてきた教育や文化的背景では許容できず、パワーハラスメントとして捉えられてしまうパターンだ。

例えば、インドネシアでは、他人の頭を触ることはタブー視されている行為だ。ましてや、小突く、はたく、叩くといった行動は、軽度や冗談であっても許されない。そして、彼らの文化では子供は神性が宿るため、日本のような厳しい言動で叱咤する躾はあり得ない。そのような文化的背景を持ったインドネシアの若者に「郷に入りては郷に従え」と言っても理解されることはない。外国人を指導するときは、指導する側も行動様式を変える必要があり、それがダイバーシティ・マネジメントだ。

しかし、新人への教育方法が「できるまで何時間でもやらせる」「言ってもわからない奴は殴って指導する」という、高校野球の部活動のようなオプションしか持っていないとしたら、懇切丁寧に教えようと思ったことが労働時間違反やパワハラに繋がってしまう。要は、外国人の新人への教え方をスキルとして身に着けていないことから、生じる違反と言える。

東南アジアの海外現地法人に派遣されてくる製造業のエリート技能職ですら、日本の高校野球式教育を現地で行い、問題になるケースも多い。日本で訓練を受ける実習生のストレスは、母国でも耐えきれないと思う現地従業員の比ではないと言えるだろう。

パターン② 昔からのやり方が時代の変化で違反になった

技能実習生は、日本企業のグローバル化が本格化してきた1960年代後半から製造業の従業員の訓練制度として始まり、それが国際貢献と国際協力の一環として1981年に在留資格として創設されたという歴史がある。そのため、製造業では半世紀近く、技能実習生を受け入れてきた伝統を持っている企業も少なくない。しかし、長い伝統から指導方法や労働環境が独自のものとなってしまい、現行の技能実習生の制度と不整合を起してしまうことがある。

実習生を受け入れ始めた当時は、技能実習生の労働ルールの取り締まりが緩かったために、そこまで問題視はされてこなかった。そのため、従事する業務内容や労働時間が、実態として日本人と同じ扱いとなっており、時代の変化で法令違反になってしまった。しかし、時代が変わったといっても、昔からの慣習でやってきて問題が起きてこなかったために、社内のやり方を変えることを伸ばし、違反行為を放置してしまった。また、時代が変わったとしても、これまでやってきた方法を、そう簡単に変えられないと言っていた現場は多い。

パターン③ 昭和の指導方法を引き摺っている

3つ目のパターンは、「実習生」という立場に対する認識が法令違反に繋がってしまっていたケースだ。「教育を受ける人が、権利を主張するな。」「お金をもらって育ててもらおうなんて、社会はそんなに甘くない。」という価値観が勝ってしまい、そもそもの技能実習生のルールを理解していない企業の現場を目にすることがある。

これは、「教育」に対する感覚の違いだ。伝統的に、日本の価値観では「成人の教育」は自己負担で、過酷な環境に身をおいてこそ成長すると信じられてきた。そして、指導方法も徒弟制度的で、指導する個人の判断に委ねられるが多く、システムや制度として人材を計画的に育成しようとしている企業は少ない。このこと自体は、必ずしも悪いことではないが、少なくとも教育を受ける側にとって負担が大きいことに変わりはない。

そして、度が過ぎると、労働時間や業務内容などの法令違反に繋がってしまう。このパターンでは、企業や経営者としては実態を把握しておらず、現場の判断で法令違反をしてしまう点で、パターン①と異なる。パターン①は、ダイバーシティ・マネジメントの適切な知識とスキルのなさが原因となるが、パターン③はそもそもの技能実習生のルールを理解していないことが原因となる。


パターン④ 経営に余裕がなく、労働力として使ってしまった

ここまで見てきたパターン①~③は、違反している当人に自覚がなく(あったとしても、そこまで重大ではないと軽視していて)、問題行動に結びついている。これらのパターンが原因であれば、適切な指導や再発防止の施策を講じることで違反を防ぐことができる。しかし、パターン④と➄は違反していることを自覚していながら、それでも技能実習生を奴隷のように扱ってしまう。

4つ目のパターンは、経営状態の悪化が原因となる。違反していることはわかっているが、経営に余裕がなく、悪魔の囁きで「安価な労働力」として実習生を使ってしまう。「法令順守しろとは言うが、経営が大変なんだからそんなこと言っていられない」と自分を正当化して、社員や実習生のマネジメントは見ないふりしてしまう。「大人なんだから、自分のことは自分でしろ。文句を言わずに、目の前の仕事に打ち込め」と現場の疲弊を無視していることになるが、このパターンだと経営者自身にも余裕がなく、誰も正常な判断ができない状態にあることが多い。また、一時的な経営危機を乗り切ったとしても、1度外れたタガが戻らず、そのまま従業員や実習生に過酷な労働環境を強いてしまうこともある。


パターン➄ 植民地的な経営を当然だと思っている

最も問題が大きいのは、5つ目のパターンだ。違反だと理解し、尚且つ、違反であることを悪用してマネジメントをしている。

このケースは、海外現地法人のマネジメントでも同じ問題が見られる。経営者の価値観として、日本人が偉く、外国人は安価な労働力であり、同じ人間としてみなさずに見下してしまっている。例えば、昼食で外国人だけ粗末なものを食べさせ、懇親会や飲み会のような場にも日本人だけを呼び、外国人は差別する。住むところも、奴隷船のように狭い空間に押し込めて、衛生や健康状態にも配慮しない。相手の人間性を認めない、悪のマネジメントだ。

また、実習生を送り込んでくるエージェントにも問題があるケースが多い。安価な労働力として酷使することを前提として、パスポートを奪い取り、多額の借金を負わせ、働いて稼いだ給与を手数料として徴収する。そして、実習生は使い捨ての奴隷扱いが常習となる。

5つ目のパターンでは、エージェントや受け入れ企業が反社会的勢力と繋がっているケースもあり、社会の暗部となっている。このパターンを無くすためにも、一刻も早く、法整備や規制でルール作りを厳密化することが求められる。


これら5つのパターンに共通しているのは、どのパターンも現場で働いている日本人も過酷な労働環境で働いていることだろう。また、日本人がやりたくない仕事を外国人に押し付けてしまっている側面も無視できない。日本人がやりたがらない仕事が人手不足となり、それを外国人やシニア層、女性で補おうとする議論があるが、それは外国人やシニア層、女性を軽視し、人間性を認めていないことになるのではないか。

生産性の高い組織、従業員の倫理観や幸福度の高い組織の基本は、働くすべての個人の人間性を尊重し、敬意を払うマネジメントだ。そこには、日本人か、外国人かと言った違いは関係ない。外国人実習生に対して、法令違反をしている企業は、自ら生産性を貶め、組織としてのレベルを落とす自滅的な行動をしていると言える。

外国人技能実習生の問題は、残念ながら、国内外から人権侵害として批判されている。在日米国大使館からは、現代の人身売買として報告書が作成されている。多くの日本人にとって、自分には関係のないことではなく、日本としての品位が問われる一大事だ。

働くすべての人に対して敬意を払い、従業員の幸福度を上げることに尽力することは、経営課題として軽視して良い状態ではない。経営者と現場で働く従業員、すべての人々が問題として認識し、行動を改めることがなければ、日本は世界で最も人権を軽視する国というレッテルを貼られても不思議ではない。外国人技能実習生のマネジメントは、すべての働く人にとって共通の課題である。

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碇 邦生(大分大学)

大分大学経済学部の講師(人的資源管理論)をしています。採用や育成などのタレントマネジメント、地方創生・地方発ベンチャーなどの話題を中心に取り上げていきます。自動車メーカーやシンクタンクを経て、30代で大学教員とジョブホッパーです。 ※日経のキーオピニオンリーダーに選出されました。

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